Interview with Tetsu Nishiyama About New Classic
西山徹が考える New Classic
New Classicがある
西山徹
スタンダードの再解釈
「古きを温ねて新しきを知る」という言葉があるように、New Classicのヒントは、かつての経験や先人が作り出したモノの中にあると考えて良いだろう。これまでにストリートはもちろんのこと、さまざまなカルチャーに触れてきた西山徹。彼はNew Classicについてどのように考えるのだろうか。
「New Classicと聞いて一番最初に思い浮かぶのは、スタンダードの再解釈という概念です。スタンダードというものは長い歴史の間で廃れずに地位を築いたモノで、つまりはクラシックなもの。逆にニュースクールとは、古き良きオールドスクールやスタンダードといったことからの再解釈でアップデートされたモノであったり、クラシックな要素が下地にあると言えます」。
スタンダードの再解釈という考え方は西山にとってクリエイションのベースとなっているという。そのような発想が育まれた経緯はどこにあるのだろう。その答えは西山の活動における原点とも言えるスケートボードから紐解くことができる。
「スケートボードがあったから今の僕があると言っても過言ではありません。僕たちがまだ若い頃は、今のようにスケートボードはメジャーではありませんでしたが、とにかく自由の象徴だった。こうでなければならないなどという縛りが一切なくて、それはその後の全てに繋がっていったと思っています」。
スケーター特有の型にはまらない発想や考え方に影響を受けつつも、同時に当時ならではの窮屈さも経験したという。
「80年代はまさにカテゴライズの時代でした。ジャンルで括り、こうであるべきとか、いろいろとレールに敷かれた規則みたいなものがあったんです。そこを逸脱したり越境することをよく思わない時代だった気がします。でも90年代になるとそれがミクスカルチャーへと移行し、僕たちはちょうどその時代をまたいだ世代で、こうしてカルチャー同士のクロスオーバーが始まっていくと、様々なスタンダードの再解釈が自然と行われていく。常にカルチャーの越境を考えたり、元々あるものをリイシューさせ、新しく付加価値を見出すという、いわゆるNew Classicを生み出す流れを体現できたんじゃないかなと思います。それは間違いなく今の自分のクリエイションのベースにもなっていますから」。
過去でも未来でもない
現代のムードを落とし込む
今期のディセンダントから、そんな西山なりの再解釈を施した『KhaKee』というカプセルコレクションがリリースされる。ベースとなるのはチノ地のトラウザー、シャツという普遍的なアイテムだ。
「ツイルベースのアイテムをカーキというテーマに絞って展開しているコレクションです。パンツで言えば今自分で穿いているのがノータックのものでストレートなシルエット、2タック入ってるものはヒップが大きく裾に向けてテーパードをかけています。ツイルのシャツも形はいわゆるアメリカントラッドで綺麗めなオックスフォードシャツですが、ツイル生地なので少しワークっぽい雰囲気を持たせていたり。ディセンダントでは常にスタンダードなモノをブランド的に再解釈し、今に向けて再提案するという試みを続けてきました。すごくスタンダードでクラシックなアイテムにも、違うカルチャーの要素を少しだけ混ぜてあげたり、どの時代にも当てはまらない、過去に寄り添いすぎず、未来でもない、現代のムードの中で良いよねと思えるような解釈を当て込むことで自分なりの価値を見出しているんです」。
まさしくスタンダードを下地に自身の経験をレイヤーさせ、新しい解釈を見出すクリエイションを体現する西山。時代に流されずに自身の一貫した信念の元でものづくりを続けていることがわかる。
過去から見出す
創作のヒント
ディセンダントにおいて普遍的なアイテムの再解釈という揺るぎないデザインフィロソフィーを持つ西山は、果たしてどんなモノがNew Classicとなる要素を持っていると考えているのだろうか。
「最近また自分の中でカメラが面白くて。若い頃はこれで写真を撮ることが当たり前でしたが、iPhoneなどの台頭で写真に対するスタンスが大きく変わり、写真というモノに対する敷居は大きく下がりました。今改めて使ってみるとフィルムを替えたり現像に出さなくちゃいけなかったり、デジタルとはいえメモリースティックをパソコンに読み込ませたり、かなり面倒ですよね。不自由で今の時代には合っていないですが、機械的に整理され過ぎている今のiPhoneのような写真と違って、自分が全く想像していないものが撮れていたりする。そんな偶発性に可能性を見出しています。写真でも対象になる人やどんな風景を撮るかによって可能性が未知数であるのと同じように、洋服でもそういった偶発性という観点から言えば、工場やパターンの選定だったり、生産地、グラフィックデザイナーなど様々な人たちが関わり合っていくうちに、思いがけない展開だったりアイディアが出てくることがある。
そんな予定調和じゃない要素が、New Classicなモノを生み出す時には欠かせないんだと思います。そういったモノの捉え方という意味で言えば、ボートシューズもそうです。アメリカントラッドのカルチャーが好きだった父親からの影響で高校生くらいから履き続けているアイテムなのですが、ずっと変わらずにこの形で愛され続けています。トレンドとは無縁なのでこの先も同じ形でリリースされ続けていくと思うのですが、この普遍的なモノにどんな洋服を合わせたら現代らしくアウトプットできるかと、再解釈する際のヒントになってくれるんですよね。感覚的にはVansのオーセンティックに近いと思います」。
モノ自体がアップデートされていなくても、そのモノへの見方を変えたり、どう受け取るかによって新たな可能性を生み出すベースとなっていく。過去には常に新しい時代のクラシックとなるヒントが眠っているのだ。
「これからの時代はいま10代、20代の人たちが作っていきます。彼らが今を体現しながら、いつかそれがクラシックになった時、さらにまた次の世代がそれをアップデートしていく。自分が今までやってきたことがクラシックになり得るかどうかは、これからの時代の人たちが決めていくのだと思います。そうでなければNew Classicは生まれない。いつの時代もNew Waveのその先にNew Classicがあるのだから」。
西山徹
DESCENDANT、FORTY PERCENT AGAINST RIGHTS®、WTAPS®、を手掛けるディレクター、デザイナー。
Photo Yusuke Abe | Edit Shohei Kawamura |