NOT TiGHT DOMI & J.D. BECK

秀抜スキルにユースな感性 技巧派ニューアイコンのドミ&J.D.ベック

Domi & J.D. Beck NOT TiGHT
Released 3rd August 2022
Length 44:08 Blue Note

秀抜スキルにユースな感性
技巧派ニューアイコンの誕生

無造作に肩まで伸ばした髪にデニムのセットアップの少年、そしてまるでアニメの世界から飛び出してきたかのようなブロンドの少女。このアイコニックな二人の若き才能、ドミ&J.D.ベックをご存知だろうか。キーボードのドミ(写真右)は22歳、ドラムのJ.D.ベック(写真左)は18歳という若さながら、その年齢を超越したテクニカルかつメロディックな演奏でSNSやYouTubeを通して世界中から大きな注目を集め、アンダーソン・パークが立ち上げたレーベル、エイプシットと名門ブルーノートと契約したのち今年8月に待望のデビューアルバムをリリースした。アルバムには仕掛け人のアンダーソン・パークだけでなく、ハービー・ハンコック、スヌープ・ドッグにバスタ・ライムス、サンダー・キャット、マック・デマルコ、カート・ローゼンウィンケルという、アルバムを聞く前からワクワクするような名だたるアーティストがこの『NOT TiGHT』に参加している。

2000年にフランスで生まれたドミは、わずか3歳の頃からピアノとドラムの演奏をスタート。フランス国立高等音楽院を卒業したのち、名門校であるバークリー音楽大学に入学した。一方2003年にテキサス州のダラスで生まれたJ.D.ベックは10歳の頃から演奏活動を始め、ジャズのライブセッションなど数々の現場を経験していく中で自身のスキルに磨きをかけた。ショーの出演をきっかけに出会った二人は、その後エリカ・バドゥのバースデーパーティーで共演。その後も定期的にセッションを重ねるうちにSNSや動画の配信を通して彼らの存在は瞬く間に人々の目に止まった。大物と共演しているから良いということではないけれど、本作に参加するミュージシャン達のラインナップからは彼らの実力がいかに群を抜いているかが見て取れるはずだ。メロウなヴォーカルが心地よい「TAKE A CHANCE」、ハービーのピアノソロも圧巻な「MOON」、フュージョン感溢れる「WHOA」、緊張の中に生まれるグルーヴが際立つ「WHATUP」など、全ての曲において到底22歳と18歳のプレイとは思えない洗練された音楽の数々がこの一枚に詰め込まれている。

ジャズ界の新生と言われる二人だが、ベテランも唸る演奏テクニックはもちろんのこと、それぞれの個性が感じられるファッションにも注目してもらいたい。長く伸ばしたブロンドのツインテールがおきまりのヘアスタイルのドミは、ファンシーなパステルカラーのドレスにスニーカーを合わせるなど日本のアニメや原宿カルチャーを想像させるようなガーリースタイル。J.D.ベックはスウェットやTシャツ、オーバーオール、時にはジャージのセットアップなど、ストリート感のあるラフなファッションが彼のスタイルのようだ。いわゆるジャケットにスーツ、といったクラシックな装いではなく、それぞれの魅力を生かしたユースらしいリアルな感性は、ジャズが誰にとっても身近で日常的に楽しめる音楽であるということを証明しているかのようだ。さらに彼らの音楽は技巧派であることに違いはないが、意外にもその耳あたりはソフトである。“超絶テク”などと言われるとなんとなく、途中で聴くのが疲れてきそうな玄人向けの音楽を想像してしまうのだけれど、そんな心配は一切無用で、むしろビギナーにこそ聴いてもらいたいカジュアルでありながら一流の現代ジャズ作品の一つである。デビューしたばかりということもあり、日本ではまだあまり知られていないような気もするのだが、これから一層彼らの活躍にはさらに注目が集まっていくだろうし、幅広いリスナーにその魅力が伝わっていってほしい。あいにく今回もレコードの販売が間に合わなかったのだが、『NOT TiGHT』のアナログ盤は11月11日に販売を予定しているようだ。今年の秋は、是非彼らのフレッシュなジャズの魅力に触れて芸術を楽しんでもらいたい。

ドミ&J.D.ベックキーボードのドミ、ドラムのJ.D.ベックによるユニット。若干22歳と18歳という若さながら、卓越した演奏テクニックで話題を集める。2022年にアンダーソン・パーク手がけるレーベル、エイプシット・インクとブルーノートと契約し、待望のデビューを果たした。

Select & Text Mayu Kakihata

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