Style File 03 Skateboarder / Artist Mark Gonzales

直感に従い 自由に生きる

マーク・ゴンザレス
1968年生まれ。プロスケートボーダー。現代におけるスケートボードカルチャーのパイオニア的存在として知られる。また類い稀なる感性を生かし、アーティストとしても活動を行う。独自の世界観で展開される作品群は世界中の人々から注目を集めている。

Pen / Marker
旅行中に常に持ち歩くペン類。ペンの種類に特にこだわりはないそうだが、欠かさず持ち歩き、空港や飛行機の中、ホテルの部屋で気持ちの赴くままにドローイングを行っているそう。

LOUIS VUITTON
Jump Rope (Self Customized)
縄跳びはワークアウトの習慣としてNYでも行なっているアクティビティのひとつ。フットワークなどの技術的な部分はすべて自力で自然に覚えていったという。もともとついていたロープから、プラスチック製のチープなロープへ自身でカスタムを施した。マーク曰くこの素材のロープが最も縄跳びがしやすいのだとか。

Hutmacher Zapf Handmade Hat
マーク・ゴンザレスといえば、ハットを被りスケートをするシーンを思い浮かべる人も多いだろう。今や彼のトレードマークと言っても過言ではないハット。数多く所有する中からその日の気分によって何を被るのか決めている。

Mark’s Essentials for going out
マークが外に出かけるときに、必ず持ち歩くセット一式。メールと電話のみ可能な携帯電話、お守りのコイン、映画カーズの登場キャラクターのミニカー、コム デ ギャルソンの財布。携帯電話は、アクネ ストゥディオズのポーチに入れて首から下げているのだそう。お守りのコインは古代ローマ時代のもので、妻のTiaからプレゼントされたことをきっかけにいつも持ち歩くようになった。ピクサー制作の映画『カーズ』は、マークが好きな映画のひとつ。お気に入りのキャラクターを常に持ち歩いている。

Interview with
Mark Gonzales
“今”を楽しんでいる感覚を大切に

スケートボード史に名を刻むレジェンド、そしてユーモア溢れる作風で世界から認められるアーティストとして活動するマーク・ゴンザレス。唯一無二のスタイルを持つアイコニックな存在として世界中の人々からリスペクトされている。彼が東京・大阪での個展のために来日していた際に、取材を行った。当日、自身でペイントを施したデッキを抱え、現場へとやってきたマーク。発色の良いオレンジのパーカーの上から羽織ったカラフルなマドラスチェックとパッチワークジャケットの組み合わせにハット。50メートル先からでも、すぐにそれが本人であると認識できた。出会った時の第1印象は、圧倒的にピュアであること、そして自由であることだった。これが彼のスタイルそのものであることを、彼との時間を通してこの後知ることになる。

取材、撮影はマークが東京で好きなエリアであるという代官山で行なった。「代官山はSupremeのストアもあるし、東京に来たらよく来る街なんだ。Saturdays NYCで朝コーヒーを飲んで、1日をスタートさせるのがお気に入りなんだよ。東京に最後に来たのはコロナ前の2019年だったけど、変わらずに面白い街で安心した。そこかしこに魅力的なスポットがあるからね。僕の普段の日常は、朝起きて、まず妻にコーヒーを淹れて、自分もコーヒーを飲んでから、もう一杯コーヒーを淹れて、それから子供達を学校に送っていく。コーヒーは重要な要素のひとつだね。その後にスケートボードをしに出かけたり、自分のことをする時間ができるんだ」。
彼が外出する際に持ち歩くのは、メールと電話しかできない携帯電話、お守りのコイン、ミニカー、財布。それらをポケットに入れて街へ繰り出していくのだという。中でも驚いたのは2023年という今でも、スマートフォンを持っていないこと。その理由について彼はこう話す。「もし自分がスマートフォンを持ったら、ハマり過ぎてしまうと思うんだ。インスタグラムを見たり、スケートクリップを見たり、スケートクリップを投稿したりしていたかもしれない。一時期iPadにハマっていたことがあったんだけど、スケートトリックを一コマ一コマ描いて、アニメーションする作業に没頭してしまったんだ。それを完成させて、妻に「今トリックをアニメーションにした!見て!」と見せると「マーク、今日あなた家から出ていないよ」と言われたこともあった(笑)。その時は一時期だけど、スケートをやめてしまっていたんだよね。iPadでスケートのアニメーションを制作することに満足していて、トリックをした気になってしまって、スケートができていなかったんだ。縄跳びのアニメーションをやるとしても同じだね。結局は縄跳びという物理的な行為で体を動かし、活動して『今』という瞬間により集中できる。それはスケートも同じ。例えばさっき外で滑っているときに警察官に『気をつけなさい』と言われたんだけど、スケートの場合はそういった他人との接触が大事だと思ってる。それがポジティブであろうと、ネガティブであろうと、喧嘩して話し合って解決に至ろうと、どれもが重要だと思うんだ。だから、スマートフォンをいじっている時はあくまで携帯電話とのコミュニケーションでしかない。コンピュータの向こう側にいる人たちとのコミュニケーションは、本当の意味でのつながりではないんだ。電子機器を通すことで、リアルなつながりが失われているのだから。スマートフォンをはじめとした電子機器を使っていると、人はほかのものをすべて意識的に忘れてしまう。スケートボードはスケート、縄跳びはあくまで縄跳びをするためにあるのであって、その目的のために使うということこそが、本当に自由にさせてくれるものだと思うんだよね」。”今”というかけがえのない時間に集中し、自由に生きること。この話を聞いていて、誰もが頭を下に向けスマートフォンへ視線を送り続ける日本の通勤電車でのシーンが頭をよぎった。今私達は電子機器に支配されていると言っても過言ではないのかもしれない。何にも縛られず、生き生きとした毎日を送るためのひとつの手段をマークが教えてくれた気がした。

