The Chic Destination in Tokyo Vol.2

粋と教養を学べる場所

東京には、教養と洗練を教えてくれる場所がある。こうした場所の魅力は、ただ何かを購入したりサービスを受けられる場所にとどまらない。その空間に身を置くことで、知的な遊び方を体験でき、日々の選択に“粋”を取り入れられるヒントがある。そんな、センスの良い人の交差点となっているお店を8店舗に厳選して紹介する。

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タカラベルモント製の「859」電動式バーバーチェアが並ぶ店内。
Top
i-D Magazineをはじめ、ASASHIがロンドン滞在時に携わった作品が額装して飾られている。
Bottom
大きな鏡のロゴは、ロンドンのクリエイティブ集団「TOMATO」のサイモン・テイラーがデザインしたもの。
ASASHI BARBER TORANOMON
ヘアスタイリストが営む
粋な後ろ姿を大切にした理髪店

ヘアスタイリストとして国内外問わず活躍するASASHIが、2024年10月に「ASASHI BARBER TORANOMON」をオープンした。そのバーバーは、虎ノ門ヒルズの建設など、目覚ましく発展を遂げる虎ノ門エリアの一角にある。1960年代頃に建てられた木造建築の店内は、梁が見える天井と、ロンドンカルチャーを感じさせるインテリアとのミックスが不思議と心地よい。バーバーと言っても、歴史を辿るとそこにはさまざまなスタイルがある。例えば、アメリカはフェードカットに代表されるヒップホップ文化との結び付きが強く比較的カジュアルなスタイル。一方ロンドンではテディ・ボーイズのリーゼントスタイルなどがあるものの、19世紀ではジェントルマンが身だしなみを整える場として、スーツやクラブと同じくフォーマルな役割として機能していた。ASASHI BARBERはそのどれにも属さず、そうしたカルチャーを汲みながらもモダンな解釈を取り入れた、独創的なスタイルを提案する。そして、誰でも気軽に立ち寄れるお店作りを目指し、カットやシェービングだけでなく、パーマやカラーなど要望に応じて柔軟なサービスを行う。そんな同店がテーマにするのは、“後ろ姿まで男をカッコよく”すること。特に綺麗に整えた襟足は男の色気をグッと高めてくれる。そのため、二回目の利用からは襟足や刈り上げを整えるだけのサービスも可能だ。バーバーの店主とヘアスタイリストと全く異なる立ち位置で活動をするASASHIだが、それぞれの違いについて「写真の2Dでは少し乱れがあることで、カッコ良く見えることがあります。そうした遊び心を大切にしています。バーバーのカットでは、日々の生活で人から360度見られるので、“日常に溶け込むようなスタイル”を大事にしています」と話す。ファッション誌ではある種のロマンを作り、バーバーでは日常を作る。この二つを往来することで、新しい発見を楽しみ、技術の向上に努めているのだという。襟足の大切さ、そしてスタイルの美学をASASHI BARBER TORANOMONで体験してみるのはいかがだろうか。きっと本質が磨かれ、日常生活に豊かな気づきを与えてくれるはず。

ASASHI BARBER TORANOMON
東京都港区虎ノ門1-12-13
070-3253-1011

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店内は、重厚な木のカウンターと柔らかな照明に包まれた、バーのような趣きのある空間。心を落ち着かせながら目の前で艶やかに仕上がっていく過程を楽しめる。
Top
布が軽く濡れた状態を保ちながら丁寧にワックスを塗布する様子。力加減や水の量が肝。
Bottom
店内に並ぶ磨きの道具たち。なかでもクリームは、化粧品会社に依頼して作ったオリジナルブランドのもので、人肌に適応した成分が含まれているため革にも優しいという。
Brift H
磨かれた足元は心を洗い
正しさへと導いてくれる

