Interview with Shepard Fairey OBEY CLOTHING
グラフィティアートを通して伝える シェパード・フェアリーのメッセージ
アート=メッセージを届ける
世界が揺れている今こそ
シェパードの作品を知る
ロサンゼルスらしい風景として思い浮かべる一つにグラフィティアートがある。それは人目につかないうちに短時間で行うタギングやスローアップだけに限らず、むしろ建物の壁面に時間をかけて描かれた大規模な絵画のようなミューラルアートの方が印象深い。グラフィティは違法だというイメージが世間一般にはあるが、大規模な作品は建物の許可を得た合法的な場合がほとんどだ。グラフィティとは本来、社会が抱えている人権や政治といった問題に対してアートを通した反発運動の役割がある。パンデミックや人権問題、戦争など絶え間なく世界情勢が混沌としている現代だからこそ、改めて今そうした社会を変えるためにもアートは必要といえる。
ロサンゼルスには、グラフィティアートで世界を変えようと活動し続けているアーティストがいる。その名は“オベイ”ことシェパード・フェアリー(以下シェパード)。たとえ彼の名を知らなかったとしても、代名詞である『ポーズを取るアンドレ・ザ・ジャイアント』や『オベイ・ジャイアント』の作品を一度は目にしたことがあるだろう。これらの作品はグラフィティではスプレーペイントが主流だった時代にあえてステッカーにすることで量産を可能とし、ありとあらゆる場所に一瞬で貼り付けられることから世界中に拡散して社会現象にもなった。また2008年にはバラク・オバマの大統領選出馬を記念して自主的に制作したポスター『HOPE』がオバマの公式キャンペーンポスターとして起用されるなど、「ロサンゼルスのシェパード、ロンドンのバンクシー」と比較されることなども踏まえると、いかに彼がアート業界に功績を残し、そして影響力があるのかが伝わるのではないだろうか。いまだに現役として最前線でメッセージを放ち続けるこの生ける伝説に、彼のアトリエで直接話を聞く貴重な機会を得た。
オベイというアート運動は、グラフィティを通してシェパードが社会に向けてメッセージを発信するものである。シェパードは過去に「自分のことをストリートアーティストだとは考えていません。大衆に訴えるアーティストだと思っています」と発言しており、そのことは先に書いたオバマのポスター制作が最も端的で強力な例だろう。アートはメッセージを伝えるメディアであることを強く意識しているからこそ、シェパードは自身のことを「ビジュアルコミュニケーター」と称している。パンデミックや戦争など暗いニュースが続いた昨今の時代だからこそ、アートはどのような力や役割を持つとシェパードは改めて考えているのだろうか?「とにかくアートのポテンシャルというのは、メッセージを感情的に伝えられることだと思っています。私は世の中で実際に起こっている問題に対する自分の考えをメッセージとして作品に組み込んでいます。だから日課として朝と夜にニュースに目を通し、世界では今何が起こっているのかにアンテナを張り、街中で実際に目にし感じることを大切にしています。そして自分が関心を持った問題に対して、どのように作品としてメッセージを表現できるかを考えるのです。この姿勢はずっと変わっていません。例えば今気にしている問題としては、環境問題、格差社会、男女の平等性、人種や性のマイノリティティに対する圧力などがあります。私が住んでいるアメリカという国においては、ありとあらゆる格差が激しく、上からの一方的な圧力が強まり続けていることが問題だと思っています。そのような圧力に反発し、押し返そうとすることが私の活動の核なのです。これは10代の頃から好きだったパンクミュージックのマインドの影響が大きいです。そのように自分が気にしている問題をほかの人にも共有したり、その人自身を投影して関心を持ってもらえるようにしたいので、シンボリックで親近感が湧きやすいアート表現を意識しています」。
誰でも参加できる
ストリートアートの世界
ロサンゼルスへ行くと、街中のさまざまな場所でシェパードの作品を目にすることができる。実際今回の取材で現地に行った数日だけでも、建物の壁や看板の裏側、フリーウェイを車で走っていた時にふと見えた壁などでオベイ・ジァイアントだとすぐにわかる作品を目にすることができた。「シンボリックで親近感が湧きやすいアート」とシェパードは話しているが、具体的にはどのような表現を意識しているのだろうか?「私はストリートをキャンバスにしてステッカーやタギング、ステンシルを用いた作品づくりをずっとしているわけですが、その場所の環境を壊すのではなく、自分らしさを少し足すような建設的な感覚で取り組んでいます。今では合法的に壁画を描ける機会も増えましたが(シェパードは建築物にステッカーを貼ったり落書きをしたことによる器物損壊の罪で過去20回近く逮捕されている)、その場所に描く意味をまずはしっかりと考え、何をどこにどう配置して描くかに気をつけています。タギングは自分でささっと描けるものですし、どれだけお金を持っていない人でもステッカーぐらいは作って貼ることができます。ストリートは誰でも参加できるアートの世界であるというストーリーが私にとってはとても大事なのです」。
