Interview with toogood

トゥーグッドが考える 「Respect for Heritage」

ユニフォームに刻まれた
職人のヘリテージ

ロンドンを拠点にしたデザインスタジオ、トゥーグッド。2008年にフェイ・トゥーグッドがインテリア雑誌のエディターを勤めたのちに立ち上げた。サヴィル・ロウでパタンナーとして経験を積んだ、妹のエリカ・トゥーグッドとともにユニセックスウエアを展開し、生涯かけて纏える服づくりを目指す。『ファッション業界ではなく、働くプロフェッショナルによって形成されるファッション』をマニフェストに掲げ、クラフツマンシップの享受をブランドの中核としている。アイテム名に写真家、大工、エンジニア、ピアニストなどの生業が使われているのが特徴的だ。トゥーグッド姉妹が惹かれる職業人の魅力とタイムレスなデザインの関係性とは。

パスポートと呼ばれるタグには、製作工程に関わる全ての人のイニシャルが記載されている。着用者のイニシャルを書く「WORN BY」の欄もあり、ここから服のストーリーが読み取れるようになっている。
働く人の人生の一部となる服

─ トゥーグッドを立ち上げたきっかけを教えてください。

フェイ 雑誌の2次元の世界だけでなく、3次元のスペースで働きたいという気持ちから始めました。ものづくりをしてみたかったけれども、デザインを勉強したわけでもないし、何から手をつけていいかわからなかった。とりあえずウェブサイトを立ち上げて、インテリアをやってます、と書くところから始まったの。当時自分で作ったインテリアは一つもなかったけど(笑)エリカそれが15年前の話ね。

フェイ 独立して最初の仕事をした相手は、「コム・デ・ギャルソン」。一緒にお仕事ができたらとクリスマスカードを送ったことがきっかけで、ロンドンのドーバーストリートマーケットのシューズコーナーを手がけることになりました。そこから色んなことに挑戦していく中で、2013年にエリカと一緒にプロジェクトを始めることを思いついたの。そのプロジェクトというのが職人にまつわる8つのコートの制作で、私たちの友達のアーティストやデザイナー、建築家などに着てもらう服を作ろうと考えた。

エリカ その背景としては、2012年にロンドン・デザイン・フェスティバルの一環で7×7というプロジェクトがあり、セブン・ダイアルズ・ストリートに飾る49着のコートを作る機会をいただいたの。印刷工や製本工を始めとし、数百年の間にそのエリアにいた49の職人をテーマにハンドメイドのオーバーサイズコートを作りました。そのことがきっかけで働く人にインスパイアされ、自分たちの周りの人々を結びつけながら服を作ってみようと思ったんです。フェイそれぞれの職業のスタイルをみていると、面白いことに性別や年齢に関係なく同じような服装をしていることにも気づいたの。であれば、ある特定の人だけに向けた服でなく、性別や年齢を超えた全ての人に向けた服作りができるのではないか、という発想がブランドの重要な出発点になりました。

─ 具体的にはどのように職業をデザインに落とし込むのですか。

エリカ 働く人のヘリテージの魅力とは何かと考えると、熟練性が一つに挙げられます。そのタイムレスな魅力をさらに進化させて彫刻的に落とし込むのが私たちのアプローチです。7×7のプロジェクトで作ったコートやトゥーグッドのファーストコレクションを見るとわかると思うのですが、ドロップショルダーや曲線を描くスリーブといったカッティングを多用していて、まるで熟練の技をもつ職人が服の中に存在しているかのような雰囲気を醸し出すの。

フェイ ファーストコレクションでは一切真っ直ぐなラインを使わなかったわ。

エリカ ええ。ファーストコレクションでは友人や知人に私たちのブランドを着せるというのが目的ではなく、私たちが彼らの人生の一部になりたかった。まとうことでその人らしくいられるような服を作りたくて。だから実用性も忘れていません。

フェイ 私たちのクリエイティブプロセスの出発点は、全てを疑問視するところから始まります「。どうしてこれは必要なのか?」「なぜ襟付きではないとだめなのか?」「どこにポケットが必要なのか?」「このファブリックから服を作れるか?」といった質問を重ねていくことで、ある種のイノベーションをもたらしたくて。

自身のヘリテージから紡ぐストーリー

─ 姉妹間でのクリエイティブプロセスの分担はどのようにしていますか?

エリカ 私がテーラーで、フェイがストーリーテリングを担当しています。姉妹なので同じバックグラウンドを持っていて、私たち自身のヘリテージが存在しているのは大きい。子どもの頃に見たものから影響を受けて形成された感覚を共有しているから、自動的に疑問を抱くことなく一つの作品に仕上げることができる。

─ 子どもの頃の影響にはどのようなものがありますか?

