Goldwin 0

アート、サイエンス、ネイチャー 3つの軸から生まれたGoldwin 0

環境問題への意識が高まる現代において、かけがえのない自然の魅力について改めて意識することが増えたのではないだろうか。自然と触れ合うこと、五感で感じられるもの、人間らしいプリミティブなテーマを持ったモノやコトは、今の時代に欠かすことのできない心の贅沢と言える。そうした中で、自然環境に対して負荷が多いアパレル産業なだけに、多くのブランドやメーカーが問題意識を掲げて実践を行っている。環境に配慮した生地を使うことは当たり前になりつつある今、プリミティブなものと向き合う新しいアイディアやテクノロジーも進化をし続けているのだ。そうした先を行くコンセプトを持って作られるプロダクトをこの章では紹介。これからの時代におけるもの選びの1つの指針になれば。

クリエイティブなチームで作る
最先端のテックウエア

Jacket ¥132000 by Goldwin 0 (Goldwin Customer Service Centers)
3L Shell Jacket
フューチャープリミティブをテーマにする今回のSilverで、最も象徴しているブランドでありアイテムであると考えたのが、次項にて詳しく紹介するゴールドウインゼロから登場するシェルジャケットだ。表紙でも登場しているこのジャケットの特徴は、なんといっても生地にある。ゴールドウインとも繋がりが深いバイオベンチャー企業“スパイバー”。蜘蛛の糸を人工的に生み出したことで知られる同社が開発した新素材“ブリュードプロテインTM”素材を表地に使用した。植物由来のバイオマスを原料に、微生物発酵(ブリューイング)してできたタンパク質素材を生地にしたものである。石油に頼ることなく、マイクロプラスチックを生み出すこともない。地球環境への負荷を抑えられるとあって、今後期待を集めている新時代の素材を使用したゴールドウインゼロのファーストコレクションを象徴するアイテムだ。
アート、サイエンス、ネイチャー
3つの軸で作るクリエイティブ

今年3月に楽天ファッションウィーク東京2022A/Wのタイミングで発表された、実験的プラットフォーム“ゴールドウインゼロ”。ゴールドウインというと、ザ・ノース・フェイスやヘリーハンセンほか様々なアウトドアやスポーツブランドのライセンス事業から自社ブランドを数多く手がける日本を代表するテクノロジーを軸としたアパレル企業である。そんな、ゴールドウイン社のオリジナルブランドとして存在する、社名を冠したブランドとしての“ゴールドウイン”は、1958年から始まったスキーウエアをルーツとするブランドだ。

そうした歴史あるゴールドウインから派生する新しいラインであり、プラットフォームというゴールドウインゼロのローンチは、9分51秒という映像形式のプレゼンテーションによって発表された。その映像は、美しい自然の風景やグラフィック、コンテンポラリーダンスといった様々な要素を1つの映像作品に組み合わせたアート性を感じる表現だった。映像は、ウェブサイト上で公開されているので、まずは観てほしい。そして、驚いたのは映像だけではない。それは、このプロジェクトに関わるクリエイター陣であった。クリエイティブディレクターにはOK-RM、共同デザイナーとしてジュリア・ロドヴィッチ、ジャン=リュック・アンブリッジが参加し、映像やビジュアルはダニエル・シェアが撮影を担当していることにクレジットを見て気づく。

OK-RMは、ロンドンを拠点とするオリヴァー・ナイトとローリー・マクグラスの2人によるデザインデュオだ。「デザインは対話である」を信条とし、これまでにJ.W.アンダーソンやヴァージル・アブロー、ヴォルフガング・ティルマンス、ヨーガン・テラーをはじめとする錚々たる人物とコラボレーションワークをしてきた、ファッションアラウンドのシーンで今最も話題となるデザインデュオと言っても過言ではない。ニットウエアのデザインを担当するジュリア・ロドヴィッチは、元々、バレンシアガやルメール、カルバン・クライン、ランバンといった多くのメゾンでニットデザインを手掛けてきた人物。対して、布帛ウエアを担当するジャン=リュック・アンブリッジは、コロナ禍に独学で服作りを学び、古着の解体などを行ってインスタグラム上で発表。固定概念に捉われないその独創的な服作りが、ロンドンの若いファッション好きを中心に話題となった異色のデザイナーである。そうした、一般的にはあまり知られていないが、コアなファンを持つ才能溢れる面々をクリエイティブチームに迎えたゴールドウインゼロなだけに、ファッション業界を中心とした注目度はとても高い。そんな彼らのような世界中のクリエイティブな才能をまとめるのが、ゴールドウインのクリエイティブディレクターを務める元田太郎だ。今なぜこのようなプロジェクトを発足したのかを聞いた。