削ぎ落とした表現と
力強いメッセージ
シェパードの作品といえば赤や青、黒の陰影が特徴的だが、そのインスピレーションを彼はこう語る。「昔のロシアのプロパガンダとして使われていたアートの力強さが好きなんです。それ以外だとバーバラ・クルーガーやアンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグらのアート作品にも影響も強く受けています。パンクミュージックの世界でグラフィックを手がけたアーティストも好きで、デッド・ケネディーズのカバーアートで有名なウィンストン・スミスや、セックス・ピストルズのアートワークを手掛けたジェイミー・リード、ブラック・フラッグで数々の名作を生み出したレイモンド・ペティボンたちの作品も大きなインスピレーション源です。でもビジュアル作りで一番大切にしていることは、メッセージをとにかく削ぎ落としてエッセンスのような状態にし、それを力強く直感的に響かせられるようなシンプルなものにすることです。作品にはグラフィックだけでなく言葉もよく取り入れています。私が尊敬するさまざまな分野の人の言葉を引用することが多いですね。例えばアートだとバーバラ・クルーガー、哲学者だとノーム・チョムスキー、作家だとジョージ・オーエルなど。言葉においても一番影響を受けているのは音楽で、ザ・クラッシュやパブリック・エネミー、ボブ・マーリーらの歌詞が力強くて好きです。自分が興味を持って生きてきた世界、私の場合だとスケートやグラフィック、パンクミュージックなどがそれで、その力強さやメッセージ性はアーティストとしての作風のベースを作ってくれました」。
洋服は影響力の強い
ビジュアルコミュニケーション
メッセージと作品をより多くの人に見てもらうために速効性のあるグラフィティやステンシル、拡散力のあるステッカーを主に使っていることは前述した。それはアートに特段興味があるわけではない人でも街中で不意に目にしてもらえるチャンスが生まれるという意図があるからだ。そしてさらにメッセージを発信する場を広げるために選んだ新たなキャンバスが2001年にスタートしたアパレルであり“オベイ・クロージング”だった。「オベイ・クロージングはこれまでの私のアート活動の延長です。1989年に『ポーズを取るアンドレ・ザ・ジャイアント』のステッカーを道に貼ったことがオベイ・ジャイアントとしての活動の始まりで、そのステッカーには『ANDRE THE GIANT HAS A POSSE(アンドレ・ザ・ジャイアントには仲間がいます)』というメッセージも載せていました。その言葉通り私にも仲間がいたわけで、自分でシルクスクリーンプリントをしたTシャツを彼らにプレゼントしていました。だからアパレルを表現の場とすることはアーティスト活動の一番最初から実はしていたことでもあるのです。着る服は自分の意思表示をするツールでもありますから、オベイ・クロージングではTシャツだけでなくスウェットや帽子などのアイテムを徐々に増やしていきました。服はそれを着た人のそれぞれの生活の場で自然と拡散されていきます。例えば誰かと飲みに行くお店や、DJを聴きに行くクラブ、もしくは道で知らない人とすれ違う瞬間ですら服は相手の目に映ります。そのビジュアルコミュニケーションで服が担う役割はとても大きく、言葉も文化もライフスタイルも違う人にメッセージとして届くのです。もちろん全ての人が私が込めたメッセージに注目してくれるとは思っていません。でも少なくともビジュアルとしてアピールできるように心がけていますし、何人かでも私のメッセージに反応して共鳴し、希望を持ってくれればと信じてオベイ・クロージングの活動を続けています」。
T-Shirt [Each] ¥5940 by OBEY Clothing
(OBEY Clothing Japan)
OBEY Clothing Japan 03-6804-1977
Photo Ryuta Hironaga Translation Aya Muto | Coordinate Daiki Fukuoka | Text Yutaro Okamoto Edit Takayasu Yamada |