MUSIC TROPICAL DANDY HARUOMI HOSONO

まだ見ぬ楽園を求めて 魅惑のエキゾチックな香り

Haruomi Hosono
Tropical Dandy
Original Released 25th June 1975
Length 34:00
PANAM

50年以上ものキャリアのなかで、今もなお国内外の幅広い世代へ影響を与え続ける音楽家、細野晴臣。1969年にエイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、その後はっぴいえんどを結成。その後はソロに加え、ティン・パン・アレー(キャラメル・ママ)としても活動。1978年にイエロー・マジック・オーケストラを結成し、テクノ・ポップの礎を築いた。その後もプロデュース作品や映画音楽に至るまで、その活動は多岐に渡る。そんな細野晴臣が1975年に発表した『トロピカルダンディ』の50周年を記念してアナログが再発された。本作に加え、1976年の『泰安洋行』、1978年の『はらいそ』が細野晴臣のトロピカル三部作として知られ、これまで基調にされてきたフォークやカントリーなどのアメリカ的音楽だけでなくカリブ、中東、アジア、日本は沖縄に至るまで、幅広い音楽を取り入れた異国情緒漂うエキゾチックな世界観が特徴的である。このエキゾチックという意味合いに少し触れてみたい。50年代のアメリカではエキゾチカと呼ばれるムード音楽が全盛期を迎えていた。その代表がマーティン・デニーやレス・バクスターである。ハワイ、アフリカ、ラテンやらアジア、あらゆる想像上の楽園のイメージを詰め込んだその模倣的な音楽は、もともとラウンジミュージックとしてアメリカの家庭で何気なく流れていたようなものでありながら、実はある意味独創的でストレンジな音楽であったわけである。そんな少し変わった楽しい音楽の世界を教えてくれたのがこのトロピカル三部作であり、私はこのどことなくナードで怪しげな音楽が大好きだ。細野氏は『トロピカルダンディ』の制作時、アルバムの方向性に悩んでいたそうだが、沖縄音楽の影響を受けていた久保田麻琴からの「細野さんはトロピカルダンディーだ」の一言でこのアルバムの方向性が決まったという。トロピカル三部作の幕開けに相応しい南国ムードなA面、対するB面でははっぴいえんどやソロ1作品目の『HOSONO HOUSE』に通ずるフォーキーなあたたかみが感じられ、A面とB面で違った世界を楽しめるのもレコードの良さである。リトルフィートやアラン・トゥーサンを思わせるアメリカ南部的な香りも心地がいい。ジャケットはイギリスのタバコのパッケージが元ネタになっている。(プロコルハルムの『ソルティ・ドッグ』もおそらく同じである)。日本語の曲を聴いているはずなのに、どこか知らない国の音楽を聴いているような気分になるのは、外国語やオノマトペが混じった歌詞、イントネーション、歌い方の効果も大きいかもしれない。細野氏はこのアルバムのライナーノーツにこんな素敵な言葉を残している。「この長い旅をし終わった音楽は、途中で出会ったありとあらゆるエッセンスを含んでいて、とってもおいしいのだ。シルクロードの通る大陸の香り、フランスはパリの粋な優雅な香り、スペインの情熱、アフリカのエネルギー、カリブの潮の香り、それがシチューとなってアメリカの何でも包みこんでしまう大陸へ渡り、例のアメリカのニオイが最後の香辛料として仕上げているのです。僕が考えるに、更にその上にひと味たしたらどうなるのか?と思うのです。僕がやる事は実にこれしかないと妄想に近い程信じている有様です。要するにもう一度太平洋を渡って来てもらってしょう油の味を一滴たらしてみたくなったのです。これを“ソイ・ソース”ミュージックと僕は名付けてしまった」。ありとあらゆる地域の音楽への解釈、その情熱が込められた「トロピカル三部作」は、アメリカという広大な大陸からの影響を経て、彼が次に目指したまだ見ぬ楽園への冒険記なのかもしれない。

細野晴臣
1947年東京生まれ。エイプリル・フールのベーシストとしてデビュー後、はっぴいえんど、ティン・パン・アレーを経てYMOを結成しテクノポップを世界へ広めた。解散後はソロ活動を本格化し、『ミステリー・トレイン』などの映画音楽のほか、星野源のプロデュースなどその活動は多岐に渡る。

Select & Text  Mayu KakihataPhoto  Taijun Hiramoto

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