Interview with Ai Hashimoto (Actress)

女優、橋本愛が 東京での生活に思うこと

手作りの奇跡を起こせる場所
橋本愛

「自然や陽の光が好きなので、公園によく行っては光合成をしています」。そう笑顔で話すのは、芯のあるスタイルや世界観が支持される俳優の橋本愛だ。キリッとした役柄が多い印象だが、取材時の彼女の語り口は優しさの溢れる自然体な雰囲気が漂っていた。生活圏内だという下北沢で、橋本が考える東京の魅力について話を聞いた。

「下北沢には何かと用があることが多くて。よく使うスタジオがありますし、キックボクシングにも通っています。本多劇場をはじめとしたおもしろい舞台もよく覗きに行っています。まぁ何よりも、めちゃくちゃ好きなカレー屋さんがあるんです(笑)。だから、この街に来ると必ず面白いことがあると期待していて。感度の高い人がたくさんいますし、そういう人は気持ちに熱もこもってますよね。そんな活気ある街が生活圏内にあること自体が楽しいですし、不思議なパワーをいつももらいます」。

ファッション誌でのモデル活動も多い橋本だが、自身も根っからの洋服好きのようだ。まだあまり名の知られていないようなブランドの服も個人的に海外から買い付けるなど、ファッションへの愛は深い。とりわけ橋本にとって特別な店は、フランスのアンティーククローズを扱う古着屋のメルだという。

「昔はメルの服しか着ていなかったぐらい、よく行って買っていました。今ももちろん好きなのですが、この店で扱っている洋服を着ることが少なくなったとしても、アンティークという洋服の存在や秘められた魅力がずっと私の軸としてあるんです。昔着ていた人たちの匂いや生活の記憶が感じられて、神聖なオーラすら伝わってきます。オーナーさんは頻繁にフランスやヨーロッパに買い付けに行っているようなのですが、私にとって彼は神様のような存在。この店に来ると今だに異空間に迷い込んだような気持ちにさせられます。それでいて自分の好みにフィットしているので、昔から大好きなお店でもあります」。

自分と相性のいいエリアを見つける

下北沢には橋本の感性を刺激する場所が多くあるようだ。また、よく行く公園もあるようで、1人で遊具に座ってはぼんやり陽を浴びているのだとか。そうやって自然や太陽を感じることが、東京の街で生きる上では欠かせないのだ。ほかには東京のどの場所がお気に入りなのだろうか?

「原宿や表参道にはよく行きます。お店や遊べる場所が多い都会的な街ですが、そのすぐ隣に明治神宮と豊かな自然があるということが不思議で。東京は人も情報も多過ぎるところがあるから、たまに滅入ってしまうことがあるんです。だから、いい気を保ちながら都会を楽しめるのが原宿なんです。10代で上京してきた頃は、東京での振る舞い方や他人からの自分に対するイメージに合わせなければいけないという思い込みに駆られてしまっていました。クールなイメージを持たれがちだったのですが、実は日々の小さなことに悩んでいただけだったり、単に笑い方が分からなかっただけだとか(笑)。

それがいつからか自分のイメージとして定着し、そういう風にいないといけないという縛りになってストレスに感じていました。だから当時は、ディープでドープな場所に意識的に興味を持つようにして行っていました。そうやって様々な場所を駆け回っていたのですが、やはり途中で疲れてしまって。おもしろい場所は本当に多いのですが、自分には相性のよくない空気が流れている場所もあると気づきました。でも10代の頃はそんな場所が逆に心地よく感じていて、うまく収まってはいました。それから徐々に自分の扱い方や心身が健康になってきて、そのような場所を離れないといけないと思うようになったんです。だから今は、自分と相性のいい限られたエリアや、自然を感じられる場所にしか行かないようにしています。虚像よりも実像の方が人に響くってことに気づけましたし、時代もそうなってきたのかなって。だから自分はありのままでいれば大丈夫だと思えました。東京で本当にいろいろな人を見てきたからこそ、そういう考え方になったのかもしれません」。

新しい感性に敏感に反応する
知らないカルチャーに巡り会える

東京には様々な情報が溢れている。その膨大さは東京の魅力でもあり怖さでもあるが、人生を変える新たな世界を知るチャンスも多くある。

「昔は映画をものすごく観ていましたし、人生を丸ごと救ってもらったこともありました。人を一番救えるのは人ですが、人と会ったり話したりしなくても、映画が救ってくれることもあるんだなって。私にとってのそのような作品は、『人が人を愛することのどうしようもなさ』や『エンドレスポエトリー』というマニアックな映画でした。東京にいなければ出会うこともできなかったと思っています。知らない世界やカルチャーがあると気づかせてくれるからこそ、その体験を求めて国内だけでなく世界中からも人が集まってくるのだと思います。最近は、ずっと夢でもあった歌う機会にも恵まれました。もちろん自分の力だけで引き寄せたことではないですし、こういう奇跡が起こることに驚きもしています。東京で生きている人たちが新しい感性やフレッシュなことに対して敏感だからこそ、様々なチャンスがこの街には生まれるのではないでしょうか。クオリティが高くて価値のある芸術やカルチャーは過去に多く生み出されていますし、『新しいものって本当に新しいのか?』という疑問がないわけでもありません。それでも諦めずに作り続けている人がいるから、東京に住み続ける価値を感じています」。

自然体でいられる環境を見つける
覚悟を決めて努力すれば
夢が叶う奇跡が東京にある

東京ほど人の数や出入りが多い場所はそうそうない。だからこそ、満員電車の中であってもふとした瞬間に孤独や寂しさを感じてしまう経験が誰しもあるはずだ。そんな時に本当に心の支えとなるのは、モノや場所などではなく、人との出会いや触れ合いなのかもしれない。橋本はそのような信頼できる人との出会いがあったからこそ、この東京という場所で錆びれずに生きていくことができたと話す。

「最初は上京することが嫌だったんです。中学生の頃から生活の半分が仕事になったので、青春への渇望が強くて(笑)。そんなときに、映画『桐島、部活やめるってよ』でやっと同世代の気を許せる人たちに巡り会えたんです。それまでは流されるままに仕事をして、続けていくつもりもありませんでした。でも、覚悟を決めて死に物狂いで仕事をしている同世代の姿を見て、自分もそうしなければいけないと意識が変わっていきました。頑張っている人たちの姿はキラキラして見えましたし、東京って素敵な場所だなって心から思えたんです。こんなにもかっこいい人たちがいる街なんだって。そんな魅力もあると気づけたからこそ、この街に住む決意が固まりました。自分が尊敬していたり、好きな人たちがいるフィールドに立てるよう努力さえすれば、それが叶う可能性がゼロではないというのが東京という街の力だと思います。そこへ辿り着くための道のりは険しいですが、頑張れば会えるというミラクルをいつもしみじみと感じて楽しんでいます」。

モデル、女優、歌手とその活動の幅を広げ続けている橋本。夢が叶う可能性がある東京を信じているし、その純粋な姿を見ている人たちがきっと後押ししてくれるのだろう。そんな奇跡を噛み締めているからこそ、橋本はこれからも東京で新たな挑戦を続けていくに違いない。

橋本愛
熊本県出身。10代からモデルとして活躍し、上京後は役者として様々なドラマや映画に出演。海外の映画祭にも参加するなど、存在感のある演技が評価される。生粋のファッション好きでもあり、私服のバットシェバのワンピースとグッチのネックレスやシューズを身につけ撮影に来てくれた。

Photo Takako NoelHair & Make-up Yumi Narai Interview & Text Yutaro Okamoto

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