「靴磨きだけでご飯を食べるのは難しい」。17年前にその常識を覆したのが、「ブリフトアッシュ」だ。2008年、スーツに身を包んだ職人による品質の高いサービスが受けられるラグジュアリーなシューシャインショップとしてオープン。ヨーロッパでは元来、家庭での靴磨き文化が根強かったが、昨今ではブリフトアッシュを手本にしたラグジュアリーなショップが逆輸入の形で増加しているという。店名の「Brift」は、Brighten Footwearの造語で、顧客の靴を輝かせるという意味合いを表し、「H」は、HumanによるHandで顧客をHappyにしたいという意思が込められている。そんな同店は、靴磨き職人の価値を高めたいという想いのもと、路上の靴磨きとは真逆なスタイルを提案する。南青山という立地もさることながら、象徴的なのは世界初となったカウンターでの接客スタイルだ。来客と顔を合わせて会話をしながら、職人の技を目の前でじっくりと拝見することができる。最近ではサウナのように“ととのう”感覚で来店する人も増えたという。綺麗になっていく靴を眺めながら過ごす時間は、不思議と心が晴れてリフレッシュになるそうだ。また、ここでしか味わえない確かなクオリティも評判で、毎年ロンドンで開催される靴磨きの世界大会では、代表を務める長谷川裕也が2017年に初優勝し、その後も2名のスタッフが世界一に輝くなど、名実ともに人気を博している。靴磨きで受けられるサービスは、カウンターでの対面仕上げと、後日仕上げの2種類。いずれもブラッシングから始まり、クリーナーでの汚れ落とし、栄養を与えるクリームの施しからワックス仕上げまで、フルメンテナンスを行っている。そのほか、レザーのバッグやレザーアパレルのクリーニングまで対応可能だ。靴を綺麗にすることで心が洗われる。その感覚は身だしなみの意識を引き上げ、日常の所作を磨き、人への振る舞いにまで影響を与える。ジェントルマンの装いは足元から。その言葉どおり、足元を整えることは、人生を正しい方向へと導くきっかけになる。

Brift H
東京都港区南青山6-3-11 PAN南青山 204
03-3797-0373

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綺麗に畳まれたシャツが並ぶ棚の上段。下段にはそれに合わせてセレクトもできる様々なカラーのジャケットが落ち着いた佇まいで並べられている。
Top
写真中心のこの靴は英国最高峰のブランド、エドワード・グリーンのもの。履きシワが美しい革靴は丁寧に磨かれており、時間の経過が生み出した美しさがある。
Bottom Right
店内の奥に位置するガラスケースの上に並べられた様々な種類のネクタイたち。
Bottom Left
リングやピンなどの小物類も充実。シャツとネクタイを選んだ後は、それらに合う小物を選んで洒落の効いたスタイリングを楽しめる。
Davids Clothing
英国を愛する男が手掛ける
英国古着の専門店

英国古着の専門店、「デイヴィッズ クロージング」。店名の由来は3名のイギリス人が関係しており、在位わずか325日で愛する女性との婚約のため国王を退位しデイヴィッドの名で知られる、エドワード8世。音楽史における最も革新的で影響力のあるアーティストの一人で言わずと知れた英国を代表するアーティスト、デイヴィッド・ボウイ。端正なルックスとファッション性、そして卓越したプレーで世界中の女性を虜にしたサッカー界の貴公子、デイヴィッド・ベッカムの3名だ。3名ともイギリス出身で今もなお高い人気を誇る。オーナーの斉藤博之は幼いころから英国の音楽に触れ、ファッションやカルチャーに絶対的な憧れを抱いていた。店に並ぶのはそんな彼が買い付けを行ったブリティッシュトラッドなアイテムが揃っている。バーバリーやフレッドペリーという王道のブランドから、色鮮やかなジャケットに革靴、剣の形をしたネクタイピンなど洒落の効いたアイテムまで丁寧に陳列されている。そのさまはまるで、英国紳士のクローゼットを覗いているよう。足元を見ると並んでいるのは、一足ごとに異なる表情を持つ光沢のある革靴たち。全ての商品が一点物のため、人と被ることがなく自分のアイデンティティを表現できる。現代の技術では難しい仕立てや生地の質感が特徴の英国ヴィンテージアイテムにロマンを感じ、長年収集し続けてきた結晶とも言えるこのデイヴィッズ クロージング。渋谷という移り変わりが目まぐるしい日本のカルチャーの中心地に位置しながらも、流行に決して流されることなく、英国マナーに則り、自分に合ったサイズやスタイルを提案してくれる。斉藤が思うジェントルマンとは「洋服屋としての視点ですが、物を大切にする。例えば、肘の抜けたジャケットに当て布をして最後まで着倒すような人」。いつの時代も上質を知り、ものを長く愛する人間像だ。飾ることはなく、英国文化、服に人生を捧げ作りあげた空間にも確かなジェントルマンの美学が溢れていた。

