New Classics of the World 01 Nicholas Daley

ニコラス・デイリーが考える New Classicとは

時に風化されず受け継がれてきたクラシックを新しく見直すデザイナーたちの存在感が強まる昨今。そんなデザイナーたちは温故知新的に探求し、どのようなアプローチで新しくもあり、普遍的でもあるデザインを生み出しているのだろうか。彼らが考えるニュークラシックについて聞いてみた。

Nicholas Daley
時代を超越した感覚と
“本物”であるという
感覚を持つこと
ニコラス・デイリー

バッグが主力の英国ブランド、マルベリーの50周年を記念して発表されたニコラス・デイリーとのコラボレーションコレクション。キャンペーンビジュアル、動画では、コレクションのアイテムを身に着けたミュージシャンが、今回のコラボのために作られた曲を演奏している。

2015年よりロンドンをベースに活動を行うブランド、ニコラス・デイリー。数多くのファッションブランドがひしめき合う中でも、さまざまなカルチャーと融合させたコレクションで異彩を放ってきた。そんな自身のルーツと紐づく要素やカルチャーを表現する同ブランドデザイナーのニコラスが今考える「New Classic」とは何か話を聞いてみた。

文化と伝統に敬意を払う
時代を発展させる服作り

「時代を超越した感覚と“本物”であるという感覚を持つこと。つまり、古典的でクラシカルな文化のDNAに触れつつも、それを踏まえて時代を前進させるようなプロダクトやアイディアを生み出すことだと思う。ニコラス・デイリーでは過去と現在の繋がりについてや、様々な文化の伝統を尊重しながら幅広い視点でファッションと向き合っている。例えばテーラリングテクニックの使い方やその起源を理解し、モダンなアプローチでコレクション制作することだったりね。他にも音楽やフィルムなど、様々なクリエイターやアーティストと共に、現代の文脈に合ったクリエイションを発信しているんだ」。

様々な世代、文化、時代を超越する技術や素材。それらはニコラス・デイリーのクリエイションにおいて物理的な衣服としてだけではなく、ルーツや影響を受けてきた音楽の要素を散りばめながら、カルチャーと融合していく。

「同世代のアーティストから僕の親の世代、それ以上の世代までのミュージシャンたちと幅広く一緒に仕事をしているよ。現代UKジャズシーンの最前線で活躍するシャバカ・ハッチングスやマンスール・ブラウンとコラボレーションした時も、彼らは何百年も前から存在する楽器をどのように演奏するかを古典的な音や作曲家について勉強して学ぶところから楽曲制作を始めるんだ。なぜならクリエイターとして学び進化するためには、自分が好きなジャンルの基礎や歴史を理解する必要があるからね。その上で自分自身の視点や個性、クリエイティブな要素を加えてアレンジすることが初めてできる。僕自身だけじゃなくて、アーティストによるショーでもカルチャーに影響を与えてきたルーツを辿り、そしてそれら全ての要素がクラシックというアイディアの中で溶け合っているんだと思う」。

ブランドアイデンティティが交差する
豊かなストーリー溢れるプロダクト

ショーにおいても親交のあるアーティストによるライブを行うなど、単なる洋服の枠組みにはまらないアプローチで英国のクラフツマンシップとカルチャーのルーツをモダンなスタイルに落とし込むニコラス・デイリー。タイムレスなデザインと高い品質を誇る英国発祥の伝統的なレザーブランド、マルベリーの創立50周年を記念して発表されたコラボレーションにおいても、ブランドのアイデンティティ、音楽への敬意と愛情を存分に反映させている。

「ジミ・ヘンドリックスやマイルス・デイヴィスら、ミュージシャンがステージ上で着用していた衣装など、60年代~70年代の音楽的要素を、ブランドのアイコンバッグ“アントニー”をはじめとしたアイテムにミックスした。このカプセルコレクションではこれまでに共に仕事をしてきたミュージシャンのことを思いながら作ったんだ。さらにキャンペーンムービーでは、シャバカ・ハッチングスやグラミー賞にノミネートされた経験を持つリアン・ラ・ハヴアス、ジャズアーティスト育成機関のトゥモローズ・ウォリアーズのメンバーを起用した。僕にとってミュージシャンは、それぞれが演奏する楽器のクラフツマン的存在でもある。そんな音楽的なクラフツマンシップと革製品を作る職人技術を組み合わせることで、新たな価値が生み出されると思ったんだ」。

ただのプロダクトとしてはなく、それぞれのブランドの本質的な部分と真摯に向きあうことで、より深みのあるストーリーが生まれる。英国に根付く高い製造技術や長い歴史を持つ数々のブランド、マルベリーのような歴史やクラフツマンシップを大切にするブランドとニコラスのアイデンティティが混じり合うことで、人々の気持ちを豊かにしてくれるような心温まるストーリーあるプロダクトが作り出されるのだ。

Photo piczo

キルティングの文化とアメリカのディープサウス、ブラックフォーク、ブルースなどにフォーカスをあてた2022春夏コレクション。ニコラスが特に気に入っているというこちらのルックは、キルティングアーティストのマイケル・ソープ独自の色使いや作品のテクチャーからインスピレーションを受けている。ハンドメイドで制作されたキルティングは、アイルランドの優れた織物職人によるもの。
自身のルーツへの
純粋なリスペクト

SS22コレクションでは、太平洋を超えて受け継がれてきたキルティングの文化とアメリカの最南部、そしてイギリスのブラックフォークやブルースの発展を探求したニコラス。ニューヨークを拠点に活動するコンテンポラリーキルト作家マイケル・ソープの作品から着想を得たカラーパレットは、伝統やカルチャーに敬意を払いながらコンテンポラリーな作品を制作する同アーティストの魅力を独自の色彩感覚やテクスチャーで表現した。ニコラスが属するコミュニティにフォーカスした本コレクションは、自身に紐づくルーツの深くパーソナルな部分と、アーティストへの純粋なリスペクトをより深く感じさせてくれた。

音楽への愛情、敬意をクリエイションに落とし込み発信していく。そしてニコラスのその姿勢に共感するアーティストが洋服を身につけて、さらにその影響が広まっていく。クラフツマンシップやカルチャーが結び付けられたニコラスのクリエイション。それは彼の思想を服作りで表現した新時代への意思表示なのだ。

ニコラス・デイリー
ジャマイカとスコットランドにルーツを持つロンドンを拠点に活動するデザイナー。2020年にはLVMHグループ主催の新人デザイナー賞「LVMH PRIZE」にてファイナリストにノミネートされた経験を持つ。
@nicholas_daley
Photo Andy Campbell

◯Nicholas Daley
https://nicholasdaley.net/

Interview & Text Shunya Watanabe

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