The Places worth the effort 05 Hakimono Sekizuka / Iwakura AA (Iwakura, Kyoto)

京都の伝統とモダンの融合 履物 関づか / 岩倉AA

元は倉庫だった空間はガラスで仕切られ、奥が「履物 関づか」となる。畳の上に並べられた道具からは草履職人の心意気がうかがえる。空間を彩るのは、棚に並べられたオブジェやかみ添による唐紙。うっすらと大きな円が壁に浮かび上がる。

京都の中心部から少し離れた、山の麓の静かな住宅地。観光客も少ない自然豊かな土地で、坂の上にひっそりと佇む素敵な店がある。京都岩倉地区の履物屋兼ギャラリー、「履物 関づか / 岩倉AA」だ。祇園町であつらえの草履を作る老舗で修行を重ね、活躍してきた職人、関塚真司が木材倉庫だった建物を改装し、作り上げた履物を専門に取り扱う「履物 関づか」と、国内外の様々な物や事を発信する「岩倉 AA」。利便性のある場所とは言い難い山々に囲まれた郊外に突如現れるシックな空間に、電車やタクシーを乗り継いで、訪ねてくる人は多いという。彼らの目的は何なのだろう。店主の関塚真司に話を聞いた。

自然豊かな京都に馴染む
クリエイティブな空間

「僕は履物を作る職人なので、基本的には作っている時間が一番長いんです。だから、よりクリエイティブなマインドで履物作りに没頭できる静かな場所が良かった。車が走っている音や、コンビニのドアの開く音とかがすごく苦手で。人工的な音ではなく、季節によって変化する自然の音を楽しみながら仕事をできるこの空間は、まさに僕が探し求めていた理想の場所です」。自然豊かな京都に馴染む空間。そこは関塚のクリエイティビティが存分に活かされ、京都の持つ伝統的な文化が独自の視点で表現されている。倉庫跡を改装した空間は半分に分けられ、入口から中に進むと関塚が独自にセレクトした数々の美しい衣服やアクセサリーが並べられたギャラリー「岩倉AA」、さらにガラスで仕切られた奥には、履物のオーダーを受ける「履物 関づか」がある。

関塚はこう話す。「この倉庫は、もともと建築資材置き場として使われていました。もともとの素材を大切に生かすように棚に使われていた材料を再利用したり、木材屋まで実際に足を運んで一枚一枚、自分の目で見て選んだ木材を使って、自然体の京都を楽しめるギャラリーとアトリエにしました。店を独立させるのではなく、アトリエとギャラリーを気軽に行き来できる仕切りのない空間を作ることが目的だったんです。履物を見に来た人が服やアクセサリーに興味を持ってくれるような美しいプロダクトを集めたり、逆に服やデザインが好きな人が遊びに来られるような場所になればと思っています」。モダンなアプローチで、今までにない日本の履物を提案する。そこにはファッションの選択肢の一つとして履物を楽しんでもらいたいという関塚の強い思いが込められていた。

元は倉庫だった空間はガラスで仕切られ、奥が「履物 関づか」となる。畳の上に並べられた道具からは草履職人の心意気がうかがえる。空間を彩るのは、棚に並べられたオブジェやかみ添による唐紙。うっすらと大きな円が壁に浮かび上がる。
人々の感性を刺激する
アトリエを作りたかった

もの選びにしてもものづくりにしても、変わらぬ姿勢を持ち続ける関塚。アトリエスペースに足を踏み入れると、目の前には独特な建築構造を活かした、関塚こだわりの空間が広がる。畳の上に並べられた道具からは、ものづくりに生きる職人の心意気が感じられる。そもそも草履は土台や鼻緒づくりなど、すべて分業の職人技で構成されているもの。関塚が手がけるのは、客の注文や好みを受け、草履の色や大きさ、組み合わせまでを提案するディレクター的役割と、鼻緒をほぐして挿げて仕上げる作業だ。和装に詳しくなくても見惚れる草履は、土台から曲線を描くように伸びる鼻緒がとても美しい。錐で開けた小さな穴に絶妙な力加減で鼻緒を締め、それぞれに合った履きやすい草履を仕立てるのが信念だと関塚はいう。そして、そんなクラフツマンシップが宿る作業場の周りには、独自のセンスで表現したこだわりが随所に見受けられる。

「人々の感性を刺激するようなアトリエを作りたかった。なので、わざわざ足を伸ばしてまで来たいと思えるような仕掛けを僕が作っている感じですね。季節ごとに暖簾を変えたり、毎週のように棚の上に飾っているオブジェを変えたりもしています。また、特にこだわったのが壁です。版木を使用して作られたオリジナルの壁紙は、京都で唐紙を作っている「かみ添」によるもの。金箔を使った壁紙や、うっすらと大きな円が浮かび上がっている壁には、唐紙が使われています。これを見にくるためだけに店を訪ねて来る人もいたりします。僕にとって『かみ添』の店は、わざわざ足を運びたい場所であり、自分のお店をやる上で一番参考にしているお店でもあります。困ったり、息詰まった時は、いつも『かみ添』の店主に会いに行くんです」。

