Yoshihito Sakaya (PHAETON Owner)
腕時計は時間を セクシーにしてくれる 坂矢悠詞人
坂谷が抱えているのはフェートンに置かれている平安時代の常滑。サブマリーナー Ref. 6200同様、とても希少でその価値は計り知れない。
坂矢が共鳴する
ヴィンテージロレックスのパワー
「神話性です(笑)」。今回紹介してもらった3本の中でも特に希少性の高いモデルと名高いロレックス サブマリーナー Ref. 6200。冒頭の一言はその魅力について語った坂矢の言葉だ。石川県金沢市から車でおよそ40分。田んぼと海に囲まれた決してアクセスの良いとは言えない場所にセレクトショップ、フェートンは店を構えている。取り扱う商品は洋服から香水、紅茶や壺に至るまで、代表・坂矢の直感によって選ばれた時代の先を行く品々ばかり。そんな坂矢は膨大な情報に溢れる腕時計選びにおいてもこの直感に従っているのだという。彼が見ている腕時計の景色とはなんなのか、話を聞いた。
生まれた時から身近で
側にあった存在
「僕の父がヴィンテージのロレックスとパテックフィリップのコレクターだったんです。父に腕時計が並ぶ書斎に呼ばれ、“お前はどれが欲しい?”と日常的に聞かれるような環境でした。16歳の時に初めてGMTマスターを買ってから、サブマリーナー、エクスプローラー1 Ref. 1016と高校時代に計3本を所有していました。腕時計に関する知識はこの時に叩き込みましたね。生まれた時から側にあったからこそ腕時計を見ることに目が慣れているんです。だからこそ知識で左脳的に見るのではなく、右脳的に直感で魅力を感じることができるんです」。
高校生から始まった腕時計収集は彼のライフワークとなった。ロレックスのほかにもパテックフィリップなどを保有していた時期もあったそうだが、ヴィンテージロレックスにしかない魅力を坂矢はこう語る。「デザインの意匠がとてつもないんです。何にも倣っていないオリジナルのパワーの強さがある。ライカのM3や、リーバイスの501®のように今後変える必要がないデザインなんです。だからこそ復刻したものやアップデートしたものには興味が湧かない。なるべくオリジナル度の高いもの、それも部品に限った話ではなく、なるべくワンオーナーを経て僕の元へ渡ってきたものを手元に残すようにしています。僕も取り扱う商品やお店作りはオリジナルであることにこだわっています。オリジナルの純度が高いものは体を通して共感、共鳴するんです。そこで感じる直感に身を委ねてヴィンテージロレックスを集めるようにしています。エクスプローラー1とパテックフィリップだけをつける時期や、デイトナしかつけない時期もありましたが、今はサブマリーナー Ref. 6200、エクスプローラー1 Ref. 1016 ギルト、Ref. 1016 メガファットの3・6・9のインデックスが自分の世界観に合い、着けていて心地が良いんです。12がないことでデザインとして完成されている美しすぎるダイヤルですね」。
Submariner Ref. 6200 (1955) by Rolex
Explorer 1 Ref. 1016 Gilt Dial (1963) by Rolex
Explorer 1 Ref. 1016 Mega Fat (1967) by Rolex
度々繰り返される“直感”という言葉。それは知識の裏付けはもちろんのこと、幼い頃から腕時計に触れ続けたからこそ感じ取ることができる第六感にも近いものなのだろう。そんな坂矢が心地良いと感じる3・6・9インデックスを持つ3つの時計それぞれの個性については、こう説明してくれた。「サブマリーナー Ref. 6200に関しては実在しているのかわからないと言われるほど希少で、もはや神話の世界の時計です(笑)。1016ギルトの特徴はツヤ塗装ですが、これはもうブラウンチェンジしてしまっている。普通に考えれば色が変わってしまったボロボロの個体。ただそれが新品のエクスプローラー1より高値で取引されていて、さらにこの個体にしかない景色を見せてくれる。ヴィンテージロレックスの面白みが詰まった1本だと思います。メガファットは謎が多い個体です。普通に考えればこんなに太いインデックスって端正じゃないんですよ。蓄光塗料を塗る時に失敗したのか、後から膨れてしまったのか、原因がわかっていない。サブマリーナーにも関わらず3・6・9インデックスを備える6200もそうですが、ヴィンテージロレックスには原因のわからないブラックボックスが多く、それが面白みのひとつです。また、iPhoneで時間を確認することは単なる事務作業ですが、腕時計で時間を見る行為は美しいですよね。腕時計は時間をセクシーに変えてくれるんです。その中でも時計が変われば時間の見え方まで変わってくる。ころんとしたメガファットフォントで見る時間は愛らしく感じますし、生産数が200本ほどとも言われている6200では1/200の時間の世界を見ることができます」。
ここまで、今没頭している3・6・9ダイヤルを中心にヴィンテージロレックスの魅力について語ってくれた坂矢。次に狙っている腕時計について聞くと、坂矢の腕時計へのスタイルが込められた答えが返ってきた。「以前金無垢のサブマリーナーを長く所有していたんですが、中々上手く着けることができず手放してしまったんです。もしまた手に入れるタイミングがあれば実用して傷まみれになるまで使い込めればと思っています。金無垢のサブマリーナーはどうしても威圧感が出やすいので、そう見せない着け方をしたくて。肌に馴染むまで使い込んで傷ができ、経年美化した個体を、穴が開くくらい着古したカシミヤのコートを合わせて表情はビッグスマイル(笑)。そうやって見える景色を楽しみたいです」。
坂矢悠詞人
石川県にてセレクトショップ「フェートン」や紅茶専門店「ティートン」、香水専門店「フェートン フレグランスロングバー」など数々のショップディレクションをするほか、雑誌『大勉強』では編集長も務めている。2025年4月にはフェートンをリニューアルオープン。3万枚の石板と巨石からなる新たな建物では、来世まで持っていける“二生もの”の品々を楽しむことができる。
Photo Yoshihito Sakaya | Interview & Text Katsuya Kondo |