MUSIC THIS YEAR'S MODEL ELVIS COSTELLO & THE ATTRACTIONS

英ロックシーンを切り拓いた 反抗のポップサウンド

Elvis Costello & The Attractions
This Year’s Model
Released 17th May 1978
Length 42:00
Radar Records

1978年にリリースされたエルヴィス・コステロの『This Year’s Model』。カメラとメガネと聞いて頭に浮かぶのは、このアルバムしかない。コステロといえば、スーツスタイルにウェリントン型のメガネ、クラシックなハット、遊びの効いたチェックや柄のシャツにジャケットが定番で、そのナードでやんちゃなスタイルがいかにも英国らしい。本作は彼のセカンドアルバムとして、バックバンドに、ジ・アトラクションズを率いた最初の作品となった。ファーストアルバム『My Aim is True』に続き、今作もニック・ロウをプロデューサーに迎え、マネージャーであるジェイク・リヴェラによって設立された新レーベル、レイダーからのリリース。ツアーに明け暮れる多忙なスケジュールの真っ只中で、クリスマス前後の約11日間で制作された。アナログはイギリス、アメリカ、日本とで仕様が作り分けられた。まず選曲が異なり、そしてジャケットの裏表で使われている写真、インナースリーヴ(小型のポータブルテレビのようなものを手袋をはめた手で持った)の写真も各国盤で何パターンか存在している。さらにアメリカ盤のラベル(コロンビアからのリリース)は普段は“COLUMBIA”リム部分が“COSTELLO”で印字されるなど細部に至るまで遊び心が溢れる。ジャケット右にあえて残したカラー・パッチのデザインも秀逸だ。1954年、ロンドン郊外のパディントンで生まれた彼は、ジャズのビッグバンドでトランペッターをしていた父の影響もあり、幼少の頃から様々な音楽に囲まれて育った。エルヴィス・コステロの名前はエルヴィス・プレスリーの名前と父親の芸名の名字から取って付けたものである。ブリティッシュ・ビートやR&Bにロックンロール、さまざまな音楽に触れてきたコステロだが、中でもフォークやラグタイム~カントリーといったアメリカのトラディショナルな音楽から影響を受けているのも彼の音楽性の中で大きな特徴。スティッフ・レコードに送ったデモテープをきっかけにデビューを果たし、そのポップなサウンドに乗せられたシニカルな歌詞がほかにはない新しいパンクの形は若者だけでなく多くのメディアや評論家からも注目を集めたという。本作がリリースされた70年代後半のイギリスといえば、パンクやニューウェーブが活性していた時期。国の体制や”大人”達への不満やアンチテーゼを掲げた音楽が若者たちの中で一つのムーブメントとして浸透していわけだが、そんな中でエルヴィス・コステロは、その反骨精神故に世間から“アングリー・ヤング・マン”として知られるようになる。テレビに生出演した際には、ラジオ局を非難した歌詞のため放送禁止にされていた「レディオ・レディオ」をわざと演奏したり、メジャーレーベルのCBSから注目を集めるために、幹部が集まる会議の会場外でゲリラライブをして逮捕されたり。日本においても来日公演の際にチケットの販売枚数が振るわなかったことで、銀座の路上で学生服を身にまとった彼らがトラックの荷台でゲリラライブをしたというのも有名な一説だ。数々の大胆なプロモーションは彼の異端児としてのイメージを象徴していくものとなっていったが、このような過激な行動にもかかわらず彼が単なる荒くれ者へと成り下がらない理由は、歌詞や言葉から垣間見える知性、あらゆる音楽のルーツを模索してきた深い音楽性があるからこその説得力にほかならないだろう。50~60年代の王道ポップスを彷彿させるような親しみやすいサウンドに、鼻にかかるような不器用なヴォーカル。一見これが本当にパンクなのかと疑問に思うかもしれない。だがその反抗的でありながらもポジティブなエネルギーを感じさせてくれるポップなアプローチと、持ち前のインテリジェンスで社会に物申すその姿は、もはや音の構造がどうのこうのという風には説明できない、誰もが認めざるをえない最高のパンクであったということだろう。学生の頃によく聴いていたアルバムだからなのかもしれないけれど、大人になって聴いてみても、やっぱりコステロ(特に初期)は私にとって甘酸っぱい青春の味がする。親しみやすいポップな世界観に込められた真っ向勝負の反抗心、それはいつだってあの頃の熱気を呼び覚ます。

エルヴィス・コステロ
1954年生まれのロンドン郊外、パディントン出身。1977年にデビューし、そのポップな音楽センスとリアルで鋭いソングライティングでパンク〜ニューウェーブシーンに降臨した。その後も様々なアーティストとの共作やプロデユースなど、ひとつの場所に固執しない幅広い挑戦を続ける。妻はジャズ・シンガー、ピアニストのダイアナ・クラール。

Select & Text  Mayu KakihataPhoto  Taijun Hiramoto

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