Interview with Shinsuke Takizawa (NEIGHBORHOOD Creative Director)

滝沢伸介が考える 「Respect for Heritage」

過去を知る意味での
サンプリングの大切さ

車、バイク、時計、植物などのコレクターとしても知られるNEIGHBORHOODクリエイティブ・ディレクターの滝沢伸介。1994年にブランドを設立して以来、自身が掘り下げてきたカルチャーをブランドを通じて表現をしてきた。過去に誕生し、人の手をかけ現在も継承され続けるモノの魅力の本質を、滝沢は熟知している。そんな彼にとって受け継がれるモノの定義とはどういうことなのだろうか。「いろんな側面があると思いますが、人間の手で作ったものであれば時代背景による作り方だったり、その時代を反映するようなデザインだったり、そのときにしかできないものがある。それが魅力ですよね。僕ら人間もそうじゃないですか。その時代によってできることや作れるものがある。それを商業的目線でみるのか、自然な目線で見るのか。その違いだと思っています。継承とまで大袈裟なものではないですけど、ブランドを始めたきっかけが、その場のトレンドというよりは、日常のライフスタイルに溶け込んでいくようなものを作りたいという発想から始まったので、そういった意味では時間が経っても残っていくものが多いかもしれません。過去を振り返りながらやってきているので、ずっとその繰り返しというか。僕ら世代に多いクリエイションなのですが、過去のものからサンプリングをすることは、重要だと考えているんです」。

滝沢の世代で隆盛を極めたサンプリングというクリエイションの概念は、言い方を変えれば過去から学ぶということ。次世代に残っていくモノのヒントはいつも過去にあるようだ。「僕らの時代は、音楽やアートのサンプリングであったり切り抜き的なクリエイションが多く存在していました。サンプリングというと、人によってはコピーしているとか、そういった受け入れ方もあるかもしれません。でもそういうことではなく、過去にあったストーリーや、背景をちゃんと掘り下げて把握した上でのリスペクトを込めたモノ作り。僕はそれがサンプリングだと思っているんです。ブランドを始めたときから過去を振り返りながらクリエイトしてきました。自分の中で今でも印象に残っているものづくりで言えば、一番最初に作ったデニムのカバーオールジャケットですね。ヴィンテージのディテールを踏襲しながら、当時はほかではあまりやっていなかった最初からヴィンテージの加工を施すということを実践した型でもありました。50年代のカバーオールのディテールをサンプリングしたのですが、デニムも時代やメーカーによって特徴があって、50年代、60年代のものは、どんどんソリッドではなくなっていくんですね。ワークウエアにおいては、昔のものというのは機能性を重視してすごくソリッドにできているんです。そこから時を経てファッション的な要素が入っていくのですが、その時代や時期ごとの絶妙な変化が非常に面白い。毎シーズンデニムジャケットは欠かさずリリースしていますが、どの時代のディテールを当て込むのか、膨大な資料をもとに研究し、現代の人が着た時に不自然にならないように落とし込んでいるんです」。

モノの背景にどれだけ
ストーリーがあるのか

「車、バイク、時計というのが僕にとって長年追い続けているヘリテージの三大要素なんですが、ヴィンテージの風合いだったり、そのものが辿ってきたストーリーに惹かれます。例えば左手に時計をして、左ハンドルでずっと運転している人の時計はダイヤルが焼けていたりだとか、バイクや車のカスタムであれば、その時代ならではのテイストが入っていたりだとか。ひとつひとつにストーリーがあることが面白い。ストーリーがモノの背景に見えるからこそ、これまで人が関わってきたことがわかるし、これから先も受け継いでいかなくてはならないと思える。これまで紡がれてきた物語を、後の世代にも残せたらという思いですね。だから僕は知り合った友達からモノを譲ってもらうことが多かったりします」。滝沢といえば、上記の要素のほかにも非常に多くのモノに対して造詣が深い。ことヘリテージという点においては塊根多肉をはじめとした植物もそうだという。「多肉植物や、もっといえば盆栽の何がヘリテージかというと、植物自体が歩んできた歴史をダイレクトに感じることができるところ。僕らよりも生きている年月が圧倒的に長くて、その存在自体に歴史が詰まっている。歴史は言い換えればストーリーな訳ですから、本当にヘリテージ的な感覚で接しています」。