正直であることと
ピュアであること

スケートはもちろん、自転車や縄跳びといった体を動かすアクティビティに加えて、マークは日常的にドローイングや作品作りを行なっている。それぞれの活動の区切りをどのようにつけているかという問いに対しても、非常にマークらしい答えが返ってきた。「基本的には身体が教えてくれるよ。だってそうだろう?鍛えすぎて痛いと感じたら、あまり鍛えないほうがいいと思うし、自分の直感に耳を傾けなければならない。時には、違うエネルギーを感じたり、何が正しいか考えこむこともあるよ。でも、大抵は自分の体が教えてくれるんだ。そうした直感的な部分はすごく大切にしているんだよ。それは作品作りにも共通している。例えば僕はスケートボードを題材にした作品を作ることがあるけれど、自分が乗るためにドローイングをするデッキと、作品として世に出すためにドローイングするデッキでは、考え方が全く違うんだ。乗る方は、僕を興奮させるものでなければならないし、外に出るモチベーションが湧き出てくるものでないとダメ。『トリックを決めたい、エネルギッシュでありたい』という気持ちにさせてくれるものでなければならないんだ。スケートボードをやっている時は精神的なものは必要ない。もっとアグレッシブで、もっとアスレチックで…言いたいことはわかるだろ?一方作品作りの場合は、ボードの木目を空白としてしっかりと捉えることが重要。ある意味スピリチュアルな感じがするんだ。スピリチュアルというのは例えばお葬式の時の姿勢と少し似ているかもしれない。そういう時は真剣で、立ち止まっていて、攻撃的でアグレッシブなスポーツマンシップを捨てる必要があるよね。日常生活にはそんなスピリチュアルになる習慣が必要だと思うんだ」。実際にこの日もスケート、縄跳びなど数多くのアクティビティを行なっていたが、それは撮影のために行なっていたのではなく、彼自身の満足の為に行なっていることに途中から気がついた。「次はあそこのスポットに行こう」「あそこで滑りたい」など率先して先を行く姿や、自分がやると決めた縄跳びのトリックを息が上がるまで挑戦し、メイクしている姿が非常に印象的であった。それもすべて自分の身体や欲求に対して正直に生きるマークらしいシーンだと感じた。
「アート制作はいつも何か明確なアイディアを持って臨んでいるわけではない。その時に周りにある素材や、手に入るものを題材に作り上げていくんだ。作品の制作を進めていくうちに、テーマや雰囲気みたいなものが見えてくるんだよ。ネガティブな空間には、自分が作るキャラクターの顔を追加して、ポジティブにすることができるのではないかと発想したり。何が起こるかわからない直感的な感覚が楽しいんだ」。

日々の生活、スケートボード、アート制作。マークにとっての3つの基礎的な要素の背景には、共通して自由で直感的な感覚が息づいていることがよくわかる。それが彼のパーソナリティにも色濃く影響し、マーク・ゴンザレスという人間を作り上げているのだ。

取材を終えた帰り際、「さっきスケートした道の名前をメールで送っておいてよ!あそこすごく良い道だったんだ。日本にいる間、時間があったらまた遊びに寄りたいんだ」。マークはそんな言葉を残して帰っていった。考えれば子供の頃、もっと世界は広大で、想像力次第でどんな場所も遊び場にすることができていた。それがいつしか世間体や周りを気にしているからなのか、いつの間にか失くしてしまったあの感覚。それをマークは今も変わらず持ち続けている。彼と過ごす時間の中で、大人になり忘れてしまったその感覚を思い出していた。帰り際に残した彼の言葉からも感じる、エネルギッシュに周りを巻き込んでいく彼のひたむきなピュアさと自由さ。それこそが彼のスタイルであるのだと確信した。

Mark’s Skateboard
今回日本での旅行用にNYで組んできたデッキ。カラフルなベースにシルバーのペンでドローイングが施された
デッキからは、エネルギッシュなモチベーションを感じることができる。

Photo Taro MizutaniTranslation Mikuto MurayamaEdit & Text Shohei Kawamura

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