Style File 09 fragment design Hiroshi Fujiwara
『感覚的に面白い事を探し続ける』 藤原ヒロシが語る自身のスタイル
スタイルとは何か? それは、その人ならではの生き方であり、服の着方であり、モノとの付き合い方だ。ファッションはお金で買えるけれど、スタイルは買えない。だけど、人から学ぶことができる。スタイルについて考え続ける人生はきっと楽しいものになるだろう。
藤原ヒロシ
ファッション・カルチャープロデューサー、ミュージシャン、大学教授、フラグメントデザイン主宰。80年代東京のストリートカルチャー黎明期から、現在に至るまでシーンを牽引し続ける。近年では、モンクレールやフェンディといったファッションブランドからマセラティといった高級車メーカーなどとの数多くのコラボレーションを行う。
Hiroshi Fujiwara
感覚的に面白いことを吸収し
エディットしていく 藤原ヒロシ
音楽やアート、ストリートカルチャーとファッションが繋がった、ボーダーレスな東京のミックス感。今でこそ当たり前になったが、このスタイルのオリジネーターこそが藤原ヒロシ。世界のファッションやストリートカルチャーの歴史を紐解くと、必ず藤原ヒロシに繋がる。それらのカルチャーを愛する者にとって、藤原の影響を受けてこなかったものはいないのではないだろうか。藤原が主催するフラグメントの積極的なコラボレーションの数々を見ると、今もなお彼のクリエイティビティは留まることを知らない。だが、彼のことを知ろうと前のめりになる我々を横目に藤原は至って冷静だ。なぜなら、本人は面白いと思うことをただ自然と吸収し、咀嚼し、アウトプットし続けているというスタンスにすぎないからである。「自分は、サンプリングするのが得意なんです。例えば、街を歩いていて、『この人のシャツいいな』とか『グレーのスウェットに白いシャツいいな』と思うと、すぐにそれを取り入れる。ニュースで政治家を見て『黒いジャケットに青いシャツいいな』とか思ったりもします。見ていいなとか思ったことを、自分の中でエディットする、そんな感じのことをずっと続けています。単に僕がその時に面白いな、とか、着たいなと思うものがすべてなので、言葉にしづらいし、好きなものに共通点があるのかさえわからない。僕がいいと思うものって、本当に感覚的なものなんです。洋服にしても例えばカレッジっぽいグラフィックものが着たい日もあれば、無地でシンプルなものが着たいと思う日も。派手なものを着たい日だってあります」。本当に感覚的に、気が向くまま行動をしていると藤原はいう。そんな藤原が今面白いと感じて普段身近にあるもの、それがここまでのページで紹介をしてきたプロダクトたちである。ファッションスタイル的には、ここ最近だとスウェットやニットにデニムパンツ、オークリーのアイウエアやゴローズのジュエリーというのが定番となっているが、これらも「感覚的なもの」だと藤原は話す。
藤原のワークスタイルに
重要なマックブック
東京での生活は、オフィスやカフェで仕事をすることが多いからこそ、厚着をする必要もあまりない。そのため、夏も冬も基本的に同じような格好で過ごすことが多いようだ。東京だけではなく、海外での仕事も多い藤原。取材をしたこの日もドバイから帰国してすぐだった。世界中を旅することや東京でのオフィスやカフェを拠点とした生活。そうした仕事の仕方から、必然的に必要になってくるものたちが藤原にとっての本当のスタイルなのである。「スタイルって、単に洋服を合わせるとかそういう話ではないですよね。自分の立場も関係してくる。いろいろなことを考えながら編集して作り上げていくものなのかもしれません。僕の仕事は基本的にマックブックが1台あればできてしまうんです。デザインはもちろん、曲だって作れてしまう。マックブックはもっと高価でも良いかなと思うほど、これがなかったら仕事ができない。そういう意味ではマックブックが一番の僕のスタイルを作っているものかもしれません。グラフィックとかデザインをする時は、紙とペンを使って描いたり、音楽ではギターを弾きますが、最終的にはすべてマックブックに取り入れて編集しますからね」。
新しいものとの出会いを
続けるということの大切さ
藤原の著書『パーソナル・エフェクツ』の冒頭でも「コレクターだと思われているが自分ではそうは思わない。なぜかというと、僕はモノを使い倒すから」と書かれているが、今回も藤原が紹介してくれたものたちは、今の生活の中で実際に使っているリアルなものたちだった。様々なブランドとコラボレーションを重ねる藤原だが、それらも「基本的には自分が使いたいと思えるものを考えて作っている」という。そんな藤原が、最近面白いと思っていることとは何か。藤原に質問をするとこう答える。「本格的にcovid-19の影響も落ち着いて、移動が元通りになったことですかね。この前、ドバイに行ったこともそうですが、いろいろなところに行くのはやはり楽しい。自分とは全然違うタイプの人たちに会ったり、普段は行かないようなイベントに行ったりすると新しいものごとに出会えます。ドバイで目にしたカンドゥーラと呼ばれる民族衣装が面白いなと思ったんですが、流石に自分じゃ着れない。カンドゥーラは、日本の生地を使っていることも多いみたいですが、生地やボタンが特徴的で面白かったりするので、そういうのは何かで取り入れても面白いな、と。そうやって海外に行くとインスピレーションを受けることが多いです。それに、飛行機の中で過ごすことが好きなので、溜めておいた映画を観る時間や仕事をする時間が心地良い。最近は飛行時間が長ければ長いほど嬉しいと感じたりします。普段、この時期だと休みがあればスノーボードに行くことが多いのですが、今年は雪が少ないこともあってあまり行けていない。暇が嫌いなので、スノーボードに充てていた時間をどうやって使えば良いかがわからない。最近だと周りの人たちが麻雀にハマっていることもあって、僕もやりはじめました。週に1度は雀荘に行っています。雀荘も昔と全然違って、禁煙で綺麗な店内。ウーバーイーツも呼べて、居心地が良いんです。麻雀は会話を楽しむ遊びだと思っているので、5、6時間ほど4人で向き合いながら、『ドバイどうだった?』とか『最近何やってるの?』みたいな会話をする。コミュニケーションツールみたいなものですね」。
話を聞いていると、藤原が行うすべてのものごとは、自然体で面白いと思ったことをやっているだけ、それに尽きるとわかる。その感覚が鋭いからこそ、藤原のクリエイティブは冴え、ユニークなアイディアが生まれていくのだ。ここまでの名声を得てもなお、藤原は現状に満足をせず、常に新しいものを求め続け、自分の身の回りのストリートに落ちている初期衝動のようなものを誰よりも早く見つける。そして、それを自分の中でエディットしながら、新しいスタイルを作り、我々を熱狂させ続けてくれる。自分が街で感じたリアルで嘘のない感覚からすべてを生み出す。だからこそ、世界は藤原ヒロシのことをこう呼ぶ。キング・オブ・ストリート、と。
Photo Yuto Kudo | Hair Nori Takabayashi | Intervier & Text Takayasu Yamada |