Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi
野口強の写真集連載 Part3 ギイ・ブルダンの構図
対極にあるような強い写真
野口強
“花”、“ポートレート”と続いたこの連載だが、3 回目となる今回は、“ファッション写真”をテーマに話を聞く。洋服をどうしたら良く見せられるのか。見た人にインスピレーションを与えられるような写真はどう撮れるのか。感情を揺さぶるような写真とは。ファッションブランドやメディア、クリエイターたちがそうしたことを考えながら、試行錯誤して日々世界中で生まれ続けているファッション写真。スタイリストである野口もまさにこのファッション写真の表現において長年尽力してきた人物である。 野口に「いいファッションフォトとは何か?」と聞くと、「人それぞれ見る人によって好みがあるからなんとも言えない。ただ、ファッション写真に重要な構図という点においていえばギイ・ブルダンは知っておくべき写真家」と答える。今回は、後世のファッション写真に強い影響を与え続ける巨匠ギイ・ブルダンの話。
「今の日本のファッション写真を見ると、単調な写真が多いように思う。勿論、フォトグラファーとモデルにおけるコミュニケーション上の言葉の壁もあると思うけれど、海外のベテランフォトグラファーの作品と比べると、強い写真という点において大きな差を感じるね。最近は若い子が雑誌を買わないと言われるけれど、そりゃ買うわけない。なぜなら、雑誌を見ても普通というか、目にとまるページが少ないから。『必ず、自分のページで手を止めてやろう』という作り手の気持ちが弱い気がする。カタログみたいな写真が多くて、誌面を切り取って部屋に飾っておきたくなるような写真がないから。そういう部分で、お手本になる写真家がギイ・ブルダンだと思う。被写体の切り取り方を徹底的に計算し尽くされた構図の写真を見ると、彼がやっていたことはフォトグラファーでもありアートディレクターとも言えるよね。この人の写真はあまり残っていなくて、ほとんどがシャルル・ジョルダンの広告写真かヴォーグ パリのエディトリアルなんじゃないかな。シャルル・ジョルダンのシリーズも背景と脚と靴だけで構成したその印象はすごく強い。最近のファッション写真とはまったく対極にあるよね。この写真(上部参照)も上半身トップレスで電話持っていて、コードが股間に食い込んでいるという……。こういうストレートな表現は、日本人にはなかなか出来ない。その上、表情や腕の角度、ヘアスタイルまで細部にまで拘りが見える。何がすごいって、この頃はデジタルじゃなくてフィルムの時代。だからこそ、撮るまでの準備がとにかく大変だったという話を当時、ギイ・ブルダンと一緒に仕事をしていたモッズヘアの田村哲也さんから聞いたことがある。モデルだってここまで追い込まれるような撮影に耐えられる忍耐もすごいし、ヘアに対しても細部まですごく指示をしたようで。相手も追い込むけれど、その分自分もかなり追い込んで 良い瞬間がきた時にシャッターを押したんだと思う。だからこそこういったクオリティの高い仕上がりの写真になるんじゃないかな。自分も含めてそうだけど、仕事をしていてもどこかで『この感じで良いんじゃない?』っていう風に進めてしまう時がある。でも、ギイ・ブルダンの写真を見る度に、『あ、やり直さないとな』と思わせてくれるんだよね」。
野口強
1989年からスタイリストとして長年、国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌をはじめ、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも写真集は状態が気になる為に書店で購入している、という。
Photo Masato Kawamura | Edit Takayasu Yamada |