これまでさまざまな草履のオーダーを受けてきた関塚に、一番心に残っている一足について聞いてみると、心温まるエピソードを教えてくれた。「今までたくさんの草履を誂えてきましたが、最近特に心に残ったのは、大学生の女の子との出会いです。成人式用に草履を誂えたいといって、わざわざうちに来てくれました。『でも高いから買えないと思うよ、誰に買ってもらうの?』と聞くと、『海外旅行に行こうと思って貯めていたお金でうちの草履を買う』と話してくれたんです。普通だったら成人式のために自分のお金で草履を誂えようなんて思わないじゃないですか。もう感動しすぎてお金いらないよって言いそうになりましたね。改めてそういった感動や喜びを生み出せるような草履作りをしていきたいと思いました」。

アトリエ内で草履の製作が行われる。草履の台に開けられた、極めて小さな穴に鼻緒から伸びる紐を通しているところ。紐は貴重な大麻芯のものを使っている。

絶妙な力加減で締められた美しい結び目は、熟練した職人の技術が光る。実直に草履作りに取り組む姿からは、揺るぎないクラフツマンシップが感じられる。

草履の土台はさまざまな素材がそろう。好きな色や素材を組み合わせて自分だけのオリジナル草履を誂えることができる。

美しいカーブと丸みを帯びた鼻緒は、蛇革を使用したもの。絶妙な膨らみ具合が、足元をやさしく包み込んでくれる。鼻緒の中には、良質な真綿が惜しむことなく詰められている。
人々の感性を刺激する
アトリエを作りたかった

もの選びにしてもものづくりにしても、変わらぬ姿勢を持ち続ける関塚。アトリエスペースに足を踏み入れると、目の前には独特な建築構造を活かした、関塚こだわりの空間が広がる。畳の上に並べられた道具からは、ものづくりに生きる職人の心意気が感じられる。そもそも草履は土台や鼻緒づくりなど、すべて分業の職人技で構成されているもの。関塚が手がけるのは、客の注文や好みを受け、草履の色や大きさ、組み合わせまでを提案するディレクター的役割と、鼻緒をほぐして挿げて仕上げる作業だ。和装に詳しくなくても見惚れる草履は、土台から曲線を描くように伸びる鼻緒がとても美しい。錐で開けた小さな穴に絶妙な力加減で鼻緒を締め、それぞれに合った履きやすい草履を仕立てるのが信念だと関塚はいう。そして、そんなクラフツマンシップが宿る作業場の周りには、独自のセンスで表現したこだわりが随所に見受けられる。

「人々の感性を刺激するようなアトリエを作りたかった。なので、わざわざ足を伸ばしてまで来たいと思えるような仕掛けを僕が作っている感じですね。季節ごとに暖簾を変えたり、毎週のように棚の上に飾っているオブジェを変えたりもしています。また、特にこだわったのが壁です。版木を使用して作られたオリジナルの壁紙は、京都で唐紙を作っている「かみ添」によるもの。金箔を使った壁紙や、うっすらと大きな円が浮かび上がっている壁には、唐紙が使われています。これを見にくるためだけに店を訪ねて来る人もいたりします。僕にとって『かみ添』の店は、わざわざ足を運びたい場所であり、自分のお店をやる上で一番参考にしているお店でもあります。困ったり、息詰まった時は、いつも『かみ添』の店主に会いに行くんです」。

これまでさまざまな草履のオーダーを受けてきた関塚に、一番心に残っている一足について聞いてみると、心温まるエピソードを教えてくれた。「今までたくさんの草履を誂えてきましたが、最近特に心に残ったのは、大学生の女の子との出会いです。成人式用に草履を誂えたいといって、わざわざうちに来てくれました。『でも高いから買えないと思うよ、誰に買ってもらうの?』と聞くと、『海外旅行に行こうと思って貯めていたお金でうちの草履を買う』と話してくれたんです。普通だったら成人式のために自分のお金で草履を誂えようなんて思わないじゃないですか。もう感動しすぎてお金いらないよって言いそうになりましたね。改めてそういった感動や喜びを生み出せるような草履作りをしていきたいと思いました」。

長野県を拠点とするブランド、amachi.とのコラボレーションにより製作された草履。確かな手仕事で、見た目に美しく履きやすさを追求した履物は、鮮やかなオレンジとグレーの配色が目を引く。草履と合わせた足袋もここでしか手に入らないオリジナルプロダクト。普遍的なデザインは日常でも活躍してくれそう。

高い天井から注ぎ込む光が心地よい「岩倉AA」。木材倉庫を改装した開放的な空間には、関塚によってセレクトされたストーリーあるプロダクトが気持ちよく並ぶ。そのモダンなアプローチは、和装の足元ではなく、ファッションとしても履物を楽しんでもらいたいという強い思いが込められている。

関塚真司
履物職人。京都、祇園の老舗履物店にて履物製作の修行を積み、2020年春、京都、岩倉に履物のデザイン、製造、販売までを提案する「履物 関づか」と、国内外の様々な物や事を独自に紹介する「岩倉 AA」をオープン。その現代的なアプローチは、世界的に注目されている。

京都府京都市左京区岩倉花園町 642-19
@hakimono_sekizuka

◯関づか / 岩倉AA
https://hakimonosekizuka.com/

Photo Yusuke AbeInterview & Text Shunya Watanabe

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