Wabi-Sabi mind of lazare studio Alexandre Caton

グローブスペックスが惚れ込んだ ラザール・ステュディオのアイウェア

日本が世界に誇るアイウェアストア、グローブスペックス。同店の魅力を特集したSilver No.18の記事(https://silver-mag.jp/eyewear-with-heritage-story)をぜひ読んでもらいたいが、創設者でありオーナーの岡田哲哉(以下、岡田)の豊富な知識と目利き力が評価の大きな理由としてある。そんな岡田が「2022年に新たに出会ったブランドの中で最も衝撃的だった」と太鼓判を押すのが、2020年にフランスのリヨンで生まれたラザール・ステュディオだ。ヨーロッパ圏外での取扱店としてはグローブスペックスが初なのだが、そのこともまた同店と岡田がどれだけ信頼を得ているかを物語っている。グローブスペックスでの取り扱いを祝して来日していたラザール・ステュディオのデザイナー、アレキサンドル・カトン(以下、アレキサンドル)にアイウェア作りへの想いを聞いた。

ー岡田さんがアレキサンドルさんとラザール・ステュディオに出会った時のことを教えてください。

岡田:知人の紹介でお会いしたのですが、アイウェア業界人としては一際目立つようなアレキサンドルさんの風貌やファッションにまずは驚きました。ファッションセンスが良く、クロムハーツのシルバージュエリーなども身につけたタフで洒落ている男性という印象です。そんな彼がデザインするラザール・ステュディオのアイウェアは、パッと見では気づきづらい細かなディテールやヒンジに施された最先端の技術や素材など、見えない部分にこそこだわりが詰まっていました。「いかに長く大切に愛用させられるか」というテーマに対する彼の考え方は、これまでに無かった新世代のデザイナーの出現を感じさせるものでした。

ーアレキサンドルさんがラザール・ステュディオを始めた経緯を教えてください。

アレキサンドル:アイウェア業界に進もうと思ったのは18歳の頃でした。医療機器でありながら今ではファッションアイテムの一つでもありますし、一つのアイウェアを生み出すまでのプロセスやテクニックにも魅了されたんです。当時からクラシックなデザインやヴィンテージのものが好きだったのですが、それはアイウェアにおいても同様で。でもクラシックな要素にモダンさを加えた自分好みのアイウェアが世の中に無かったので、それなら自分で作ろうという思いでラザール・ステュディオをスタートしました。

岡田:アレキサンドルさんは前職で眼鏡屋を営んでヴィンテージアイウェアを多く扱っていたり、アイウェアの学校で講師を務めたりもしていたんです。また別のブランドでアイウェアデザイナーもされていたので、満を持して自身のブランドを始められたんです。

ークラシックなものになぜ惹かれますか?

アレキサンドル:クラシックとはある種完成されたデザインです。でも完璧だからこそその形で止まってしまっているとも言えますし、時代によって完璧なデザインも異なるのではないでしょうか。だから現代でものづくりをする立場として、自分が好きなクラシックに“今”の時代の空気感をプラスする必要があると思います。ラザール・ステュディオは1920〜50年代のスタイルを参考にしつつ、例えばエッジをシャープにすることでモダンさを加えたりしています。

岡田:例えばこのエックスブリッジは19世紀後半に生まれたデザインで、鼻に乗せて掛けるメガネです。1930年代に入ると鼻パッドが登場し、エックスブリッジは必要がなくなっていきました。でもアレキサンドルさんは、鼻パッドが付いているアイウェアにあえてエックスブリッジの要素も加えて、新たなデザインを生み出しているアイディアなども面白いです。

ーラザール・ステュディオのアイウェアは、手に取ってみると重量感がずっしりあるなと感じました。

アレキサンドル:最近のアイウェアはチタンを素材にすることで軽量化したものが多いですが、ヴィンテージのアイウェアの重量感が僕は好きなので、チタンよりも歴史があり重量感もある洋白という合金をラザール・ステュディオは素材にしています。洋白を使うことでアイウェアを“もの”としてかけていることを強く感じられますし、よりヴィンテージに近い風合いを出せるんです。

岡田:ラザール・ステュディオのメタルカラーは3種類の金属を調合して色のコントロールを行なっていますが、その配合比率を変えることで微妙な色味の違いを表現して繊細なカラーバリエーションとして使い分けているんです。さらには保護コーティングで質感や肌触りにもアイウェアごとの個性を出した上で素材を守っているんです。