フェイ 働く人のユニフォームに興味をもったきっかけの一つに、学校の制服があると思う。制服って、何だかアイデンティへのアンチテーゼのようで。小さい時は制服を強制的に着なければいけないものだったけれど、大人になると自分で選んだユニフォームを着ることで、それが自身のアイデンティティになるわけで。それから私たちが若い時に出会った、アーヴィング・ペンの『スモール・トレード』という本にも大きな影響を受けたわ。昔の商人が被写体になった本当に素晴らしい写真集で、職業人やクラフトマンシップから滲み出るものに惹きつけられた。彼らの服装にも魅せられて。他のブランドは、ヴィンテージの生地だったりボタンだったり、昔に作られたものがインスピレーション源になることが多いと思うけれども、私たちは職人自体がインスピレーション源になってる。「彼らがどのように働いているのか?」「どこで働いているのか?」「何を考えていて、何を必要としているのか?」などと質問を問うことで、私たちが服を作る理由を考えるの。トレンドは気にしない。

エリカ ポエティックな会話もまた、私たちが服を生み出すプロセスにはあって。毎シーズン、コレクションには詩を添えて、全ての服にパスポートをつけています。パスポートには私たちデザイナー、裁断師、裁縫師、プレッサー、フィニッシャーといった製作工程に関わる全ての人のイニシャルを記載して、着用者のイニシャルを書く欄も設けてあります。だから母から子へその服が受け継がれていけば、それぞれのイニシャルを添えて、服のストーリーを紡ぎ続けることができるの。

─ まさにヘリテージが服に刻まれていくんですね。

エリカ だからこそ長く服を着てもらえるように、タイムレスなデザインは欠かせません。サステナビリティの面でも、長期間使えるものをつくることを重要視しています。

ワンシーズンで終わらない服づくり

─ 今まで発表してきたコレクションの中で、特にお気に入りのアイテムはありますか?

フェイ 私のワードローブに欠かせないアイテムで、毎冬着ているのが、オイルリガー(油井作業員)コート。ファーストコレクションで使った形の一つ。ブリティッシュカシミアを使っていて、すごく心地いい。それから、フォトグラファー(写真家)ジャケットね。私たちのDNAの一部と言えるトゥーグッドの定番アイテム。毎シーズン出しているけど、素材やカラーを変えたりして、それぞれ異なる個性を出しているの。あと、今私が着ているポッター(陶芸家)トップもよく好んで着ています。すごくシンプルで、トゥーグッドの中でも特に綺麗めな形をしているかも。ラムウールの
強めの素材だから、オーバーサイズで大きめに着るのが好き。

エリカ 私にとってのお気に入りアイテムの一つめは、エクスプローラー(冒険家)コート。大きなフードに巨大なジップがついて、ウォータープルーフで、下に何を着ても包み込んでくれる大きくてしっかりとした作りになっている。ときに何かを生み出す時って、どこに向かっているか最終地点が見えていないけど、直感に従って進んでいくしかないっていう状態があるじゃない。まさにこのコートの形にたどり着くまでのプロセスがそうだったから、冒険家のように物怖じすることなく先の見えない道を探検して欲しいという意味を込めてるわ。それから、フォトグラファー(写真家)ジャケットは私にとっても特別。フォトグラファーのシルエットって、肩にかけては小綺麗だけれど、たくさんの荷物を抱えているのが特徴的でしょ。だから、ジャケットにレンズが入る大きなポケットを加えたのがポイントです。

次に、今私が着ているフェンサー(剣士)ドレスは、私自身のユニフォームになっています。手前にかなり大きなポケットがついているから必要なものが何でも入るの。そして、もっとも履き心地のいいパンツの一つがベイカー(パン職人)トラウザー。まるでパンが膨らんでいくかのようなボリューム感が肝で、パンを食べすぎても大丈夫な仕様になっています(笑)。毎シーズン出している必須のシルエット。いつも自分たちの過去のコレクションを見ながら、インスピレーションをしてアップデートし続けるのが私たちのスタイルです。

フェイ そう、私たちは毎度コレクションを作る前に、自分たちのコレクションのアーカイブをリファレンスにしています。

エリカ 私たちが初期につくったアイテムを振り返って、今ある経験値とチームの力でどのように進化させられるかを考える。自分自身の作品を批判できる力はとても大事だと思う。その力があってこそ前進させてくれるし、アップデートし続けられるから。それにとても楽しいし。

THE EXPLORER COAT
冒険家のように物怖じすることなく先の見えない道を探検してほしいという意味が込められたコート。ウォータープルーフで機能性も抜群。

THE PHOTOGRAPHER JACKET
エリカとフェイふたりにとって特別で、ブランドのDNAの一部とも言えるジャケット。写真家のレンズが入るほど大きなポケットが特徴的。

THE DRAUGHTSMAN SHIRT
トゥーグッドが初めて作ったシャツ。製図師のように細かな調整を重ねられ、改善の余地がないまで仕上げられた。まさにタイムレスピース。

THE BAKER TROUSER
ボリューム感が肝のシルエットは、パンを食べすぎても大丈夫な仕様だとエリカは説明する。毎シーズン出している定番アイテム。
心のこもった作品には
人が心で感じるものがある
タイムレスピースが持つ力と美しさ

─ トゥーグッドの中核となるものをもとにアップデートし続けるものづくりが長年愛されるアイテムを生み出す理由の一つなのかと思います。デザインがタイムレスであるためには何が必要だと思いますか?

