Interview with Todd Snyder about WOOLRICH BLACK LABEL

トッドスナイダーが作る ウールリッチのニューオーセンティック

1830年創業、アメリカ最古のアウトドアブランドであるウールリッチ。“バッファローチェック”や“アークティックパーカ”など、ファッション史に残るアイコニックアイテムを数多く生み出してきた。そんな老舗ブランドが新ラインを発表し話題を呼んでいる。“ウールリッチ ブラック レーベル”と名付けられたそのラインは、ブランドを象徴するウール製のバッファローチェックシャツをカシミア100%にして再解釈するなど、アウトドアウエアをラグジュアリーにアップデートさせているのが魅力だ。仕掛け人は、ラルフローレンやJ.クルーなどを経て、TODD SNYDERで手腕を振るうデザイナー、トッド・スナイダーだ。アメリカンカジュアルのスペシャリストであるトッドに、現在のファッションシーンで求められる「オーセンティックとラグジュアリーの交わり」について話を聞いた。

アイコニックなバッファローチェックをナイロン生地に転写したダウン。ナイロン生地はイタリアの老舗生地メーカーオルメテックスがウールリッチのために作った特別製。伝統とテクノロジーが見事に両立している。

ウール生地をベースに、リフレクター素材を織り込むことで暗闇の中で光を反射させる機能を備えたジャケット。ウールリッチ ブラック レーベルの軸である“都会的なテクニカル”を体現している。

ーローンチおめでとうございます。まずはウールリッチのアイデンティティをどう捉えているか教えてください。

アメリカを代表するクラシックなブランドが何かと問われたら、「リーバイス®」「チャンピオン」、そして「ウールリッチ」の3つを挙げる人がきっと多いと思います。それほど歴史と知名度を持ったこのブランドと一緒に仕事ができることにとてもワクワクしています。これまでさまざまなブランドのもとで服作りをしてきましたが、その中でもウールリッチは最も歴史の長いブランドです。その膨大なアーカイブを見返す時間はとても豊かなものでした。レガシーのあるブランドを、未来に繋げることが私の役目だと思っています。そうして新たにスタートさせたのがウールリッチ ブラック レーベルです。

ーウールリッチと仕事をすることになり、最初に取り組んだことを教えてください。

ブランドの全体像をリブランディングさせることも仕事の一つなのですが、まずはロゴのリデザインを行いました。新しく用いた「WOOLRICH」のフォントは、ウールリッチがブランドをスタートさせたペンシルベニア州に昔持っていた建物の看板に使われていたフォントなんです。この太字の大胆さは今見るととても新鮮ですし、誇りや誠実さを表してると感じます。
アメリカのペンシルベルニア州の工場から始まったウールリッチは、現在ではミラノと東京にも拠点を持つグローバルブランドに成長しています。なので先ほどのアーカイブフォントと、現在の拠点であり文化の先端である3都市の名前を組み合わせることで「古いものと新しいものの出会い」を表現しました。出会いや掛け合わせは私が手がける全コレクションに一貫するテーマでもあり、常にモダンであるために重要なことです。


ー“ブラック”と名付けた意味を教えてください。

ブラックは非常にシックな色であり、頂点にあるようなイメージを抱きます。そしてもう一つ込めた意味として、ウールリッチの象徴は羊ですが、「黒い羊=ブラックシープ」をメタファーにすることで”エッジが効いている”ことや“新しいことをする異質な存在”ことも意味しています。

ーものづくりのインスピレーションを教えてください。

自然からインスピレーションを得ることが一番ですね。「Let nature be your muse. (自然をあなたのミューズに)」です。もう一つ具体例を挙げるとすると、ディフェンダー(ランドローバー社が手がける4WD)です。なぜならこの車は、「テクノロジーとラグジュアリー」「モダンとストリート」の組み合わせを兼ね備えた存在だからです。ウールリッチ ブラック レーベルのコレクションを作る上で非常に大きなインスピレーションとなっています。私の愛車もディフェンダーですよ。

「ウールリッチ ブラック レーベルを最も象徴しているアイテム」とトッドが話すカシミア チェックシャツ。これまでのウールリッチではウール100%だったものをカシミア100%にすることで、オーセンティックとラグジュアリーの融合を見事に表現している。

ー「ラグジュアリー」がキーワードのようですが、その意図を教えてください。

ウールリッチ ブラック レーベルにおいては、「ラギット ラグジュアリー」と表現しています。ラギットとは「無骨さやタフさ」を意味する言葉です。これこそが私が表現したいスタイルです。特にこのチェックシャツが象徴的なアイテムですね。ウールリッチのチェックシャツは通常ウール100%で作られるのですが、ウールリッチ ブラック レーベルではカシミア100%で作っています。単に素材を変えるだけではなく、長く続くデザインディテールや服そのものが持つ機能を再解釈し、新しい価値を加える。これがラギット ラグジュアリーなのです。
クラシックに新しさや特異性を組み合わせることは、モダンさを表現する上でとても大切です。その交わりや境界線を徐々に曖昧にしていくことがファッションデザイナーとしての仕事でもあります。

ーアウトドアやワークなど機能的でオーセンティックなアイテムをわかりやすく取り入れているブランドが近年多いですが、そのような時代の流れをどう受け取っていますか。

ファッションにおいて私が信じているのは、多くの人が似た動きをし始めたら、それはもう時代が変化すべき時が来ているということです。私は2012年にチャンピオンとコラボレーションしましたが、当時はスポーツウエアが重要なファッション要素でした。現代のファッションシーンには、アスレジャー(アスレチックとレジャーの造語)やアクティブなライフスタイルの影響を感じます。ストリートウエアは常に時代の流れを象徴するファッションスタイルですが、徐々にアウトドアスタイルを取り入れる進化をしてきています。そのように時代に合わせて変化し続けることがファッションの魅力ですね。

ハンティングジャケットは狩猟をする人のために機能的なポケットやデザインを取り込んだアイテムだが、それをウールカシミアで贅沢にアップデートし、街でのラグジュアリーウエアに仕上がっている。

トッドが手がけたウールリッチの新しいショッパー。表には新ロゴを、中面にはアメリカ大陸の等高線をプリントし、リサイクル素材を用いている。ウールリッチの歴史と自然への敬意が込められている。

ーウールリッチ ブラック レーベルがどのように変化していくか楽しみですね。

私自身もとてもワクワクしています。ウールリッチは秋冬シーズンがメインのブランドだと思う人が多いですが、これからは春夏シーズンのコレクションにもさらに力を入れていきます。伝統とラグジュアリー、そしてテクノロジーを融合させ、その境界線をぼんやりとさせたような新しいスタイルを提案していきます。ウールリッチというこの偉大なアメリカンアウトドアブランドの新たなストーリーを語り継いでいくつもりです。

メゾンブランドでもアウトドアやワークの要素を大胆に取り入れたアイテムが目立つ近年。それはオーセンティックなアイテムがオーセンティックであるが故の機能性やタフさといった本質的な価値を、社会や人々が求めているという裏付けだろう。ウールリッチは190年以上に渡ってオーセンティックを突き詰めてきたブランドであるからこそ、メゾンとは180度逆のアプローチから「オーセンティックとラグジュアリーの融合」をウールリッチ ブラック レーベルで表現している。それこそが真のオーセンティックであることは明らかだろう。トッド率いる新生ウールリッチが、今後どのように変化していくのか目を離せない。

Photo Asuka ItoInterview & Text Yutaro Okamoto

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