Davids Clothing
東京都渋谷区渋谷1-22-4
03-3409-8822

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オーセンティックなカウンタースタイルでお酒やシガーを楽しめる。隣の椅子との間隔も広く、自分と向き合える上質な夜を提供してくれる。
Top
ウイスキーとシガーという王道の組み合わせ。徐々に苦みが強くなっていくシガーの味に合わせて、ポートワインやアレキサンダーなど甘いお酒と合わせて楽しむのも良い。
Bottom Left
取材時期に提供されていた季節のフルーツを使ったカクテル。シャインマスカットにドライジンやライムジュースなどを加え、鼻から抜けるさっぱりとした香りが特徴の1杯。
Bottom Right
奥に見える部屋がシガースペースと呼ばれるフロア。机と椅子だけが置かれたこのフロアは、シガーと向き合うためだけの閉鎖的な空間だ。予約をしてここを目当てに訪れるお客様も多いという。
M BAR in Sheraton
Miyako Hotel Tokyo
お酒を味わい、シガーを嗜む
ここにしかない粋な時間の使い方

都心にありながらも、都会の喧騒を忘れさせてくれる優雅な時間が流れる白金台エリア。この地に佇むシェラトン都ホテル東京は、開高健や北方謙三をはじめとした“遊びを知る男たち”が定宿としていたことでも知られる。1800坪もの広大な日本庭園に囲まれたこのホテル。建物の設計をミノル・ヤマサキ、内装を村野藤吾が手がけたことでも有名だ。中でも地下1Fにあるメインバーの「エムバー」は、自分だけの時間を過ごしたい大人たちがひっそりと通う隠れ家だ。個室、バーカウンター、シガースペース、そしてリビングルームと大きく分けて4つのフロアがあり、どの空間も大人たちが思い思いの時間を楽しんでいる。バーカウンターには数百はあろうかというボトルが輝いて並ぶ。中でもウイスキーが全体の7割ほど、スコッチやアイリッシュ、ジャパニーズなどの5大ウイスキーはもちろん、イスラエルなど聞き馴染みのない産地で作られたウイスキーも揃っており、まだ見ぬ世界を探求することができる。季節のフルーツを取り入れたカクテルも人気で、2か月毎に旬のフルーツを使用したカクテルがお目見え。注文を受けたバーテンダーが奏でるシェイカーと氷がぶつかる音はなんとも心地良く、薄暗い空間で素早く規則的に動くシェイカーはまさに職人技である。そしてもう1つ、このバーの大きな特徴とも言えるのが、豊富なシガーの品揃え。短くても30分、長いものでは1時間半から2時間というゆっくりと長い時間をかけて味わうのがシガーの基本。徐々に変化する風味を楽しみながら、シガーに火が灯る間の限られた時間に身を委ねる。その隣にお気に入りのドリンクがあれば、その空間はさらに心地の良い場所になるはずだ。このバーに来る人は、みなここでしか味わえないお酒やシガーを片手にゆっくりと流れる優雅な時間を目指して足を運ぶ。会話や空間も相まってこのバーでしか感じることのない自然のセッションを楽しんでこそ、粋な大人の夜の過ごし方。シェラトン都ホテル東京の中にあるバーだからこそなし得る最上級のホスピタリティを受け、自分自身と向き合い、今晩も様々なことに思いを馳せる。

M BAR
東京都港区白金台1-1-50 シェラトン都ホテル東京 B1F
0120-956-638

Photo  Takafumi Uchiyama  Masayuki Nakaya  Naoto Usami Interview & Text  Tatsuya Yamashiro  Jo Kasahara Edit  Tatsuya Yamashiro  Yutaro Okamoto

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