MUSIC EVERYBODYS LOVES THE SUNSHINE ROY AYERS

長き偉業に感謝を込めて 継承される永遠のマスターピース

Roy Ayers
Everybody Loves the Sunshine
Released 12th May 1976
Length 39:31
Polydor

今年3月4日にソウル~ジャズ・ファンクのレジェンドとして知られるロイ・エアーズが闘病の末この世を去った。およそ60年という長いキャリアの中で、彼は膨大な作品を世に残し、新旧問わず今でも多くのリスナーを魅了し続けている。自身の作品然り、アレンジャーとして参加しているものやプロデュース作品さえも、聴けばすぐに彼だと分かるような個性があり、そんな一貫した揺るぎのないスタイルこそアーティストにとって最も重要な表現力であり、才能である。ロイ・エアーズはロサンゼルス出身のビブラフォン奏者だが、自らが歌を歌ったり、ほかのアーティストのプロデューサーを務めたりと、その仕事は多岐に渡る。音楽家系に生まれ、幼少期に観に行ったビブラフォンの第一人者であるライオネル・ハンプトンのコンサートで多くの観客の中から選ばれマレットが送られた。それが彼のビブラフォン奏者としての原点になったと言ってもいいだろう。60年代の初期はモードやビバップといった正統派なジャズの世界で、ジャック・ウィルソンのグループやハービー・マンのもとで活躍、1970年にはロイ・エアーズ&ユビキティというバンドを結成し『Ubiquity』をリリースする。電子楽器やR&B、ロックなどの要素を取り入れたジャズ・ファンクへと方向を転換し、ネオ・ソウルと呼ばれる新たなるジャズシーンを開拓した。またブラックムービーの金字塔『Coffy』のサウンドトラック、ファンクバンドのランプやシルヴィア・ストリプリン、エイティーズ・レディースをはじめ自身以外のアーティストのプロデュースやアレンジャーとしての才能も発揮。そんな彼の数多い名作の中でも、とりわけマスターピースとしてオーラを放つのが1976年のアルバム『Everybody Loves the Sunshine』だ。同名のシングルをはじめ、カバーやサンプリングを通して常に数多くのアーティストによって受け継がれている。おそらく最も有名なのはメアリー・J・ブライジの「My Life」でのサンプリングだ。この曲を収録した同名アルバムは1994年に発売され300万枚を超えるヒットを記録した。そのほかにもドクター・ドレ、ノーティー・バイ・ネイチャー、コモン、ブランド・ヌビアンをはじめ本曲だけでも数多くのサンプリングが存在する。N.W.Aの姿を描いた2015年の伝記的ヒップホップ映画『StraightOuttaCompton』の劇中でも使われていたのも印象的であった。Everybody Loves the Sunshine」をきっかけにロイ・エアーズを知った人もきっと多いはずだ。過去にある雑誌のインタビューで、彼はこのように語っていた。「多くの人が俺に聞いてくる。自分のレコードがサンプリングされるのをどう思うか、と。俺は素晴らしいと思う。(中略)新たな命を得て、まるで新しい日が始まるわけだ。経済的にも報われるし、なんの不満もない。許諾を求めてくるものに対しては、すべてOKと言っているよ。(サンプリングされた)レコードが送られてきて、ずいぶんと下品にサンプリングされているものもある。だが、それにOKしたのは別にそうした下品さを了解したのではなく、俺は人間なら誰でも表現の自由があると思うからだ」。こうした彼の表現に対するオープンな姿勢が、ベテランでありながらいつまでも現代的で幅広い世代に親しまれる音楽を作り続けることができた秘訣のひとつになっていたのかもしれない。時代を超えて愛され続ける音楽には、当時の空気感を感じさせてくれるエモーショナルな音楽と、時を経ても洗練された印象のままであり続ける音楽があると思う。ロイ・エアーズは間違いなく後者であり、何十年も前に作られた音楽にもかかわらず、不思議と彼の音楽からは“懐かしい音楽”という感じが全くしないのだ。それは無意識のうちにサンプリングなどによってアップデートされたものを耳にしているというのもあるかもしれない。だが、こういった現代のアーティストの感性にも突き刺さる音楽であり続けているということは紛れもない事実であり、それこそが文化や芸術を継承していくということなのではないだろうか。ジャズ、ソウル・ファンク、レア・グルーヴのリスナーのみならず、DJやクラブミュージックファンからも絶大な支持を持ち、最高に気持ち良いグルーヴを私たちに教えてくれたレジェンド、ロイ・エアーズ。彼の残した素晴らしい音楽へ心からの感謝とリスペクトを。

ロイ・エアーズ
ロサンゼルス出身のビブラフォン奏者・プロデューサー・アレンジャー。長いキャリアの中で数多くの名作を生み出し、ネオ・ソウル~レア・グルーヴのレジェンドとして知られる。他アーティストによるカバーやサンプリングも数多く存在し、今もなお幅広いリスナーから愛され続けている。

Select & Text    Mayu KakihataPhoto    Taijun Hiramoto

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