Dialogue between material and environment Acne Studios × Takuro Kuwata

素材と環境との対話が生み出す 桑田卓郎が表現するアクネ ストゥディオズの形

鮮烈な色使いと「梅華皮」や「石爆」といった伝統技法を用いながらもリズミカルなフォルムによって陶芸を現代アートの領域まで昇華させた桑田卓郎。ロエベクラフトプライズを始めとした数々の賞を受賞したほか、国内外の様々な美術館に収蔵される彼の作品。そんな彼と1996年にクリエイティブディレクター、ジョニー・ヨハンソンによって創設されたアクネ ストゥディオズとのコラボレーションが発表された。アクネ ストゥディオズ史上最大の旗艦店となる青山店のオープンを記念して実現した本コラボレーション。ファッションと陶芸という一見遠い関係性も思える両者を桑田はどのように表現したのか。独創的な彼のクリエイションの原点から今回のコラボレーションが実現したきっかけまで、桑田本人から話を聞いた。

自分の感覚を信じること
から始めた作品作り

7月某日オープン直前のアクネ ストゥディオズ青山。取材のために2階のソファに腰をかける桑田は、その独創的な作風とは裏腹に柔らかな雰囲気を持った人物だ。今までの陶芸には見られない個性的な釉薬使いに鮮烈な色彩が特徴の彼の作品。伝統技法との融合により生まれた陶器はロエベ クラフトプライズなどをはじめとした数々の賞を受賞し、世界的な評価を得ている。唯一無二の彼の作風はどのように生まれたのか。

「小さい頃から絵を描くのが好きで芸術大学に進学したのですが、手を動かして何かを作りたいと思い、工芸科に入ったことが陶芸との出会いでした。そこから財満進先生に弟子入りし、陶芸への理解を深めていきました。先生は山の土を掘ったり、釉薬の原料である木灰の制作から作品作りを始めたりと素材との対話をとても重視されていて、そこで学んだ感覚や考え方が今の制作の基礎になっています。財満先生から学びを得て作った当時の陶器は確かに成長を感じる仕上がりでした。しかし、僕が陶芸を始めた20年前はまだ若い方々に陶器が浸透しておらず、自分が作った作品が同世代から評価されないことへのジレンマがありました。特に自分の周りはDJやダンサーなどブラックカルチャーに傾倒している友人が多かったので感覚の差があったんだと思います。また、当時の登記を販売する多くのギャラリーやお店は年齢層が高く、そうした人に合わせた作品を作ると自分の感性とのズレが生まれる。それが今の作風に至るきっかけになっていきました」。

アクネ ストゥディオズ 地下1階に展示されている桑田の作品たち。ピンクの花崗岩で囲まれた店内と融合し、不思議な世界観を演出している。
陶芸と現代アートの出会い

財満氏への素材と向き合う考え方への面白さは感じながらも、当時の陶芸への認識と自身の感覚のズレを感じた桑田は、自己表現の追求を始めた。師匠 財満氏から独立後は陶器産業の一大拠点である岐阜へと活動拠点を移し、現地の作家や研究者たちとの交流を深めていった。陶芸としてだけでなく現代アートとしても評価を得る桑田の作品だが、そこには陶芸家から現代アーティストまで幅広い人々との対話がきっかけになっていた。
「現代アートとして自分の作品が取り扱われるきっかけになったのは小山登美夫ギャラリーへの所属がきっかけでした。僕は陶芸家としてはかなり自由に制作をしていると思っていたのですが、展覧会に向けてオーナーの小山さんと展示作品について相談した時に『なんでもいいよ』と言われ、現代アートの自由さに圧倒されてしまったんです。正解が見つけられず困っていたのですが、陶芸の世界から作品作りを始めた自分が現代アートを意識したものを作ってもしょうがないと思い、自分が今まで制作してきた陶芸を見つめ直そうと対話を始めました。対話を通して自分の中から自然と湧き出るものを無理なく表現するのが自分の中でやりやすい方法だと気付いたんです。陶器作りは素材との対話から始めていきますが、作品作りにおいては周りにいるアーティストの方々やディレクター、展覧会にきてくれるお客さんなど、環境との対話によって自分以外から生まれてくるアイディアがとても良い刺激になっています」。

アクネ ストゥディオズと桑田によるコラボレーションはデニムから、バッグ、器まで多岐に渡る。どれも桑田の作品のモチーフに見られる鮮やかな色使いや釉薬での表現技法が再現され、両者の個性が生かされたアイテム展開になっている
対話によって発展した
アクネ ストゥディオズとのコラボレーション

今回のアクネ ストゥディオズとのコラボレーションでは自身の工房で作られた陶器の他に、デニム、バッグなど多彩なアイテムが特徴だ。一見陶器とは遠い存在にも思えるアイテム展開だが、そこにも対話から生まれる新しいアイデアがあった。
「コラボレーションが決まった時は器を作る予定ではなかったんです。ただアクネ ストゥディオズチームとコミュニケーションをとる中で、話が広がっていき、器の制作やアイテムのデザインが決まっていきました。決まった枠の中で作るのではなく、対話の中からアイテムもデザインも決まっていったんです。デニムも、僕が器の作品表現でも使うブツブツをつけたベースデザインを送ると、すぐにスタッズをあしらったアイデアが戻ってきたりと、アクネ ストゥディオズチームのブラッシュアップとストレスのないスピーディーなやり取りにはとても感謝しています。今回のコラボレーションアイテムの中で、唯一自分の工房で制作したのが器なのですが、シルクスクリーンの技術を使用し、デニムの質感を再現、色の違う釉薬を塗ることで表情の違う2種類の器にしました。器にシルクスクリーンを使用するのも、今拠点にしている岐阜で生まれた量産技術の一つなんです。素材をはじめ、様々な人との対話から生まれた表現が集まった僕らしいアイテムに仕上がっていると思います」。
素材との対話から自身の作品を意識したもの、環境との対話から陶芸を現代アートにまで昇華した桑田。アクネ ストゥディオズのブランドヒストリーに触れることで彼の作品は新たな表現を得たように、これからも彼は周囲からの影響を吸収し、陶芸という形に落とし込むことで進化を続けていくのだろう。

今回のコラボレーションアイテムの中で唯一桑田の工房で製作された2種の器。シルクスクリーンの転写シートを手作業で貼り付け、乳白釉と透明釉を使い分け焼かれている。生地には工房にあった桑田の作品の破片を原料として練り込むなど、彼らしいアプローチが盛り込まれている。

桑田卓郎
伝統技法と大胆な色彩、釉薬を用いた質感表現を得意とする現代アーティスト/陶芸家。陶芸の枠を超えた作風はロエベクラフトプライズ 特別賞、日本陶磁器協会賞の受賞のほか、金沢21世紀美術館、メトロポリタン美術館への収蔵など国内外から高い評価を受けている。

Photo  Naoto UsamiEdit  Katsuya Kondo

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