22FW Denim Jacket by NEIGHBORHOOD

ブランド設立当時から作り続けているデニムジャケット。「ヘリテージのディテールをサンプリングしてクリエイションし続けているもので、リジッドから育てたもの、ウォッシュをかけたもの、加工を施したものと色々あります。僕らはSAVAGE DENIMと呼んで作っていますが、シーズンによって継承するディテールは変えています。時々さまざまなアーカイブを掘り起こしてみるのですが、時代によって違うので、自分たちも驚くディテールを見つけることもあります」。生地をオリジナルで作り、パターンは時代に合わせて変化を加えていく。加工、生地作りなど毎回いろいろなことに挑戦して、ディテール的に多くの要素が詰まった“今後、ずっと残っていって欲しい”と願うプロダクトのひとつ。そして作り続けて30年を経た現在では、過去に作ったものがヴィンテージとなり、今やコレクターの人たちも出てきているそう。

Olive Bonsai Tree Estimated 100 Years old

「盆栽は僕らよりもはるかに長く生きていて、年輪の数が多いので、今回紹介する中で僕は一番ヘリテージといえるのではないかと考えています」。海外から輸入されてきたが、環境の変化にも強く比較的育てやすいというオリーブの木は、面白い樹形のものが多いそうで、これは「半分死んでいて、半分生きている、めずらしい樹形」なのだという。ちなみに陶器の盆栽鉢は、彫刻家でもあるアーティストN/OHがこの木のためにオリジナルで焼いたもの。「ヴィンテージの盆栽鉢を買ったりすることもありますが、新品でもヴィンテージでも、鉢は植物とともにずっと残っていくもの。そういったことも含めて盆栽というものは上手に管理をしたら、この先また100年と残っていく可能性があるんです」。

GMT MASTER by ROLEX × TIFFANY&Co.
DAYTONA PAUL NEWMAN by ROLEX

60年代後半~70年代に製造されたROLEXの時計。「ROLEXの時計は30年以上愛用しているんですが、デザインが一番好みというか、自分のベーシックな部分に存在するものです。ヴィンテージなので経年変化はもちろん、文字盤が焼けていたり、前のオーナーの刻印が入っていたり、TIFFANY&Co.から発売されたものや軍で支給されたものなど、そのときの時代背景や、ひとつひとつにストーリーを感じるところに凄く惹かれます」。ROLEXはちょっとした刻印の違いや使用されている素材の違いで数千万円も価格が異なるなど、世界的に人気がある貴重なヴィンテージは価格の高騰がとどまることを知らない。だが、滝沢にとっては「投資的な目的だけではない」とのことで、ヴィンテージの風合いだったり、その時計の背後にあるストーリー、それを受け継いでいくことの素晴らしさを大切にしたい為、希少価値の高いものを選んでしまう。

Vincent Black Lightning 1952

生産台数が31台しかないというイギリス製のビンセントブラックライトニングを、滝沢の友人であるブロンズアーティスト、ジェフ・デッカーが約10年前にカスタムをしたバイク。「このバイクはエンジンが凄く珍しく、レース用に開発されたものです。1952年に作られたそのエンジンをレストア=カスタムしているんですが、当時のフルオリジナルではありませんが、そこに手を加えたところが面白い。セルモーターを搭載してボタンひとつでエンジンがかかるようになっていたり、まさに世界で一台しかないニューヘリテージになり得るバイクです」。カスタムされたヴィンテージバイクは手をかけた人のテイストが入ることで既製品にはない特別なストーリーが生まれ、オンリーワンなモノとなり、この先もずっと残っていく代物になる。

