Style File 05 Actor, Skibum aristocrat Shota Matsuda
「スタイルとは本当のこと」 松田翔太、スタイルについて語る
Shota Matsuda
本物を正しい場所で正しく使う
そして、使い方を知っているということ
スタイルって何かというと、僕が思うに“本当のこと”なんだと思う。普段からよく、何かのカルチャーを意識したスタイル、という表現を聞くけれど、そういうのは本物のスタイルではないと思う。そういう時によく例にあがるのが、サーファーやスケーターのカルチャーのスタイルだったりするんですが、彼らが格好良いのは、そういったカルチャーを心から愛していて、シーンに根付き、必然的なものを選んであるべき姿になっていったから。それこそが、本当のスタイルなんです。それは、すべてのカルチャーやスタイルにも言えることだと思っています。ファッションショーに出てくるような、街では中々着れないようなファッションだって、普段からそういう社交場にお洒落して出入りする人にとっては、本当のことと言える。だから、そういう本当の自分の趣味と繋がっている格好をしている人を見かけた時に、『あ、この人スタイリッシュだな』って思います」。
今回のスタイルファイルを通して、松田が見せてくれたもの。それは、愛車や洋服、普段から持ち歩く小物やスキーに関わるものなど全てが俳優でありながら趣味を全力で楽しむ松田にとっての必需品であり、それぞれに深いストーリーがある、まさに“本当”なものたち。そしてハイ&ローな価値観で選ばれた数々のプロダクトは、松田ならではのライフスタイルを楽しむ哲学が表れている。
「僕のインスタを見てもらうとわかるんですが、プロフィールに“Actor,Skibum aristocrat”って書いていて。スキーバムとは、スラングでスキー馬鹿のこと。ヒッピーみたいに人生をかけて雪を追いかけ、お金が全然ないけれど楽しいからそれで幸せなス キー馬鹿のことです。そこに僕は、貴族を意味するアリストクラットを加えている。プロフィールにその言葉を入れているのは、自分の生活は東京で会食があったり、ファッションショーにお呼ばれしたりするドレスアップ的な瞬間もあったりするから。高貴なるスキー馬鹿っていう、自分らしい言葉だと思ってつけています」。
バックカントリースキーをするために、長野や北海道、はたまたカナダの過酷な山奥まで。良い場所があればどこにでもいくという松田。だが、東京をはじめとした都会での生活が中心な松田にとって、アクターであり、スキーバムとしての2つの側面を持ったファッションスタイルを大切にしているという。
世界中どこにでも行ける
制服のような服を着る
「基本的な格好は、メゾン マルジェラのジャケットとシャツ。マルジェラの服は、過剰なロゴがなく派手すぎない。会った人に対して、ブランドものを着ているというロゴの圧力みたいなものがない。派手な服でお洒落を頑張っていると、合わない場所もあるしスキーバムな友達にも会いづらくなる。『やっぱり、翔太さんって違いますね』みたいな急に距離感のある雰囲気になって馴染みづらくなったりしますから。でも、マルジェラの服ってそうではないんです。それでいて、服が好きな人であれば良い反応もしてくれる。そのバランス感が好きなんです。特に僕は、パリやロンドンなどヨーロッパに行くことが多いので、そういう街にはよく馴染みます。空港やレストラン、ホテルも余裕で行ける服。そういった格好に加えて、僕は小さなカバンが好きで。パスポートが入って財布やスマホを入れられるサイズくらいのものを海外ではよく持ち歩きます。酔っ払ってもそれだけ持っていれば大丈夫という(笑)。つまり、世界中どこにでも行けるような格好が自分らしいファッションスタイルです」。
そういった、洗練されながらもこだわりのあるファッションスタイルに加え、象徴的な顔周りの要素といえば、センター分けで横と後ろを刈り上げたヘアスタイルに両耳のフープピアスだろう。このアイコニックなスタイルになった理由を聞くと、そのきっかけとなったストーリーは松田が小学4年生の頃にまで遡るようだ。
