Interview with KENSHIN (Hair Stylist)
ヘアスタイリストKENSHINが 考える東京の魅力
刺激を得られる場所
KENSHIN
今の時代だからこそ
新たに気づいた東京の側面
90年代から00年代の、ファッションビジュアルにおいてデジタルカメラが台頭し始めた転換期にニューヨークに身を置き、現在に至るまで第一線で活躍を続けるヘアスタイリストKENSHIN。自身の運営するヘアサロン〈Epo Hair Studio〉にはまるで実験室のような巨大な釜があり、そこで自身が世界中から集めてきた素材を用いてヘアオイルを精製。普段から移動用の足として使っている車もニューヨーク時代からの愛車77年式のFORD BRONCOであるなど、ヘアスタイリストとしての実力はもちろん、こだわりに裏付けされたスタイルのある生き方を貫いている。そんなKENSHINが考える東京の良さとはどんなことなのだろうか。
「緊急事態宣言が発令されいろいろ制限が多くなった中で初めて気づいたのは、街全体が大きなスーク(市場)みたいになっているなと。ナチュラルワインを扱っているような新しくできたワイン屋さんの横に、昔ながらやってる和菓子屋があったりとか。ラーメン屋の横に、面白いブティックがあったりとか。雑多でカオスな感覚っていうのが、やっぱりすごく東京の魅力だと思いますね」。
海外はおろか、国内間の移動もはばかられる今の世の中で、気分転換に近場を散歩することが多くなったというKENSHIN。自分の歩幅に合わせてゆっくりと流れる時間の中だからこそ、今まで見過ごしてしまっていたことにも気づけるようになったのだという。
「例えば最近見つけたところで言うと静嘉堂文庫美術館。岩崎弥太郎の弟の弥之助が設立した世田谷にあるひっそりとした美術館です。三菱財閥が所有している古典とか古美術コレクションが所蔵されています。いつもだと通り過ぎてしまうけど、散歩のついでになんだろうと思って入っていったら、日本の美に対するめくるめく素晴らしさを感じました。このように偶然素晴らしいものに出会える機会があるのも東京の魅力なんだと思います。ファッションに関わる仕事をしている自分に最適なクリエイションの部分の大元になるようなアイデアとか、いろいろとインスピレーションをもらえるような街だと感じています」。
すべては現場での
クリエイションのために
「ヘアを含めやっぱり現場でやってることって、日々見たり聞いたりインプットしてるものを自分なりに解釈してアウトプットする作業ですよね。新しいクリエイションを生み出すことは、もちろんみんなで集まって作るっていうパワーも必要だけれども、一人一人が面白い経験をしていたりとかインプットを深めているということがすごく大切な気がしています。だから僕は自分が気になる人がどんな場所からインスピレーションを得ているのかとか、この人はこういう影響受けてるんだみたいなことが気になるんです。自分が面白いと思う人から聞いたことを、自分の肥やしにしていく。そうすることで知見が広がり自分の知らなかった世界が見えてくると思うんです。学びを深められる面白い人がたくさん集まっているのも東京ならではですよね」。
ファッションに限らずクリエイターにとっては、日々の生活そのものが自分のものづくりへの土台となっていく。そしてその情報交換や人とのつながりによって日々新たなクリエイションが生み出されているのだ。
「そういった面白い人たちと繋がることによって、どんどん横のつながりができていって人々が驚き、感動できるようなモノが生み出されていく。予期せずビジネスになっていくみたいな、そういうところが東京の魅力というか、コミュニティの中から生まれていくっていうところがすごく面白いところだなと思っています」。
KENSHIN
ファッション誌をはじめとし、世界を股にかけ活躍するヘアスタイリスト。雑誌やファッションショーのヘアディレクション以外にも、自身のサロン〈Epo Hair Studio〉を運営するなどその活動は多岐にわたる。
Photo Shunya Arai | Interview & Text Shohei Kawamura |