Unique Japanese Colors
日本古来の染色技法を用いた 今シーズンのプロダクトを紹介
豊かな自然に囲まれた日本では、昔からその土地ごとの草木や鉱物などの天然素材が染料や顔料として用いられてきた。天然素材の色調は、四季の色が実は日々のグラデーションで繋がっているように、科学的な数字では計算しきれない豊かさと深みを持っている。そんな情緒深い色と染色技術に魅了されるブランドも数多い。ここからはファッションの世界が注目する日本ならではの色を持ったアイテムを紹介する。
by DRIES VAN NOTEN
平安貴族の遊びに由来する
日本古来の染色技術 墨流し
ドリス・ヴァン・ノッテン自身が手がけるシーズンとしては最後となった2025春夏コレクション。“時間”をテーマにした静寂と煌びやかさが共存する美しいピースの数々の中でも特に気になったのが、花を思わせる柄とムラの効いた色味が印象的なTシャツやパンツだった。実はこれらのアイテムには1000年近く昔から日本の伝統的なマーブル染色技法として受け継がれている「墨流し」が用いられている。水や川に墨を垂らし、水の流れに合わせて変化する墨の模様を楽しんだ平安時代の貴族の遊びに由来しているという墨流し。この雅やかな遊びに時の移ろいを見出したドリスの知性や感性には最後のコレクションまで感服させられる。京都の染色工房が手掛けた本作の墨流しは、緻密に計算された品のある配色と水面に漂う繊細な墨を瞬間的に切り取ったグラフィカルな表現が目を引く。水面に漂う墨に接着しなかった部分は染まっていないことも、不完全の美を愛でる日本らしい感性が宿っている。ラストコレクションで日本古来の染色技術にフォーカスしたドリスの粋なセンスに敬意を表したい。
by NICENESS
個体差や奥行きが美しい
日本ならではの天然顔料
安価で安定した化学顔料が広く世に浸透しているが、それ以前の日本では地域で採れる草木や泥、鉱物をはじめとした天然素材が顔料として使われていた。採取する地域や時期、混じる不純物などさまざまな条件が相まって色に個体差が出る天然素材は、計算して作られた化学素材とは違い、数字では表し切れない中間色の奥行きが魅力の一つ。そんな美しくも奥深い天然顔料を数種類も塗り重ねたジャケットをナイスネスで見つけた。墨や備長炭、黄土、インディゴなど国内で採れたいくつもの天然素材を顔料として用い、一色一色の表情のバリエーションが美しく調和。自然が育んだ豊かな色彩をまとえる贅沢な一着だ。顔料のプリントに特化した京都の老舗工房が、何層ものシルクハンドスクリーンプリントを重ねて立体感のあるタイガーカモ柄を表現し、仕上げには独自開発した錆に似せたグリッター粉を乗せるという細部へのこだわりようも光る。天然顔料と職人の手作業が交わることでさらに強まる個体差はそのまま個性となり、天然プリントの特性から柄が色褪せていく経年変化も楽しむことができる。
by visvim
ジャパンブルーのルーツである
世界最古の染色方法 藍染
世界最古の天然染色方法と呼ばれ、紀元前3000年から人々の生活とともにあった藍染。現在では広く知られる“ジャパンブルー”という表現は、明治期に来日したイギリス人科学者が藍染した日常着を身にまとっていた多くの町人たちの姿を目にしたことに由来する。このことから藍染が日本の歴史や文化とどれだけ密接に関わる染色かがわかるだろう。その美しさはもちろん、防虫や消臭、保温、難燃、紫外線防止、堅牢度上昇などさまざまな効果を期待できるのも藍染の魅力だ(デニムを染めるインディゴは藍染とは別物だが、インディゴはデニムの堅牢度を高めるために使われている)。そんな藍染の可能性を広げるものづくりをしているブランドの一つとしてビズビムを外すことはできない。経験豊かな職人の技術がなければ扱いが難しい天然素材由来の藍染にこだわり、惜しみない手間暇をかけてさまざまなアイテムを展開。このデニムは藍染した後に泥染も重ねた特別な一品。ウールやシープスキン、ラムレザー、さらにはゴアテックスまで藍染をしてきたビズビムは、この日本の伝統染色である藍染を新たな境地に導いている。
by SEEALL
奄美大島だけで生まれる
唯一無二の染色 泥染
世界でも珍しく、奄美大島だけに受け継がれる染色技法 泥染。世界三大織物にも数えられる島の伝統工芸品の大島紬を染めるための染色方法としても知られ、奈良時代を起源として1300年以上ほぼ変わらぬ工程が現在も用いられている。焦茶のような、それでいて奥底に深い黒を感じさせる泥染の色は、奄美大島の自然環境だからこそ生まれる唯一無二の色だ。その工程は手間と時間がかかり、まずは島に自生するタンニンが豊富な車輪梅を何日もかけて煮出し、その煮汁で生地が褐色になるまで手染めを何十回と繰り返す。そして文字通り泥田に沈めて泥を細かく擦り込んでいくのだ。鉄分が豊富な奄美大島の泥と車輪梅のタンニンが化学反応を繰り返すことで生まれる鉄媒染独特の赤茶を帯びた黒は、まさに奄美大島の大地の色であり、時を超えて日本で守られてきた色。そんな泥染をインドのヴィンテージのカンタ(古布を重ねて刺子にしたもの)に掛け合わせたのがシーオールのジャケット。染めを手がけたのは泥染の色のバリエーションを新たに生み出して注目を集める金井工芸。シーオールの手の込んだものづくりとの化学反応も起きた特別な泥染アイテムに仕上がっている。
Photo Taijun Hiramoto | Text & Edit Yutaro Okamoto |