「当時、僕は龍平(松田龍平)と一緒にイタリアへサッカー留学に行っていて。その時、ある家に居候させてもらっていたんですが、その家には三姉妹がいました。そのうちの1人、サルビナっていう子の彼氏にマルコという人がいたんです。マルコは背が高く、顔は整っていて、もうとにかくハンサム。『イタリアでは、挨拶はほっぺにキスするんだぜ』とか、いろいろなことをマルコから教えてもらいました。イタリアのものに今でも格好良さを感じるのは、その頃の経験があるからかもしれません。そして、マルコの髪型は中分けで後ろを刈り上げて、両耳にはフープピアス。それはもう印象的だった。高校生の頃にはすでにマルコに影響された格好をしていました。だから、実は僕の髪型やピアスはマルコから来ているんです」。
出会いのストーリーも大切
憧れ続けて手に入れたEタイプ
取材日は、ランと名付けられた台風7号の影響で東京も不安定な天候の1日だった。鉛色の空、コンクリートの建築が建ち並ぶ東京のグレイッシュな景色の中、鮮やかなメタリックブルーの流線型が美しいジャガーのEタイプを運転して松田翔太は現場へ現れた。
「格好良いですよね。もう買って5年くらい経つけれど、ガレージのシャッターが開いて車体が見える度にいまだに心がときめきます。この車に出会った時のストーリーが面白いんです。昔からこの車には惹かれていたんですが、20代前半の頃、友達と広尾を歩いていると、目の前にブルーのEタイプが停まっていた。それが初めて本物のEタイプに出会った時でした。それまでは写真でしか見ていなかったんですが、実物を見た時に『なんて美しい車なんだ』と思いました。道端で、いろんな角度を携帯のカメラで撮りましたね。前から、後ろから、真横も、ボンネットの輝き、もう全部綺麗だと思った。そうしているうちに、背の高いおじ様がすごく綺麗な奥様を連れて乗り込んだんですよ。それで、『うわ、格好良い……』と思った。エンジンがかかり、直6エンジンのヴゥーンっていうあの音が響いて、さらに僕も興奮した。そしたら目が合って、挨拶のつもりで僕は手を挙げた。そうしたら、そのおじ様はまるでパイロットの敬礼のような手振りを僕にして、颯爽と外苑西通りを西麻布方面へと走っていったんです」。街でたまたま出会ったEタイプの美しさの余韻が残ったまま、数年経ったある時、松田のもとに良いEタイプの車両が入ったという情報が届く。状態がよく、カラーもあの時に見たブルー。「すぐに購入を決めた」と松田。
「Eタイプを買ってから、堺正章さんやいろいろなクラシックカー好きな先輩方と車好きが高じて知り合えることになっていくんですが、そうした繋がりで出会ったある70代の男性に『翔太君は何を乗っているんですか?』と聞かれたので、最近ジャガーのEタイプを購入したことを話したんです。そしたら、その方が『あれ……。それ、どこで買いました? 中にこういう機材が付いていて、ここに丸いの付いているでしょ?』と細かい仕様を聞いてきました。そう、僕が買ったEタイプは、その方が過去に乗っていたもので、話しているうちに判明したのですが、その方はいつか広尾で見た、あのおじ様だったんです。そんなストーリーがある車なので、もう売ることはないんだろうけれど、もし売るのであれば、僕の頭が白髪混じりになった頃、当時の僕のような青年に譲りたい」。
「僕が持つものって、この車や服のように綺麗なものや未来っぽいものも好きですが、フォードのラプターやヴィンセント・ギャロの作品のような粗野なものも好き。それは東京と雪山を行き来している生活とも通じると思っています。それに加えて、知り合いが作っていたり、もらったりと人との繋がりを感じられるもの。そういったものたちを正しい場所で、正しく使う。そして、その使い方を知っている、というのが僕が大切にしたいスタイルなんです」。
Photo Kei Sakakura | Styling Akira Maruyama Hair & Make-up Kikuchi | Edit Takuya Chiba Takayasu Yamada Rikako Goto |