ART & CRAFTS Wood Sculpture IDO YOSHIMOTO
木の個性を読み解き 新たな物語を与える作品
100年ほど前に伐採されたレッドウッドの切り株をスツールにした作品。炭化した木目は、素材となったレッドウッドが山火事か野焼きで焼けたからだとイドは話す。焼け跡を生かすことで、その木が歩んできた半生が作品のストーリーにも重なる。
大胆かつ緻密なバランス
何百年もの時を経て、成熟した大木の一部を切り出したような木工彫刻。荒々しく剥き出しとなりながらも、穏やかさを感じさせる炭化した木目と、平面に削り出して磨き上げられた木目の美しい木板の組み合わせ。その2つが同じ“木”という素材でありながら互いの美しさを引き立て合っている。手掛けたのは、サンフランシスコから車で1時間ほどの距離にある自然豊かな町、インヴァネスを拠点に活動するウッドアーティスト、イド・ヨシモト。草月会館での個展も記憶に新しい。本連載のナビゲーター南貴之もイドの作品に魅せられた1人。個展に足を運び、一目惚れして今回紹介するスツールを手に入れたようだ。南はイドの作品をこう評する。「まるで木の方から『この形に切り出したらいいんだよ』と語りかけてきたのかと錯覚するほど、有機的で美しい自然なフォルムです。素材の特性を熟知しているからこそ、大胆かつ緻密なバランスを計算できるのだと思います。イドさんと出会ったのはもう何年も前のこと。中原慎一郎さん(コンランショップジャパン代表)がインヴァネスの宿を紹介してくれたことがあり、そのときに現地で案内してくれたのがイドさんでした。彼が何をしている人なのか前情報はなかったのですが、とても感じの良い方ですぐに仲良くなりました。当時彼のアトリエはJBブランク(北カリフォルニアを代表する彫刻家。イドの名付け親でもある)のアトリエの敷地内にあり、制作風景も見せてくれました。イドさんの作品に強烈な迫力がありながらも、優しい雰囲気があるのは本人の人間性の表れだと思います(南)」。
アーボリストとしての知見
イドは木工作家となる以前はアーボリスト(樹木管理のスペシャリスト)として活動していた。その経験があるからこそ、素材となる木の個性を読み解き、南が言うように“有機的なフォルム”として表現できるのだ。「私は小さな湾と太平洋に挟まれた森の町インヴァネスで生まれ育ちました。自然に恵まれ、潮の満ち引きや霧、季節の微妙な変化を日々体感する生活を現在も送っています。そうして育ったことで観察力が養われ、自然界で起きることに同調できるようになりました。若い頃、地元の樹木会社でアーボリストとして働く中で、古い木や危険な場所にある木を伐採するうちに、その木がどのように成長し、実は木の内側にこそ美しさが詰まっていることを知るようになりました。全ての木にはそれぞれの物語があり、理解することで素材としての価値を生み出せると思ったのです。そのように考えながらアーボリストとして20年近く過ごしていった中で、徐々に木工彫刻を作るようになっていきました。アーボリストは生きている木を刈り込みますが、木工作家は生命を終えた木を彫る。どちらも私にとって通ずる部分があります。いずれにせよ木や木片にとって最善になることをしたいのです(イド)」。
彫刻的であり機能的でもある
木の声を聞き取り、それぞれの個体にとってベストな形を新たに与えるイド。木との共同作業とも言えるその創作活動で大切にしていることは何なのだろうか。「バランスを見つけることです。素材の声と私の手が組み合わさることで、調和の取れた新たな出会いが表現されることを目指しています。彫刻的であることと機能的であることのバランスを調整し、『これはなんだ』という好奇心を誘う作品を作っていきたいと思っています(イド)」。人間の生活において欠かすことのできない木材。イドの木工作品は、生活道具として機能的であるためにクラフト要素を入れつつも、生活に美を与えるアート彫刻としても成立する。それはまるで持ち主の生活に根を張り、さらに成長し続けていくかのようである。
イド・ヨシモト
北カリフォルニアのインヴァネスを拠点とする木工作家。アーボリスト(樹々管理のスペシャリスト)として働いた後、木の個性を生かした木工作品を制作発表するようになる。
南貴之
アルファ ブランド コンサルティング代表。企業やブランドが抱える課題に対し、戦略設計からビジュアルや言語表現、コミュニケーション戦略の構築までを行う。
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