Chris Gibbs (UNION Owner / Director)

ステータスではなく 心地よく馴染むかどうか クリス・ギブス

ちょうどいい時計との距離感

「最近では日常的に時計を着けることはなく、ほとんどのことをiPhoneで済ませてしまっています。僕は時計マニアではないので、この号に出てくるほかの人たちとは少し違う答えになると思います」。インタビューの冒頭ではっきりとそう語った、UNIONのオーナー兼ディレクターであるクリス・ギブス。時計を好んで着けていた時期もあったが、現在では主にフォーマルなシーンでのみ時計を着けているのだという。

「時計自体、どこか“見られるもの”としての役割が大きくなっていると思うんです。自分の成功を表すために着けるステータスシンボルのように感じてしまい、それがしっくりこないので時計を着けることをやめてしまいました。卒業式や結婚式などフォーマルな場で時計を着けるのは、普段よりも気持ちを引き締めるためです」。

たしかに高級時計は、一種の記号のように扱われることが往々にしてあるが、クリスにとっての時計は、もっと個人的で静かなものだ。ファッションの一部として、フォーマルなシーンでのみ手首に巻かれる存在。彼にとっての時計の着け方は、“身だしなみ”以上の主張を避けるための選択でもある。

若い頃には強く憧れを抱いた時計もあったという。それは『007』シリーズの初代ジェームズ・ボンド役で知られるショーン・コネリーが愛用していた、ロレックスのビッグクラウン サブマリーナ。ミリタリーならではの潔さと、クラシックな造形を両立したデザインに惹かれていた。しかし、その希少性から価格は非常に高く、年に数回しか時計を着けないクリスにとってはハードルが高いものであったという。その代わりに選んだのがTUDORだった。

Black Bay 41 (2017) by TUDOR × UNDEFEATED
2017年のバーゼルワールドで発表された、TUDOR Black Bay41のUNDEFEATEDコラボモデル。特定のリファレンスナンバーは無く、文字盤に配置されたファイブストライクスロゴとブラックダイヤル、ブルーベゼルが特徴。UNDEFEATEDの関係者や親しい友人にのみ配布され、市販はされていない。

「TUDORは、ロレックスと似たような佇まいを持ちながら、もっと現実的で、日常に馴染むブランド。“ワーキングクラスのロレックス”のような立ち位置ですよね。親近感が持てて、なおかつデザインも魅力的なので気に入っています」。

1930年代にロレックスの創業者ハンス・ ウイルスドルフによって設立されたTUDORは、ロレックスの技術やデザインの美点を受け継ぎつつ、より手の届きやすい価格帯で展開されてきた。ロレックスならではの美学を保ちながらも、過度な誇張のないデザインが、クリスの心を掴んでいるのだろう。彼が着用していたのは、UNDEFEATEDとのコラボモデル。ミリタリー調のフェイスに落ち着いたカラーリングが施されていて、ストリートとクラシックのちょうど中間に位置するような存在感を放つ一本だ。「この時計には、僕がユニオンの仕事で携わってきた人たちのクリエイティブが反映されています。そういう背景のある時計はやっぱり特別です。でも結局のところ、自分が着けたいと思う時計かどうかの基準は、デザインが全て。ステータスのあるブランドである必要はなく、形とサイズ、シンプルさに惹かれるかどうかです」。

クリスが時計について語るとき、そこにはデザインへの明確な美意識が滲み出る。ブランドの格ではなく、“心に響くかどうか”が選択基準。彼のそういったスタイルは、UNIONでのクリエイティブディレクションに通じている。知名度や既存のルールにとらわれず、自身が心から良いと思えるものを見極めて世に送り出す。その姿勢こそ、彼がストリートファッションの第一線で信頼を集めてきた理由のひとつだ。量産的なトレンドに流されず、自らの審美眼を貫く。時計の選び方にもクリス・ギブスという人間の“らしさ”が表れている。

コラボレーションでは
遊び心を大切に

前出のTUDORと同じように、縁のあるクリエイターが生み出した時計の一つとして、G-SHOCKもいくつか紹介してくれた。UNIONとCASIO、そしてG-SHOCKとの関係は深く、現在も、2009年のコラボレーション以来となるプロジェクトが進行中とのこと。発売は来年を予定しており、
まさにインタビューの前日にデザインをG-SHOCKチームに渡したばかりだという。「次のコラボレーションにあたり、3月に日本でG-SHOCKチームに会いました。彼らとの仕事はとてもスムーズ。僕らが“やりたい”と思うことに対して、彼らは“やってみよう”と言って乗り気な姿勢で向き合ってくれます。こういう関係性は、ものづくりにおいてすごく重要なんです」。

次回のモデルでは、ロゴやマルチカラーを配したり、フェイスのカラーリングを自由にアレンジしたりと、遊び心のあるディテールが随所に込められたデザインになるという。「クラシックなG-SHOCKの良さを活かしつつ、自分たちらしい“ファンな要素”を足していく。それがコラボレーションすることの意味だと思う」。

彼の手持ちの時計は、いずれもコラボレーションしたことのあるブランドや、親交の深いクリエイターが携わっているもの。彼自身が選ぶのは、シンプルなデザインでサイズが大きめのものだが、クリエイターとして時計ブランドとコラボレーションする際は、遊び心を反映したデザインにしたくなるのだという。

クリス自身、G-SHOCKを普段から“使う道具”として信頼している。アラームもついていて頑丈なので、日常的に使うのはG-SHOCKなのだという。時計に対するスタンスは、ブランドやスペック以上に、自分の生活と自然に馴染むかどうかだ。「今の時計文化は、どこか記号的になりすぎて いるような気がします。ロレックスを着けているから“高級志向”、みたいな。でもそれって、本当に個人のスタイルなのかと疑問に感じるんです。僕は時計を着けるときには、自由な発想で向き合いたい。今日紹介した時計はどれも、いわゆる高級時計ではありませんが、今は時計で自分を語る時代ではないと思うので、これくらいがちょうどいいんです」。

彼の時計に対するスタンスには、クリス・ギブスという人物の魅力がよく表れている。型にハマらない発想、ブランドに縛られない目線。ものを語るとき、そこにある“背景”より、“直感”を大事にする。ステートメントとしての時計ではなく、自分らしさがにじむ一本を選ぶ。他者に見られるためではなく、自身が心地いいと感じるかどうかを重視することは、今の時代にふさわしい“腕時計との付き合い方”なのかもしれない。

クリス・ギブス
ロサンゼルス、東京、大阪と現在3店舗あるUNIONのオーナー。オリジナルアイテムやコラボレーション企画のディレクションからデザインまでを手掛けるほか、実際にお店に立ち、ゲストとのコミュニケーションの時間も大切にする。

Photo    Yusei Kanda Translate    Kosuke Adam Interview & Text    Aya Sato

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