Books of a Gentleman’s Spirit Vol.2

名著に見る紳士の生き様

男の生き方、美学に触れ、描かれた書籍は数多い。昭和の文豪から映画監督、プロデューサー、海外作家まで出自も背景もバラバラな作者が、数多くの作品を残している。エッセイ、ノンフィクション、海外小説。ここからはそんな紳士の生き様が綴られた名著を紹介していこう。本から学び、知識、教養を高めるのも素敵な大人の男の条件と言っても過言ではない。何より本を読む姿というのは、それだけで美しく、粋なものではないか。

『陰翳礼讃』 谷崎潤一郎

日本の伝統に目を向ける影、暗闇があるから美しい

西洋的な明るい陽の文化と対比させ、陰、暗闇にこそ日本古来の美があると説いた谷崎純一郎の名随筆。日本の伝統的家屋や家具から影がもたらす深みとその美しさ、魅力について見つめ直し、それが料理や能などの和の文化にもさまざまな影響を与えていることが綴られている。アート、ファッション、写真やデザインにも通づる日本ならではの風雅な陰翳の考え方と色彩感覚は、国際化・多様化する今こそ持ち合わせたい。

『ヨーロッパ退屈日記』 伊丹十三

欧州の文化の違いを楽しめるエッセイ&スタイルブック

「マルサの女」などで知られる映画監督、伊丹十三が、1961年にイギリス、フランス、スペイン、イタリアなどをめぐる中で、各国のファッション、車、音楽、発音からホテルでの振る舞いまでを、ユーモアを交えて綴ったエッセイ。文化的教養を備え、上質を知る筆者だからこそ語れる各国の文化の違いは興味深い。特にファッションについては詳細にイラスト付きで掲載されているので、スタイルブックとしても楽しめる。

『いきの構造』 九鬼周造

“粋”とは何なのか研究・言語化した1冊

タイトルである「いき」とは「粋」のこと。日本独自のこの価値観について、哲学者である著者が分析・解説した本書では、上品でも下品でもない説明が難しいこの表現を、「媚態」、「意気地」、「諦め」によるものだと定義し、美意識についても言及。仏教、武士道などとも通じていることを伝え、言語化に成功している。ひとつの言葉を紐解くことで、和の文化の奥深さが見えてくる1冊。海外にはない日本の美学を再認識させてくれる。

『男の肖像』 稲越功一

昭和の男の色気を感じる 迫力ある超豪華写真集

三宅一生、沢田研二、初代貴ノ花、長嶋茂雄、原田芳雄。強烈な個性を持った総勢50名の男に向き合った写真家・稲越功一の写真集。それぞれのスタイルを切り取った、凄みを感じさせるスタジオでのポートレートの数々は、目にするだけで男の色気を感じさせる。各出演者にゆかりのある女性著名人が文章を寄せるという構成も面白い。吉永小百合、樹木希林、向田邦子、コシノジュンコなど、これまた豪華なラインナップに驚かされる。

『ロング・グッドバイ』
レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳

知性とセンスにあふれたハードボイルドの代名詞

「ギムレットには早すぎる」の台詞は、一度は聞いたことがあるのではないか。私立探偵フィリップ・マーロウを主役としたレイモンド・チャンドラーによるこのハードボイルド小説には、冒頭の一文だけでなく、酒や女性を絡めた知性とセンスある言葉が数多く並べられている。村上春樹が“人生で巡り会った重要な本”の1つとして挙げる本作。翻訳版は3冊出版されているが、せっかくなら村上版を読んでみることをお薦めする。

『グレート・ギャツビー』
スコット・フィッツジェラルド
村上春樹訳

春樹の訳で味わう男のダンディズム

こちらも村上春樹に多大なる影響を与えた1冊。「華麗なるギャッツビー」の邦題でも知られる本作は、アメリカ文学を代表する作品として、幾度も映画化もされている。ニューヨークを舞台に虚栄に満ちた男の悲哀を描いた本作は、富と権力を背景に持った主人公の洗練された立ち振る舞い、ラグジュアリーな装いなど、その節々に男のダンディズムを感じることができる。村上の忠実な訳でその世界観を味わってほしい。

Illustration  Atsutomo HinoEdit & Text  Satoru Komura

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