voice of nature [part 1]

受け継がれてきた品から、現代の洋服まで 素朴で温かみのあるモノたち

プリミティブなアイテムとは何かを考えた時に、自然と向き合った素朴なものづくりが答えだった。環境を少しでも良くしようと意識したモノ。自然の素材を使用して人間の手から生み出される温かみのあるモノ。受け継がれてきた品から、現代の洋服まで、世界中からプリミティブをテーマに素朴なモノを集めた。そうした自然を意識したプロダクトたちは、側に置いたり、身につけることで人生がきっと豊かになるはずだ。

¥49500 by Tukir (Tacca)

Day Dress
​リネンとコットンの天然素材が肌心地の良いこのシャツは、素材だけではなく、現代では存在すら珍しいションヘル織機を使用したことも風合いの良さに繋がっている。モーターなどを動力とする高速自動織機が普及する1960年代ごろまで使われていたションヘル織機だが、この生地が織られた尾州地方には今でも僅かに残っており職人の手によって大切に受け継がれている。素早く、均一な編み地を生み出すのに最適な最新式の高速自動織機に比べ、ションヘル織機は縦糸の間を横糸を持つシャトルが比較的ゆっくりと往復をして編んでいくことから、糸の張りが強くなり過ぎることなく手編みの感覚に近い優しい風合いに仕上がることが特徴である。加えて、無染色のまま仕上げられている為、環境に良いだけではなく生地本来の色味を存分に楽しむことができるのも心地良さに繋がっている。これは何度か着用して洗濯を繰り返したものだが、使ううちにでこぼことした生地表面の質感が現れてきて、身体に馴染んでいく。そうした経年変化によって服本来の魅力が現れたときこそが完成。まさにそれこそが、トキが大切にする服のコンセプトなのである。

Height 253mm Shell Diameter 180mm ¥28000 (FUCHISO)

Old Jug
日々使う道具に求められるのは、作り手の作為が前面に出た華美なものよりも、素朴な見た目で長持ちできるものだろう。それは作者が有名無名関係なく、道具としての機能や使いやすさを高めようと努力する職人魂があってこそ生み出される。不思議なことにそうやって無心に目的を持って作られる道具には、芸術的な美とはまた違う、“用の美”が宿るのだ。その素朴な美しさに気づかせてくれたのが、今から100年ほど前にウクライナで作られたとされるこの壺。ろくろ挽きで形作られた陶器で、作為や意図を感じさせない若干の歪みや、枇杷色(ビワイロ)の中に緑が垣間見える窯変、生活の中で使われた事による黒ずみの経年変化などが結果的に個性となっている。鼻を近づけると陶土に染み付いたミルクの香りさえ今も残っている。壺の表面は口縁周辺までにしか釉薬が掛けられていないのは、当時釉薬は貴重な資源であり、液体物の容器として必要最低限の部分にしかコーティングできなかったから。限られた資源の中で工夫して作られた生活必需品として十分に役目を果たしたこの壺には、作り手の情熱や使い手の記憶というピュアな人間らしさが詰まっている。

¥55000 (JANTIQUES)

Old Mexican Rug
赤や黄色、緑に黒など鮮やかなカラーリングが目を惹く40~50年代のメキシカンラグ。このカラフルさの理由は、国境がまだなかった時代に様々な部族や文化が混じり合い、ラグの色使いや織り模様もどんどん組み合わさっていったからだと言われている。例えば赤一色にしても、よく見ると徐々にグラデーションがかかっている。伝統的なチマヨ柄も一際細かく、フリンジの編み込みも繊細だ。織り機を使って手織りで編み込んでいると思うと、一体どれほどの時間と労力が費やされているかと感服させられる。それほどの情熱が込められているのは、ラグのウールやフリンジのコットンなどの限りある貴重な天然素材を活かし切り、様々な場面で使える丈夫なものが生活必需品として求められたから。だから“ラグ”と呼ばれつつも、壁にかけたり、テーブルに敷くこともできる万能な厚さになっている。60~70年代にポリエステルなど化学繊維が導入されたことでお土産品としての大量生産が可能となり、単調な織りや発色のものが増えていった。だからこそ、柔らかな発色による天然素材の深い美しさやブレさえある手織りの人間らしさに心の安らぎを感じるのだろう。

Full Length 120mm Blade Length 48mm Blade Width 16mm ¥22000 by AVM (AVM DESIGN ROOM)

Deer Antler Butter Knife
日本本土の東の果て、今も手付かずの大自然が残される北海道根室市。この地で静かに、しかし確固たる意志を持ってジュエリーを作るのがアームの古川広道。東京から移住し、今では根室の自然の景色や匂い、そこに生きる動植物の命に日々触れ合いながら、趣味のフライフィッシングなどを楽しんでいる。それはもはや、「自然への憧れではなく、自然の一部へと自分が組み込まれる感覚」だと彼は話す。地に根ざした民族的アプローチからジュエリー作りをする場合、まずは身の回りにある硬い素材を探すことから始まる。そうして根室に住む古川が指輪を作るために見つけたのが、同地に多く生息するエゾジカの角だが、集めた角の中でも指輪作りには適さなかったものもある。その使い道を考えた末に生まれたのが、このバターナイフ。一頭ごとに異なる角の形と個性を見極めて手作業で削り出した流線や、プラスティックとは違う天然素材ならではの奥行きある乳白色が美しい。人の心を感動させるものづくりは、なにも大それたことをする必要はなく、作り手が日々生きる環境に向き合うという自然で素朴なきっかけさえあればいいのだ。このバターナイフは、アーム取扱店舗またはウェブからの問い合わせで購入可能となっている。

