carry on the design legacy of Blue Note Don Was
名門ブルーノートの社長が語る 信念のある音楽の重要性
『Blue Spirits: 85 Years of Blue Note Records (Selected by Don Was)』というコンピレーションアルバムをご存知だろうか。ブルーノートレコードの社長、ドン・ウォズが手掛けた名盤だ。2枚のCDから構成され、セロニアス・モンクやマイルス・デイビスなど往年の名プレイヤーで構成される1枚目と、ノラ・ジョーンズやジョエル・ロスなど2000年代以降のジャズシーンを盛り上げるアーティストが収録される2枚目へと繋がれる曲順は、ブルーノートという偉大なレーベルの歴史を旅しているかのような感覚になる。特に1枚目のトリを飾る、オーネット・コールマンの「Broadaway Blues」から2枚目のはじまりのロバート・グラスパーの「The Consequencences Of Jealousy」への流れは、オーネット・コールマンからロバート・グラスパーへの時代の転換を感じる。
そんなドン・ウォズが来日。その場にいる人々を包み込むような大きく優しいオーラを放つ彼に自身が音楽へ引き込まれた理由、そしてブルーノートレコードの現在と未来について語ってもらった。
ブルーノートのアルバムは
ビートルズ以上のパワーがあった
「僕がジャズに魅了されたのは、14歳の時にデトロイトのラジオから流れてきたとある1曲がきっかけです。母親を車内で待っているときに、カーラジオからジョー・ヘンダーソンの『Mode for Joe』のサックスソロが流れてきたんです。まだジャズを知らなかった少年時代の僕には、その音がサックスの音ではなく、怒りを込めた動物の叫び声のように聞こえて。その音は不機嫌な当時の自分の気持ちを映し出しているようでした。そこからポール・チェンバースのドラムが入り、ジョーのサックスがスイングし始める。一通り演奏を聴くと、『物事の状況が悪くなった時には、グルーヴすりゃいいんだよ、ドン』とジョーが語りかけてくるような錯覚を覚えました。当時の僕には歌詞のない音楽がそこまで自分に訴えかけてくるということが衝撃的でした。会話よりも深いところに語りかけてくる音楽の魅力を知った僕は、ジャズの世界にのめり込み、カーラジオだけではなく家でも毎日ジャズを聴くようになりました。そして自分が好きな曲のほとんどがNYの小さなレーベル、ブルーノートが手がけていることがわかり、次はレコードを買い集めるようになっていきました。そうしていくと音楽だけではなく、アートワークの素晴らしさにも気づいたんです。フランシス・ウルフが撮影したジャズマンのモノクロ写真は、暗い中でタバコを吸いながらサックスを吹くシーンがクールに切り取られ、強い憧れを抱きました。ブルーノートのアルバムが映し出すライフスタイルはビートルズやボブ・ディラン以上のパワーを持っていました。反逆精神、自由さ、スマートさ。とにかく全てがクールだったんです」。
表現の自由をアーティストに与える
音は時に言葉以上に人々の感情を揺るがし、見たことのない景色を映し出す。そんな音楽の力に取り憑かれたドン・ウォズは自身のバンド「ウォズ」と並行して音楽プロデューサーとしても活躍。その後、当時新進気鋭のアーティストだったグレゴリー・ポーターをブルーノートレコードに推薦したことをきっかけに重役の目に止まり、現在は社長に就任するという音楽漬けの人生を送ってきた。少年時代に音楽の持つパワーとアートワークの素晴らしさに魅了された彼は、現在どのようにそれを体現しているのだろうか。
「昔と今ではアーティストのジャケットのアートワークへの向き合い方が変わってきました。50、60年代のアーティストはアートワークには関わらず、レーベルのスタッフが制作していたんです。それが変わったきっかけを作ったのがビートルズの『サージェント・ペパーズ』だと思います。それ以降はアーティストとレーベルがともにビジュアル作りも行うようになってきました。アートワークが音楽の延長線になったんです。1939年にブルーノートが立ち上がった時に掲げられた理念のひとつに“本当に信念のある音楽を目指し、アーティストに最大限の表現の自由を与える”というものがあります。この前もポール・コーディッシュというアーティストからアルバムジャケットのデザインをあまり気に入っていないと連絡がありました。僕は思わずそのジャケットのデザイン担当者に連絡をして、『アーティストに最大限の自由を与えるという理念を忘れるな』と伝えました。僕は40年以上音楽プロデューサーとして活動してきましたが、音楽を作る上で大切なのは、アーティストが一番最初に意図したものを守り続けることにあります。オーディエンスを疑ってもいけないし、トレンドになびいてもいけない。もしアーティストの考えが周囲と違っていたとしても、それは彼らが持つスーパーパワーなんだと伝え、そのパワーを活かせるように導いてあげるべきだと思っています」。
雨に打たれるように
音楽に打たれたら良い
この夏もブルーノート所属のアーティストの来日ライブが多く予定されている。7月はマヤ・デライラ、8月はドミ&JDベック、9月にはノラ・ジョーンズと様々な個性を持つアーティストのライブを見るチャンスがあるが、より音を楽しむためのポイントはどんなところにあるのだろうか。
「来日を予定してる3組のアーティストの音楽は、誰でも楽しみやすい音楽性だと思います。たとえばパーティーに行くと、近くにいる人たちでグループになって話をすることが多いですよね。色々なグループで話していく中で、どこかのグループには気が合うときがある。音楽もそれと同じで、感覚が近いアーティストを楽しめば良い。ジャズは難しい音楽だと思われがちですが、そんなことはなく、雨に打たれるように音楽に浴びれば良いと思うんです。元々ジャズは黒人たちの自由への叫びから生まれた音楽。なぜジャズが文化や言語を超え、多くの人たちの共感を得るかというと、人間の心の奥底にある“自由を求める気持ち”に応えてくれるからだと思うんです」。
最後にサングラスを外したポートレートを撮影させてもらった。力強くも優しい彼の青い瞳には、自由なジャズの未来が映っているはずだ。
ドン・ウォズ
現ブルーノート社長兼音楽プロデューサー。1980年代より自身のバンド「Was」として活動。その後フリーの音楽プロデューサーを経て、2012年より現職。
ブルーノート所属アーティスト ライブ情報
マヤ・デライラ
FUJI ROCK FESTIVAL‘25
日程:2025/7/25 (Fri)
開催場所:新潟県南魚沼郡湯沢町三国202
Info:https://fujirockfestival.com/
ドミ&JDベック
SUMMER SONIC 2025
日程:2025/8/16 (Sat)
開催場所:千葉県千葉市美浜区中瀬2-1
https://www.summersonic.com/
ドン・ウォズ
DON WAS & THE PAN-DETROIT ENSEMBLE
日程:2025/9/24 (Wed) ~ 9/26 (Fri)
開催場所:Blue Note Tokyo (東京都港区南青山6-3-16)
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/don-was/
ノラ・ジョーンズ
Norah Jones Visions Tour 22025
日程:2025/9/25 (木)
開催場所:大阪府大阪市中央区大阪城3-1
https://udo.jp/osaka/concert/NorahJones25
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN
日程:2025/9/27 (Sat)
開催場所:東京都江東区有明1-11-1
https://bluenotejazzfestival.jp/
Photo Masato Kawamura | Interview & Text Katsuya Kondo | Edit Yutaro Okamoto |