Josh Olins (Photographer)
世界的フォトグラファーが語る いまの時代に腕時計を着ける理由
イギリス人フォトグラファーのジョシュ・オリンズ。『VOGUE』や『i-D』、『Holiday』などファッション雑誌のエディトリアルからルイ・ヴィトンやカルバン・クラインといった名だたるハイブランドのキャンペーンまで、世界を股にかけて活躍する。そんな、彼が身につけているのが、世界に誇る日本のクラフツマンシップが詰まった腕時計ブランド、セイコーの名作“ダイバーズ”のヴィンテージだ。
ファッションフォトの第一線で活躍するオリンズだけに、ドレスウォッチのような腕時計を選ぶかと思いきや、本格的なダイバーズウォッチで、尚且つ、日本のブランドという選択に意外性を感じる。だが、理由を聞くと、写真家としての性分や彼自身のライフスタイルがそこに投影されていた。
ランドローバーとトライアンフ
そして、セイコーダイバーズ
「写真家というのは、“おもちゃ”が好きな生き物です。カメラ、車、バイク、サーフボードなど。つまり、私たちは自分のライフスタイルを映し出す美的なものに自然と惹かれる傾向がある。時計もそうしたシンボルになるのです」とオリンズは語る。車は、ランドローバーのディフェンダー。バイクはトライアンフのボンネビルに乗り、サーフィンを楽しみ、キャンプや釣り、水泳、最近では庭の手入れから、果物や野菜も自分で育てるなどアウトドアを愛するオリンズのライフスタイル。そういった自然と密接に繋がった生活に、セイコーのダイバーズはぴったり合っていると話す。
「気取らず、頑丈でクラシック。そして、ジーンズとTシャツのようなカジュアルな格好にも、フォーマルな服にも同じようによく合います。これは私が持っている車やバイクにも言えることです。ですが、その2つよりもダイバーズの方が信頼できます(笑)。私が時計に惹かれる理由はそうしたライフスタイルと密接な存在であるところなんです。人がどんな時計を好むかによって、その人となりが見えてきます。クラシックで洗練された人、アウトドアや冒険を好む人、希少なものやデザインを愛する人。私が最も苦手なのは、腕時計を地位の象徴として誇示するために使う人たちです」。
美しい工芸品を眺める
ささやかな喜び
話を聞くと、その腕時計がオリンズの趣味趣向が実直に表れた、まさに彼を象徴するようなものであるということがわかる。だが、この腕時計を手にしたのは最近のことだという。
「正直に言えば、大人になってから腕時計を着けようと思ったことはありませんでした。ですが、昨年、グランドセイコーのプロジェクトで日本に訪れた際に考えが変わりました。そのプロジェクトでは、東京の素晴らしいロケーションを巡って撮影をする機会に恵まれ、クルーと時計について語り合いました。そうした体験がきっかけとなって、“着けるべき時期がきたんだな”と感じたのです。その滞在中も東京でダイバーズを探したのですが、残念ながらその時は出会うことができませんでした。その後、新品同様の美しい個体を見つけることができて、とても気に入って着用しています」。
ほかには、旅が多いオリンズを支える5つのタイムゾーンを設定できるカシオウォッチや、遊び用としてカスタムウォッチである“サブマリーナー モッド”を所有しているという。スタイリッシュでシンプル、そして実用的なものを好むオリンズ。だが、スマートフォンの普及によっていつでも、どこでも簡単に時間を知ることができる現代において、腕時計を持つことの意味はオリンズにとってなんなのだろうか。
「現代だからこそわざわざ腕時計を着ける意義があるのだと思います。現代社会の多くはテクノロジーを中心に回っていて、人々はスマートフォンに夢中になり、依存しているとさえ言えます。私はこうしたものにあまり頼らず、シンプルさを大切にする生活を目指しています。時間を知りたいのなら、時計をチラッと見ればいい。スマートフォンに触れる必要がなくなるだけでなく、美しい工芸品を愛でるささやかな喜びの瞬間が生まれます。そして、その体験こそが、私が理想とするライフスタイルを強化してくれるのです」。
ジョシュ・オリンズ
イギリス・ロンドン生まれ。ファッション雑誌、広告、セレブリティの撮影で活躍するファッションフォトグラファー。独特な構図の精密さで知られるオリンズの写真は、被写体をエレガントで自然に描写することで評価されている。
Photo Ben Breading | Interview & Text Takayasu Yamada |