Made in 1950’s [Reference Item] by Artek (SNORK)

Stool 60
北欧の賢人と称される建築家アルヴァ・アアルトがスツール60を生み出したのは1933年のこと。当時はモダニズムやバウハウスなど合理主義が世界的に流行し、スチールパイプが椅子作りの基本素材だった。しかしアアルトは故郷フィンランドの豊富なバーチ材を使い、その無垢材を特殊な技術で曲げて強度を上げた“アアルトレッグ”を生み出した。スツール60は3脚のアアルトレッグと円形の座面のみで構成されたミニマルなデザインで、スタッキングを可能とする合理的な仕組みだ。世の中には数えきれないほどの椅子があるが、これほど最低限の機能とデザインで成立したものはないだろう。空間を選ばない普遍的なデザインに加え、ついつい腰を下ろしたくなる丸太のような存在感もある。シンプル故に使用者自らの手でオーバーペイントして色をカスタムするのも魅力の一つだが、経年変化で深みを増していくフィンランドバーチ材のプレーンな一脚が今の時代には心地良い。スツール60の後世への影響は凄まじく、かのイームズ夫妻は成型合板の技術を応用した家具作りを発展させ、バウハウス派のデザイナーはそれまでのスチール製品を木材で作り直すに至ったとも言われているほど。

Height 350mm Width 300mm Depth 60mm [Reference Item] by goro’s ※ほぼ同じサイズの現行品Mサイズは¥143000

Deerskin Bag
「魂を込めたものづくり」という表現がゴローズほど素直に言い切れる存在はそうないだろう。“ゴローさん”の愛称で親しまれた創設者の故髙橋吾郎は、幼い頃からネイティブアメリカンに憧れ、何度も渡米してはサウスダコタ州を拠点とするラコタ族と交流を深めてきた。中でも伝説として語られるのが、4日間飲まず食わずで大地を踏み鳴らし、最後には自分の胸にイーグルの爪を突き刺して皮膚が引きちぎれるまで踊り続け、大自然の神秘と対話するラコタ族最大の儀式“サンダンス”を乗り越えたこと。日本人初のネイティブアメリカンとして認められ、自然や大地と調和する精神を宿したゴローさん。そんな彼のものづくりの起源はレザークラフトにある。60年代からは鹿革バッグを作り始めたが、これはしなやかさと丈夫さを備えた鹿革をバッグや衣類のような生活必需品として使っていたラコタ族の影響。今回撮影したバッグは20年間愛用されて赤茶色から経年変化により黄味がかってきたものだ。使い込むごとに痩せた革の部分はゴローズが補強し改良してくれて、ものへの感謝の気持ちを忘れさせない。ゴローさんの魂が込められたゴローズのアイテムは、自信や勇気を与えてくれるお守りのような存在だ。

¥75900 by visvim

Indigo Dye Parka
伝統技術や天然素材へのあくなき探究心が生み出すプロダクトが魅力的なビズビム。本誌では同ブランドのデザイナー​中村ヒロキに取材もしているが、ものづくりの目的の一つとして機能性を彼は意識している。例えば染色に関しては、天然染料のため環境に害が少ないことや、防虫効果なども期待できる泥染や柿渋を取り入れている。とりわけ今回取り上げたいのは藍染だ。今では安価で化学的な合成染料が台頭しているが、天然染料を用いた技法は「天然藍灰汁醗酵建て」と呼ばれ、素材となる蒅(すくも)の個体差や発酵速度、気候の変化といった自然現象を相手にする高度な技術。気を抜けば失敗してしまうからこそ、職人の経験値と根気、そして情熱が必要とされる。天然素材のため人体に無害で、使い終わった染料液は畑の肥料にもなる。自然が生み出す美しさの恩恵を預かり、余ったものは自然に還元する。真の意味で自然と共存する色なのだ。“ジャパンブルー”という言葉もあるが、これは藍染が江戸時代の庶民の生活に根付いていた光景を見た英国人科学者が表現したもの。日本の歴史と文化に根ざした色だからこそ、日本人の心に藍染は深く染み入るのだ。

Height 90mm Diameter 95mm ¥18000 by Kanazashi Wood Craft

Wood Bowl
カツラやミズキ、サクラなど色や性質の異なる多種多様な木を組み合わせ、一本の新たな木材として削り出す寄木細工。盛んに行われているのが樹種の豊富な箱根地域で、江戸時代から続く伝統工芸の一つだ。一般的な寄木細工は、数種の木材を組み合わせて模様を作った塊を薄く削り出し(通称、ズク)、それをシートとして化粧箱に貼り付けていく。しかし戦争による物資の不足や職人の減少により、伝統は衰退の一途を辿った。その状況を打破すべく奮起したのが、地元箱根出身の木工職人​金指勝悦。彼は寄木の塊自体から作品を削り出す「無垢の寄木細工」という全く新しい技を考案し、箱根寄木細工をほかに類を見ない工芸品として生まれ変わらせた。その手腕は地元でも評価され、1997年からは箱根駅伝の優勝記念トロフィーを寄木細工で作り続けている。ほかにもぐい呑みやお盆など様々な作品を手がける中で、今回取り上げたのは林檎の形をした小物入れ。一つ一つが手作りで表情も異なるため、お店に行って好みの一つを探すもの選びの醍醐味を楽しめる。大切なものを入れる道具として愛用すれば、時間と共に寄木が経年変化して色づく美しさも味わえるだろう。

Photo Reiko ToyamaStyling Tsuyoshi NimuraEdit Takayasu Yamada
Yutaro Okamoto
Katsuya Kondo

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