OK-RM talks about Goldwin 0 & Enquiry

OK-RMが振り返る ゴールドウイン ゼロのEnquiry(探求)

ゴールドウイン ゼロとOK-RM。このチームによるクリエイティブはファッションシーンに留まらず、アート、デザインシーンにおいても大きな話題を呼び、さまざまなインスピレーションを与えてきた。2022AWに公開された9分51秒の映像形式のプレゼンテーションから全ては始まり、「Enquiry(探求 / 問いかけ)」と名付けられた実験的プラットフォームとしてコレクションごとに発表されてきた。そんなEnquiryは2024AWの6回目をもって完結を迎える。そして同時に、Enquiryの仕掛け人であるOK-RMの勇退も意味する。
OK-RMはロンドンを拠点とするデザインデュオで、J.Wアンダーソンやヴァージル・アブロー、T.T(前Taiga Takahashi)など世界各国のクリエイターやブランドとコラボレートしてきた気鋭クリエイターだ。ゴールドウイン ゼロには始動時からブランディングに携わったOK-RMだからこそ、彼らとのコラボレーションの終了はゴールドウイン ゼロの第一幕の完結でもある。そのフィナーレとして開催された回顧展的なエキシビション「Goldwin 0 1 2 3 4 5 0: Retrospective Exhibition」の会場で、OK-RMことオリバー・ナイトとローリー・マクグラスの2人にこの3年間を問いかけた。


ーゴールドウイン ゼロとのプロジェクトを終え、どのようなお気持ちですか?

ローリー 私たちは常に新しい経験をして、何かを獲得し続けています。そうした日々の中で、今回の回顧展のようにリフレクション(経験を振り返る)する時間を持つことはあまりないことです。とても多くの想いがありますが、一番は“感謝”の気持ちです。Enquiryに携わってくれた全ての人達に、そして自由にクリエイティブを表現する機会を与えてもらえたことに感謝しています。

オリバー “愛”の感情も強いです。150名以上の人々がこのプロジェクトに協力してくれましたが、全員が“愛”を感じていたと思います。プロジェクトの過程では、電話越しに本音をぶつけ合い、泣いたり笑ったりもしました。そしていつも撮影が終わったときにはみんなでハグをしていました。感情が大きく揺さぶられる素晴らしい経験でした。

ローリー ゴールドウイン ゼロの依頼を受けるオリエンテーションの際に、「ゴールドウインの“愛”を表現してほしい」とゴールドウインの渡辺社長から言われたんです。企業の仕事としてそのような依頼はなかなかないと思いますし、素晴らしいプロジェクトです。


ーEnquiryは哲学的で、感情を揺さぶるプロジェクトでした。芸術家や踊り手、建築家をはじめとしたさまざまな表現者が参加していたことが大きいと思います。

ローリー そうですね。それこそがOK-RMらしさだと思っています。多くの人と関わりながら仕事をするのが私たちのスタイルです。でも人を利用するのではなく、ともに働いて作り上げることを意識しています。これは精神的な話ですが、大きな違いです。素晴らしいことを成し遂げるためには、信頼関係や愛が欠かせないのです。

オリバー このプロジェクトはコロナウィルスが流行っていた時期に始まりました。当時はいわゆるヒエラルキーのような概念が世間的に弱まっていたと思います。その感覚を維持してメンバーが一丸となってプロジェクトを進めることができたことは大きいですね。つまりゴールドウイン ゼロとEnquiryに携わった人たちは皆平等ということです。ゴールドウイン社という大企業のプロジェクトでありながらも成し遂げられたのは、やはり全員が“愛”を感じてくれて、アイディアを持って関わってくれたからだと思います。

ー“循環”もゴールドウイン ゼロの大きなテーマですよね。フィナーレとなる「Goldwin 0 1 2 3 4 5 0: Retrospective Exhibition」という展示タイトルも象徴的です。

ローリー 私たちも「0 1 2 3 4 5 0」というテーマを気に入っています。日々を生きていると忘れてしまいがちですが、“全てのものごとは循環している”のです。でも循環はコンセプトではなく、マインドのことです。例えばEnquiryに参加してもらった才能豊かなアーティストたちのマインドを通して、私たちはどのような気づきや学びを得られるか?ということが大切です。その気づきをまとめあげることが、ゴールドウイン ゼロの世界を表現することに繋がります。


ーゴールドウイン ゼロと過ごした3年間で、お二人はどのような気づきを得ましたか?