アレキサンドル:つまり、ラザール・ステュディオのアイウェアは同じミックスの金属の配合比率で色味を変えているので、どれもラザール・ステュディオらしくギラ付きを抑えたシックな色味になっています。例えばグレーのものは冷たい金属色ではなく温かみがあったり、ゴールドのものはギラ付きを抑えて控えめな輝きだったりします。

ーヒンジにもラザール・ステュディオならではのアイディアが詰まっていると聞きました。

アレキサンドル:ヒンジはアイウェアの中で最も摩耗する部分なので、どうすればよりスムーズで長く使えるようにできるかを考えました。そのため独自開発した特殊なワッシャーを組み込むことで、繊細な動きへの対応と耐久性を持たせることができたのです。

岡田:実はラザール・ステュディオのパーツは日本のアイウェア産地である福井県の鯖江で作られているんです。アレキサンドルさんは前職で営んでいたお店で多くの日本産のアイウェアを扱っていたのですが、日本のものづくりがいかに優れいているかに当時から気づいていたのです。だから自身のブランドでも日本の職人とタッグを組むことは当然だったようです。

アレキサンドル:鯖江の職人の技術はとても精密で、細かなディテールを作り込む作業も手間暇をかけているんです。今では機械やレーザー光線でそのような作業を済ませてしまう工場も多いのですが。素材に使っている洋白も扱える工場が世界的に減ってきていますが、鯖江の職人たちは伝統と経験を受け継いで今も対応することができるんです。

ー「侘び寂び」の精神にも影響を受けていらっしゃるそうですね?

アレキサンドル:若い頃からアンティークやヴィンテージのもの、味わい深くて長く愛用できるクラシックなものが大好きでした。だから「侘び寂び」という言葉を初めて知った時は、それまでの私の生き方そのものを表しているなと感じましたし、すっと理解することができました。
安くて雑に作られらものを買って2週間ほどで飽きて捨ててしまうようなことは本当にナンセンスです。1つの良いものを長く使いたいという想いは全ての人が本来は持っているのではないでしょうか。長く使うと愛着が湧きますし、個人的な付加価値がどんどん付きますよね。それを実現するためには品質の良さが不可欠ですし、ラザール・ステュディオもフレームや摩耗の激しいヒンジを独自技術で耐久性を持たせています。
また今回のコレクションは特に“侘び寂び”をテーマにしていて、フレームの表面処理はシルバーをベースにその上からブラックゴールドをコーティングしています。すると使い込むことでシルバーのコーティングは徐々に剥がれていき、人それぞれの使い方によって異なる色と経年変化を楽しむことができます。

岡田:彼が話している加工技術は普通のメッキ加工だとなかなか難しく、どちらかというとジュエリーアクセサリーなどに見られる技術です。そんな加工技術をしているアイウェアはほかに見たことがないぐらいです。

ーデザインはフランスのリヨンで、パーツ作りは日本の福井県鯖江で、パーツの組み立てと最終調整は再びリヨンでされているんですよね?日本でパーツ作りをする理由を教えてください。

アレキサンドル:日本の職人の金属加工技術は世界でもトップレベルです。例えばプレス加工は今も80歳の職人が現役でされているから驚きですし、その技術を後世にも残していかなければと思っています。ブラックのフレームにしても、伝統的な製法でクリスタルのような輝きと透明さを持ったブラックを生み出してくれます。だからパーツ作りは日本の技術を信頼して依頼しています。そのパーツをフランスのリヨンに持ち帰って組み立て、最終調整して形になるんです。

ヴィンテージとモダンのバランス感、フランスと日本のそれぞれの伝統技術の融合。アイウェアに関する膨大な知識と経験をアレキサンドル・カトンは持っているからこそ、それらを組み合わせて生み出されたラザール・ステュディオのアイウェアはグローブスペックスの岡田さえも唸らせている。その核にあるのはアレキサンドルが強く影響を受けている侘び寂びの精神であり、「いいものを長く大切に使いたい」というピュアな欲望だ。アイウェアは視力を補強するツールであり、自分のスタイルを表すアイテムでもある。どの一本をかけるかで印象を大きく左右するからこそ、ラザール・ステュディオのアイウェアを選ぶことは間違いのない選択になると納得させられた。

Photo Taro HirayamaEdit Yutaro OkamotoSpecial Thanks Globe Specs

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