Painting by David Mann

アメリカのモーターサイクルクラブに属していたアーティスト、デイヴィッド・マンの絵画。「ロバート・ウィリアムズやエド・ロスなどのアーティストと同じ時代の人ですが、僕はこの絵に非常に影響を受けています。抽象的ですが、描かれている絵のひとつひとつのディティールからその時代背景を想像してみたり。アートマーケット的にはそれほど人気のあるアーティストではないかもしれませんが、僕にとっては凄く価値のある絵。たまたま僕の手元にきたことにもストーリーを感じます」。滝沢にとって、ストーリーを伝えそしてこの先も受け継いでいくことを象徴するアート作品でもある。

POLAROID SX70 by NEIGHBORHOOD

世界的にも希少価値がついている80年代のPOLAROIDカメラを、POLAROID社が市場から集め、NEIGHBORHOOD仕様にフル・レストアしたもの。外観は磨かれ、レザーの部分をオリジナルに張り替え、2023SSのコレクションとしてこれから50個限定で発売される。「POLAROID社のオフィシャル・ヴィンテージになります。POLAROIDに関しては80年代当時から愛着があって、海外へ行くときなど持っていくことが多かったんです。今は市場での球数が少ないので、残していくべきモノのひとつだと思い作りました」。赤いボタンを押したときの新鮮な感覚。フィルムもまだ存在するので実際に使用も可能なヘリテージプロダクトだ。

モノへの想いや背景を伝えていくのは
いつの時代も人が担っている
人の繋がりと
伝える大切さ

受け継がれるモノの条件として、背景にどれだけストーリーがあるかどうかが重要な要素だと語る滝沢。自身もコレクターとして数多くのモノを収集していく中で、そのプロダクトを次世代に受け継いでいく役目を担っているともいえる。彼はその点についてどのように考えているのだろうか。「これを残さないと、などといった特別な使命感とまではいきませんが、残していくことの重要さは理解しています。僕らも過去の歴史を見て影響を受けながら生きてきたので、それと同じ様に僕らのことを見て、少しでも何か感じてくれて、そこから残っていくものがあれば嬉しいなと思います。90年代の裏原宿のカルチャーやその創世記に、自分がそのコミュニティに関わってこれたことがすごく重要だったなと感じているので、90年代の裏原のカルチャーもこれから先に何か残して行けたらいいなと思いますし、こういうことを改めて考えるようになったのも、90年代のストリートウエアの年月が経った今、当時を知らない若い人たちのなかにもコレクターがいることを知ったからかもしれないし、海外にもNEIGHBORHOODのデニムを長いことコレクションしている人たちがいるからです。自分たちがやっているうちに、いつの間にか自然とヴィンテージになっていたんですけど、それは凄く嬉しいことでもある。物質的な観点で言えば、形のあるモノは大事にしていけば残っていくじゃないですか。でもそのモノに対しての時代背景であったりとか、どういう人が所持していたのかとか、歴史の中で育まれてきたストーリーの部分というのは、形がないものなのでいつかなくなってしまう可能性がある。その部分こそが最も大事な要素だと思うので、人との繋がりの中でしっかりと伝えていかなくてはいけない。モノ自体に価値があったとしても、その価値を知る人間がいなくなってしまったら意味がないですからね。自分も昔は、先輩方の話を聞いて凄く面白いなと思うこともあったし、それによって今の自分のクリエイションに生かされている部分も数多くあります。そうしたモノへの思いやストーリーを次の世代に伝えていく。その役割はいつの時代も人が担っているんです」。

滝沢伸介
NEIGHBORHOODクリエイティブ・ディレクター。1967年生まれ。音楽レーベル勤務を経て、車やバイクなどのモーターサイクルカルチャーに影響を受け1994年にNEIGHORHOODを設立。90年代の裏原宿カルチャーを牽引し、アパレルを軸に園芸やアウトドアのラインを展開するほか、アーティストたちとのコラボレーションアイテムも数多く展開。日本のみならず海外からも絶大な支持を受けている。

NEIGHBORHOOD
https://www.neighborhood.jp/

Photo  Asuka ItoInterview & Text  Kana YoshiokaEdit  Shohei Kawamura

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