MUSIC KARPEH CAUTIOUS CLAY

3部構成で自身を掘り下げる コーシャス・クレイの新アルバム

Cautious Clay KARPEH Released 18th August 2023 Length 41:37 BLUE NOTE
インディー時代に見出された確かな存在感
己自身を語るメジャーデビュー作品

コーシャス・クレイというミュージシャンを知っているだろうか。1993年生まれ、オハイオ州クリーブランド出身のシンガーソングライター、プロデューサーであり、現在はブルックリンを拠点として活動をしている。そんな彼の経歴は少しユニークで、元々は不動産業者として働きながら、その傍らで楽曲制作などインディーでの活動をしていたという。そんな中でビリー・アイリッシュのリミックスを担当することになったり、デビュー曲「Cold War」がテイラー・スウィフトの楽曲「LondonBoy」にサンプリングされたりと、その才能は既に名だたるアーティスト達によって早くも見出されていた。そしてジョン・メイヤー、UMI、レミ・ウルフをはじめ、多くの著名アーティストとのコラボレーションでも度々注目を集め、楽曲総再生数はすでに2億回超えという、間違いなく今後のシーンでさらなる飛躍を遂げるアーティストのひとりである。今回彼のメジャーデビューとなる最新作『KARPEH』が、ジャズの名門ブルーノートからリリースされることとなった。コーシャス・クレイという名前は彼のステージネームであり、タイトルには本名のジョシュア・カルペからラストネームをとって名付けられている。そんな本作では自身のルーツやアイデンティティをテーマに、彼そのものの生き様が表現されているようなリアルなコーシャス・クレイの今を映し出している。漂うように軽やかなR&Bが心地よい「Fishtown」や「Ohio」をはじめ、「Karpehs Don’t Flinch」「Blue Lips」「Tears of Fate」「Yesterday’s Price」などグルーヴィーなジャズナンバー、しっとり歌い上げるバラード「AnotherHalf」、「Repeat Myself」など、様々なテイストにアプローチした楽曲が並ぶ。持ち前の滑らかなヴォーカル、デジタルを駆使しつつも、要所で垣間見えるオーセンティックな要素をミクスチャーした表情豊かなアルバムへと仕上げられている。ジュリアン・ラージ、アンブロース・アキンムシーレ、イマニュエル・ウィルキンス、ジョエル・ロスといったジャズシーンを牽引するアーティスト陣のサポートも本作では注目したいポイントだ。さらには彼自身が、サックス、フルート、ギター、キーボード、ベースにドラムまでもこなすマルチ奏者であることも、彼の音楽に幅の広さを感じる理由の一つかもしれない。本作の楽曲は「The Past Explained」、「The Honeymoon of Exploration」、「A Bitter & Sweet Solitude」過去、探検、孤独といったキーワードから成る3パートで構成され、「The Past Explained」に当たるトラック1~6では、自身の基盤とも言える幼少期の家族と過ごしたオハイオでの過去、またその頃に経験したことや感じていたことなど今の彼を作ったベースのストーリーが、「The Honeymoon of Exploration」に当たるトラック7~11はこれまでの人生の悪癖を受け入れ、過去を語るための自身の振り返りが、そしてトラック12~15の「The Past Explained」では家族や友人、大切な人たちといる時にヘルシーな心を持った自分でありたいということ、そしてそのために自分ひとりで過ごす時間も彼にとって大切な美学であることを音楽を通して表現されている。自身の内面的な部分に踏み込み、音楽的にも類い稀なセンスを発揮したこのデビュー作はまだコーシャス・クレイのことを知らないという人たちにまず聴いてもらいたい一枚だ。今回、CDやアナログレコードの発売だけでなくアルバムのジャケットなどがモチーフにされたTシャツやトレーナー、トートバッグなどのアパレルの展開もあるようで、これらも思わず手を伸ばしたくなるアイテムが揃う。そちらも是非ともチェックしてみてほしい。今回紹介をしたコーシャス・クレイに限らず、近年は国内外でも本当に多くのアーティストがCDだけでなくアナログレコードを出すようになった。デジタルのストリーミングなどでいくらでも気軽に、時にはお金をかけずとも音楽が聴けるにも関わらず、年々レコードの人気が高まるというおかしな現象が現代には起きている。ミニマルで便利な暮らしもいいけれど、時間をとって少し手間をかけて聴くアナログならではの情緒的価値を、私たちは改めて再認識しているのかもしれない。

コーシャス・クレイ
1993年生まれ、オハイオ州クリーブランド出身のシンガーソングライターであり、プロデューサー。テイラー・スウィフトからの楽曲サンプリング、ビリー・アイリッシュ、ジョン・メイヤー、UMI、レミ・ウルフなど名だたるアーティストとの共演も話題となっている。ブルーノートと契約しメジャーデビューアルバムを発表した。

Select & Text Mayu Kakihata Photo Taijun Hiramoto

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