フェイ 当たり前のことだと思うけど、心のこもったものであること。何年もプロダクトを作ってきた経験からいうと、心のこもった作品には人々が心で感じるものがあるの。頭で考えて作ったものは、心には通じない。自身の直感に従って作り続けることがタイムレスなデザインには必須だと思う。あと、私は自然の力ってものすごくパワフルなものだと思っていて。自然に繋がる全てのものは時を超えて響くもの。色や形、素材や何であれ、自然の風景に通づるものがあると、タイムレスに感じるの。

─ ご自身の所有するタイムレスなものはありますか?

フェイ 何年もかけて集めてきた石のコレクションね。散歩して拾ってきたものだったり、子どもが見つけてきたものだったり。私は何回も引っ越しして、家のスタイルを変えてきたけれど、絶対に石のコレクションは手放すことはなくて。なぜなら石を最初に手にした理由や、その形や色など、それぞれに意味があるから。デザインの観点でいうと、マルセル・ブロイヤーのチェアが私のお気に入りのタイムレスピース。

エリカ 私にとってのタイムレスピースは、祖母が祖父に向けて手で編んだニットセーターです。二人ともすでに他界してしまったけれど、それぞれが私にインスピレーションを与えてくれていて。祖母は、戦時中にパラシュートのシルクから女性用の下着を作り、亡くなるまでずっと自分の洋服を自分で作っていた人。私も今服づくりをしているけど、特にこのセーターはたくさんの愛に溢れていて、フェイがいうように正真正銘の心のこもったアイテムだから。そして祖父は、いつか必要になるかもしれない時に備えて、常に新品のシャツを保管していた人。私は同じことはしていないけど、祖父の周到性がワードローブの中に並ぶものの重要性を象徴していると思うの。その時に必要なものを見つけられることで、その時に必要とされる行動を可能にするのだと。私たち家族が行ってきた慣例を、フェイと私たちが現代のやり方で引き継いでいます。

フェイ 衣服はある意味でヒーリングにもなりうると思う。私たちを守ってくれる。それってすごく大きな力です。

エリカ 小さな子どもを持つことで、衣服の持つ力に改めて気づかされたわ。子どもたちに特定の服を着させると、目に見えて子どもたちの動きが変わったりする。とても純粋かつ単純だけれど、衣服の力に感動した。

フェイ 毎日子どもたちにはインスパイアされていて、忘れていたクリエイティビティを呼び起こしてくれる。3月のコレクションでは娘が描いた絵から着想を得て、作品のコラボレーションをしました。

─ コラボレーションでいうと、何度か日本のブランドとも一緒にものづくりされていますね。

フェイ 日本のクラフツマンシップは世界で一番。これに異を唱える人は誰もいないと思う。日本のコラボレーターと働く時はいつだって製造工程を心配することはないし、いつだって想像を超えるクラフトマンシップに感動している。細部にまで心配りがあって審美眼を持っている。

エリカ 個人的にも、クリエイティビティ的にも、日本はスペシャルな場所。私はハネムーンで東京に行ったんだけど、作業着のお店でたくさん試着して楽しんだのがお気に入りの思い出の一つ。もちろんユニフォームだけでなく、日本文化にもたくさんのインスピレーションを受けた。歴史があってこそ今があり、それが将来にまで引き継がれていくというヘリテージが日本文化の要にあるからね。

フェイ 日本では、歳を重ねることから生まれる美しさを祝う考え方があるじゃない。西洋ではあんまり慣れ親しみがなくって。でも、それはまさに私たちのブランドでも実現していきたいこと。歳を重ねて生まれる美しさを。

フェイが手がけるインテリアピースにも目が離せない。「ローリーポーリーチェア」はフェイの代表作の一つであり、2014年に発表されて以来高い評価を受けている。またカール・ブロスフェルトの植物の写真をはじめ、スタジオには彼女の大事なインスプレーション源である自然が散りばめられている。

スタジオの壁一面に並ぶオブジェ。素材やシェイプを追求する、彫刻的なアプローチがみて取れる。

◯ toogood
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Photo Jack OrtonInterview & Text Mayu KatoEdit Yutaro Okamoto

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