ART & CRAFTS Pottery SATORU HOSHINO

半世紀にわたり 土と対話して辿り着いた形

Width 450mm Height 440mm Depth 440mm

一つ一つの窪みが呼吸しながらうごめいているような生命力を感じさせる作品。手掛けたのは、土と身体の関係性の中で陶芸表現の可能性を半世紀以上に渡って追求してきた星野暁だ。本連載ナビゲーターの南貴之は、星野の作品の魅力をこう語る。「素材との誠実な対話と造形への信念が交差した星野さんの作品は、土という素材が持つ原始的な素朴さと、それに刻まれた強い手の痕跡が共存し、変化の過程そのものがかたちとして立ち現れたような、そのプロセス性に圧倒されました。作為を超えた、自然との共生を感じます。星野さんが語られる『土と身体の対話』というテーマを追体験できるような感覚になり、流れる思考や生命を分かち合うような力を感じて惹かれました。星野さんの作品には、土という素材と身体の対話を通して、自然と人間の関係そのものを問い直す力があると感じます。それは単なる陶芸というジャンルの内にとどまらず、生きることやつくることの根源に触れるものなのではないかと。私自身、日々の仕事の中でかたちを生み出すプロセスに向き合う時、どうしても効率や機能にとらわれがちですが、星野さんの作品はそれらを超えて、根源的な創造行為の在り方を示してくれるように思います。クラフトが持つ生活との結びつきと、アートが持つ精神的な探究がひとつに溶け合っているところに、かけがえのないオリジナリティを感じます(南)」。

Left
作品を俯瞰から覗き込んだ景色。粗い土を指で幅広く大きく掻き、その断片を螺旋状に凹凸を激しく繋ぎ合わせて形作っている。
Right
土のテクスチャーが残る断片の一部。星野が独自に生み出した釉薬「春雪釉」を厚く掛け1270°で酸化焼成し、釉が溶けて流れるよう焼き上げている。雪国育ちの星野が地元で目にしたという、冬の晴れた日に見える青空と新雪の混じり合った景色を表現している。

星野は日本の戦後前衛陶芸を代表する走泥社のメンバーとして活動。「土との対話=自然と人間の共生」をテーマに、土の可能性を模索してきた。これまでの制作を振り返りこう話す。「1986年大雨による山崩れという自然災害を体験し、土に対する見方が変りました。土は単に作品を作る素材ではなく、自然そのものとして注視し、受け止めるべきものとなりました。土には土の生命とエネルギーが備わっており、それとの共存・共生という認識なしには一歩も近づけない存在。言い換えれば土=自然は地球上に生命の体系として存在し、自分もその体系の中で生きていると実感してはじめて、土=自然と人間との交感が可能になると。そして土は私にとって世界と繋がる媒体、世界に分け入る門であるとも感じられました。さらにそこは本来の身体が躍動する場所であり、混沌とした泥の海から新たな秩序(かたち)が生まれる場所に身をもって立ち合うことであると考えました。土の塊を一握りつかみ取り、それを指で一押しするところから再出発しました。アイディアに替えて、身体を無媒介に土にぶつけるという原初的な行為を通して作品を生み出そうとしたのです。土は直接手でかたちづくることができ、ほかの素材のように道具や機械を使わなくとも、無媒介に身体を介入させかたちを作ることができる素材です。新たな形を探求するために、陶芸の原点に遡り、もう一度記憶をたよりに自分の手で陶芸を再構築しようとしました。子どものように土と戯れ、形が立ち上がってくるようなイメージです。これまでの陶芸の歴史を相対化し、もう一つの陶芸の道を自らの手で探ってみようと思ったのです。地面に付けられた泥土の足跡や焚火で焼け固まり、水に溶けなくなった土くれからのインスピレーションで焼き物が発明されて以来、今日まで数え切れない焼き物が人間の手で作られてきましたが、その美しい滑らかな肌の下にこれまた夥しい陶工達の指跡が隠れていることをみな忘れています。私の再出発の原点はこの指跡の記憶だったと言えます。そこから柔らかい素材、半流動体としての粘土でどう形を立ち上げて行くか、そこで螺旋構造に改めて出合ったり、避けられない土の揺らぎや高温で熔ける釉薬をどう可視化してゆくかなど、次々出てくる問題と向き合ってきた訳です」。1970年代から土に向き合い続けてきた星野。彼が見る景色は常人では辿り着けない境地にあるが、話している内容は自然と理解ができる。人類の歴史と深く結びついている土だからこそ、その記憶はDNAに刻まれているからだろうか。懐かしく、新しい。そんな感覚にさせてくれる星野の新たな作品が待ち通しい。

星野暁
1945年生まれ。土との対話をテーマに、自身の身体性を用いた作品づくりを行う。日本の戦後前衛陶芸を代表する走泥社のメンバーとしても活躍し、現在も日本陶芸界の先陣を切って精力的に活動している。

南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。今年1月にはアムステルダムに支社を作るなど、海外での活動にも力を入れている。

Select  Takayuki Minami
Photo  Shono Inoue
Interview & Text  Yutaro OkamotoSpecial Thanks  Nonaka-Hill Galley

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