Jeanne Signoles (L/UNIFORM Founder)

腕時計とは人とのつながりを 象徴するもの ジャンヌ・シニョール

ジャンヌ・シニョールは過去に計量経済学の修士号を取得し、航空・金融業界で活躍。その後、老舗バッグブランドでの経験を経て、夫のアレックス・シニョールとともに「リュニフォーム」を設立した創業者兼アートディレクターだ。一見繋がりの見えない経歴だが、リュニフォームのアイテムに見られるファッション性を持ちながらもシンプルで実用性に富んだデザインからは、彼女が数学・経済の世界で学んだであろうロジカルなものの捉え方が見て取れる。そんなアート的思考と合理的思考を併せ持つ彼女の考える腕時計の魅力とは一体なんなのだろうか。

腕時計の魅力に気づかせてくれた
ゴールドロレックス

「元々私には腕時計をつける習慣がなかったんです。そんな私が時計に夢中になるきっかけを作ってくれたのはヴィンテージロレックスのコレクターである夫の存在でした。30歳の誕生日にプレゼントしてくれたシンプルなゴールドのデイトジャストは、彼の存在を常に身近に感じさせてくれる大切な存在です。この1本をきっかけに私は腕時計に夢中になっていきました。今ではユニークな歴史や物語を持つヴィンテージピースに惹かれています。例えば、20世紀初期のカルティエ“バニュワール”はアラビア数字の文字盤とリジッドなゴールドブレスレットを備えた、個性と伝統、職人技を感じさせる素敵な1本。ただ今回3本すべてをロレックスにしたのは、私にとってロレックスはタイムレスな時計の代表的存在だからです。バニュワールからは時計というよりもジュエリーに近い雰囲気を感じますが、ロレックスは、特にそのデザインにおいて時計として唯一無二の存在感を放っているんです」。

Datejust (1980) by Rolex
取材時にはシンプルなモノトーンのコーディネートにゴールドのロレックス デイトジャストとジュエリーを合わせたスタイリングが印象的だったジャンヌ。華美な印象を与えることもあるゴールドだが、ともにフランス出身のデザイナーが手がけるブランド、“マリー=エレーヌ・ドゥ・タイヤック”のジュエリーと“フィービー・ファイロ”の洋服によってまとめられ、洗練された優雅なパリスタイルに落とし込まれている。
ジャンヌの考える
時計選びの基準

1本のロレックスから始まったジャンヌの腕時計への探究心は、様々な種類、ブランドへと移り、最終的には再びロレックスへと帰ってくる。今回紹介してもらった“エアーキング”“デイトジャスト““ディープシー“はどれもドレス、ダイバーズウォッチを代表するモデルであるが、その腕時計の選び方には彼女のブランド哲学にも通ずる信念があった。
「私は非常に合理的かつ論理重視な性格なので、チーズやワインを選ぶ時はもちろん、バッグや時計選びにおいても常に同じルールで選ぶようにしています。選ぶ基準は“自身の生活に馴染むこと”。リュニフォームのバッグが日常に寄り添う機能性、デザインを備えているように、今回選んだどのロレックスも私が好んで着るファッションスタイルに自然に馴染むので、服装を選ばずつけることができる。また、オンオフを選ばないシンプルなデザインも重要な要素のひとつです。私は常に腕時計をつけているけれど、仕事とプライベートで使い分けることはしないので、どちらにも対応できるということが、大切なんです。また、時計とジュエリーを組み合わせるのが大好きなので、バランスには細心の注意を払っています。毎日様々なシチュエーションで使うからこそ、シンプルなデザインと高い品質を兼ね備えていることが重要です」。

L to R
Air King (1977) by Rolex
Datejust (1980) by Rolex
See-Dweller Deep Sea (1990) by Rolex
夫からプレゼントされたデイトジャストをきっかけに、ロレックスの世界へと魅了されていったジャンヌ。オン/オフ限らず毎日腕時計を身につける彼女にとって、タイムレスなデザインは腕時計選びにおいて重要な要素のひとつと言える。腕時計をしまっているウオッチケースは自身のブランド リュニフォームのもの。携帯用のケースになっており、好きな時計を持ち歩くことができる。
腕時計だけが持ち得る
本当の価値

合理性を持って腕時計を選ぶ一方で、ジャンヌは腕時計が持つ最大の魅力は「時を刻むという機能そのものにある」のだと語ってくれた。
「時間はかけがえのない資源であり、大切にするべきものです。単に分や秒を数えるためのものではなく、大切な人たちと過ごす思い出や経験をつくるためのもの。時を刻む腕時計には、単なるアクセサリー以上の価値があるのだと思います。ツールとしての機能性だけでなく、個性やスタイルを表現するステートメントピースであり、思い出や物語を宿す特別な存在にもなり得る。私にとって腕時計は結婚指輪のようなもの。愛や思い出を共に刻み、深く結びついています。だからこそ、私は腕時計なしでは過ごせないんです。一度だけ忘れて出かけてしまったことがあるのですが、その日の予定を変更して家に取りに帰るほどでした。それぞれの時計には、人生の重要な瞬間や大切な人との繋がりを刻んできた歴史があります。その絆こそが腕時計最大の価値であり、何よりもかけがえないのものだと思います」。
彼女の手がけるリュニフォームのアイテムが華美な装飾を避け、実用性を重視しタイムレスに使い続けられるよう設計されているように、彼女にとって腕時計は、自身の人生をともにする役割を果たしているのだろう。

ジャンヌ・シニョール
1977年フランス・ボルドー生まれ。航空業界や金融業界でキャリアを積んだのち、ゴヤールに入社、10年以上にわたり、コマーシャル部門を統括するなど活躍した。その後2014年に夫とともにリュニフォームを設立。日本では青山に旗艦店を構えるなど、高い注目を集めている。

Photo    Mari ShimmuraInterview & Text    Katsuya Kondo

Related Articles