ローリー 今回の展示の設営をしていた昨日の夜に新たに気づいたのですが、「どこへ向かっていくかを最初から定めなくてもいい」ということです。Enquiryというプロジェクトもスタートさせたときには、正直どこへ向かっていくのかが定かではありませんでした。だから、Enquiry ♯1での気づきを♯2で表現する、ということの積み重ねでプロジェクトは進んでいきました。その集大成としてのレポートが今回の展示であり、合わせて制作した書籍なのです。
科学とは目標からはじまり、こうかもしれないという仮説になり、実験と研究を行って、分析し、結論を導き出します。最後にはアイディアとなり、共有するためのレポートが出来上がります。つまりOK-RMがゴールドウイン ゼロで実験し、学んだことは、5つのEnquiryの結果とレポートである今回の展示と書籍が全てなのです。

オリバー その学びは、書籍のタイトル「物質性の本質は、もつれである」ということに要約されます。「自然界の全てのものはもつれ合っている」。これは連続物理学における物質や原子に関わる理論です。物質はくっつき合い、絡み合い、分裂し、またくっつく、という習性があります。つまり全ては繋がっているということです。この自然界の法則を理解し、日々のクリエイティブに応用することの重要さが理解され始めています。私たちは研究所にいる科学者のように、さまざまな方法を用いて一つ一つのもつれをEnquiry(探求)し、証明しようと試みたのです。

ーEnquiryというプロジェクトを進めるごとに、次に実験することが見えてきたのですね。

ローリー 制作過程で互いに言い合っていたのは、「間違いなんてない」ということです。人生のクリエイティビティにおいて間違いなどないのです。常に学び、次に繋げることの繰り返しですからね。ゴールドウイン ゼロとのプロジェクトの山場は、ソーシャルメディアやコンテクストをどう落とし込むか、ということでした。短時間でいかに注目を集めるか、という課題の中で美しさの在り方や美学を魅せていくためにはどうすればいいか。その方法を模索し続けました。

オリバー だからどのEnquiryも重要であり、それぞれを分けて捉えるのは難しいですね。「自分の子どもたちの中で誰が一番可愛いか?」という質問に答えるぐらい難しいです(笑)。

今回のエキシビションのために製作された特別なTシャツ。ゴールドウイン社がバイオベンチャー企業スパイバーと共同開発した新素材“ブリュード・プロテイン™️素材”をボディ生地に使用し、Enquiry ♯1 〜 ♯5のそれぞれのシンボルをプリントしている。2024AWコレクションのアイテムにもブリュード・プロテイン™️素材は取り入れられ、ゴールドウイン ゼロの新たな可能性を示唆している。

ーゴールドウイン ゼロとOK-RMのコラボレーションはひとまず完結となりますが、ゴールドウイン ゼロは今後も続いていきます。どのような方向へ向かっていくと予想しますか?

ローリー ゴールドウイン ゼロのリサーチや実験のフェーズは、Enquiryというプロジェクトでひとまずまとまったと思っています。今回制作した書籍はシルバーのインクでプリントしています。シルバーとは、まるでだんだんと薄れていく記憶のようであり、新たな経験を表しています。これは人生におけるとても重要なフェーズも意味します。終わりを迎えることでリフレクション(振り返る)することができ、そこから新たな始まりがあるのです。

OK-RMが仕掛けたEnquiryという壮大なプロジェクト。それはゴールドウイン ゼロを表現するための実験であり、哲学であり、抒情詩のようですらある。価値観が共鳴するさまざまな表現者の力を借り、多様なメディアを通して表現する。ゴールドウインの愛を表現するためのアウトプットだからこそ、見るものは感情を激しく揺さぶられ、自己投影し、共感し、ゴールドウイン ゼロとは何なのかを心で理解していく。ブランディングの先進的な方法を、見事に実証したプロジェクトだ。
フィナーレとなる「Goldwin 0 1 2 3 4 5 0: Retrospective Exhibition」のために新たに制作された最後となる映像作品はラブストーリー仕立てになっている。まさに今回のインタビューでOK-RMの2人が話してくれた「循環、記憶、学び」について表現されている内容で、記事を読んでいただいた今だからこそ、視覚と聴覚から改めて経験するためにぜひチェックしてほしい。

Photo Naoto KobayashiInterview & Text Yutaro Okamoto

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