MUSIC YUSSEF DAYES EXPERIENCE - LIVE FROM MALIBU YUSSEF DAYES

近年、UKのジャズシーンが特に盛り上がっていると感じる。今回紹介するユセフ・デイズもそのシーンにおける最も重要なジャズドラマーのひとりだ。本作は昨年ユーチューブで公開されたマリブ山脈での野外パフォーマンスが収録されたもので、動画再生数は現段階で164万回を超えている。 先日行われたブルーノート東京での来日公演は、あいにく初日は中止となってしまったものの、3日間のチケットが全てソールドアウト。その人気は日本でも既にお墨付きだ。ユセフ・デイズは1993年、南ロンドン生まれのジャズドラマー・プロデューサー。ジャマイカ系の父の影響で幼い頃からジャズやレゲエに親しんできたという。その影響もあってか、彼のドラミングは繊細かつ技巧的でありながら自身のルーツを彷彿させる縦横無尽なビートで、ファンク~ジャズ~フュージョンなどがクロスオーバーした極上のサウンドを作り上げる。2023年9月にはソロデビュー作『Black Classical Music』をリリースし、トム・ミッシュをはじめとした豪華ミュージシャンの参加も話題となった。今回のマリブのパフォーマンスにはユセフのほかに、ベースのロッコ・パラディーノ、サックスのヴェンナ、キーボード・シンセサイザーにイライジャ・フォックス、コンガ・パーカッションにアレクサンダー・バートが参加しており、以前カリフォルニアのジョシュア・ツリーで行われた野外パフォーマンスと同じメンバー編成となっている。構築されたリズムで思わず聴き入ってしまう「Istanbul」から幕を開け、『Black Classical Music』収録のオリジナルバージョンとは一味違う 「Tioga Pass」「Black Classical Music/Afro Cubanism」、サンセットの哀愁を感じさせるエンディング「The Colour Purple」など、ダイナミックで臨場感あふれる素晴らしい収録に思わず時を忘れてしまう。公開されている動画を観てもらうと分かっていただけると思うのだが、時間の経過と共に変化する太陽の光が音楽と溶け込み、彼らの音楽と一体化しているかのようなスピリチュアルな空気がこのアルバムには吹き込まれている。マリブ山脈とジョシュア・ツリーのパフォーマンス動画を観たとき、ピンク・フロイドのポンペイ遺跡でのライブを収めた映画『Pink Floyd Live at Pompeii』という作品を思い出した。1972年に公開されたこの映像作品は、広大な古代遺跡で無観客の中パフォーマンスを行うという、大観衆の野外ライブとなったウッドストックと真逆のことをするという実験的な試みであった。観客に向けて演奏をしないという普通と異なるライブスタイルは、そのアヴァンギャルドな概念で当時の音楽シーンでも話題になったという。しかしある意味それはアーティストの表現力を最大限に引き出す最もクリエイティブな表現の場であるのかもしれないし、彼らの映像から壮大な音のエネルギーを感じたのは私だけではないはずだ。今後ますます目が離せないイギリスのジャズムーブメント。彼らをはじめとした、シーンを彩る優れたミュージシャンたちの動向に今後も目が離せない。

ユセフ・デイズ
1993年、南ロンドン生まれ。現代のUKのジャズシーンの最前線を走るドラマー・プロデューサーのひとり。その技巧と洗練されたリズムセンスで一際注目を集め、2023年には『Black Classical Music』でソロデビューを果たし大きな話題となった。