「ゴールドウインには、富山の本社に実験施設から生産ラインまでの全てがあります。そうしたテクノロジーは、ゴールドウインの軸として自分達の誇りでもあるんです。そんなテクノロジーに関して私たちはサイエンスと呼んでいます。サイエンスはこれからの時代、機能面だけに注力していくのでは無く、それと同時に、着た人に高揚感を与えるようなアーティスティックな側面が必要だと考えます。それは、服に感情を与える行為です。“アート&サイエンス”という言葉があるように。そしてもう1つ、現代では未来を見据えて自然と共生すること=ネイチャーを意識したモノ作りを行うことも当然のように大切です。アート、サイエンス、ネイチャー、この3つの軸で、これからの時代に挑戦するプラットフォームを築きたい。そんな思いで、ゴールドウイン ゼロは始まりました」。そうして動き出したゴールドウイン ゼロで、まず元田がチームに加えたいと思ったのがOK-RMだという。彼らを通して、言語を超えたレベルでのコミュニケーション・デザインを共に作りたいと思い、共通の知人を通してコンタクトを取る。実際にロンドンへ出向き、コンセプトを説明することで彼らの共感を得て取り組みに繋がった。

ファーストコレクションのビジュアルは、アメリカ・シカゴを拠点とするフォトグラファーのダニエル・シェアが撮影。Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I Photography by Daniel Shea

ローンチにて公開した映像では、東京とロンドンそれぞれでプロダクションを組んで撮影。富山で撮影した自然の風景や、ロンドンで撮影したコンテンポラリーダンスなど複数の映像をまとめた。Still from Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form Copyright Goldwin 0 & OK-RM

OK-RMのアイディアで制作した下げ札は、蛇腹折り仕様となっており、中にはゴールドウイン ゼロのマニフェストが記載されている。

ロゴのないゴールドウイン ゼロを象徴する円のシンボルは、裏地にもタグとして付けている。自然との調和や共存を意味するサークルとなっている。
外部クリエイターもゼロから
参加してアイディアを考える

「OK-RMには、デザインだけではなくクリエイティブディレクションの分野まで入ってもらっています。彼らとは、大元のコンセプトから構築し、イメージしたものをどう表現してソーシャルで公開をするか、まで一緒になって考えています」。日本国内のブランドでは類を見ない、思い切った映像作品によるローンチのアイディアは、OK-RMが参加したからこそ実現したことがわかる。映像は、日本とイギリスでそれぞれ撮影をしたものを1つにまとめた。

「通常のプロジェクトであれば、外部のクリエイティブディレクターは出来上がった商品を渡されて、どう表現するかを考えるのがマーケティングの基本的な流れだったりしますよね。この取り組みのユニークなところは、ゼロからみんなで一緒になって作っていくところでした。例えば、プライスや素材などの情報を載せる下げ札を本のようにデザインしたら面白いんじゃないか、というアイディアをくれて実現したり、ものづくりの部分まで一緒になって考えてくれています。また、ゴールドウインゼロには、ロゴがありません。その代わり、円をシンボルとして使用しています。ゴールドウイン ゼロのコンセプトである“循環”を円で表現しているんです。その理由には、いわゆるロゴブランディングと相反したかったから。服自体がアイデンティティなので、表に“Goldwin 0”と書かなくても良い、というのが考えです。円は、地球そのものの形であったり、循環することや共生すること、ボーダレスといったメッセージがあります。ロゴがない代わりに、そのシンボルをラベルにつけています。裏を表に着たとしてもデザイン的に成立できる服も多いため、そのラベルが前に出ても全く気にならない。そうした部分をOK-RMと色々と考えながら作っていきました」。

ブランドのルーツである
スキーウエアを再構築

では、服のデザイン面にも言及していこう。「ジャン=リュック・アンブリッジに関しては、自分が元々、彼の作る服のファンだったんです。今まで見たことのない服を手がけていて、機能素材を新しい価値観で組み合わせたようなデザインに惹かれていました。無名ではありましたが、有名なデザイナーを連れてきてコラボレーション性が高くなるよりも、自分達の家族となって一緒に作っていくような展開が良いと思っていたこともありベストな選択だったと思います。ジャンには布帛のデザインを担当してもらい、一方、ニットのデザイナーにはジュリア・ロドヴィッチを起用しました。ゴールドウインは、元々メリヤス工場として誕生して、1960年台のスキーブームによって生まれたスキーウエアがブランドのルーツになっています。そうしたブランドのルーツとなるスキーを再構築するということは、ブランドらしさを表現する上で必要不可欠です。新たなニットウエアを生み出すための才能として、様々なラグジュアリーブランドでニットのデザインを手掛けてきたジュリアが最適でした」。

当時のゴールドウインの広告は検索すると簡単にヒットするのだが、象徴的なのは、オレンジがかった赤いスキーニット。今回のファーストコレクションでも当時のニットをオマージュし同系色を制作した。デザインのインスピレーションとなったのは、そうしたブランドのルーツであるが、今回のラインナップは決してスキー専用のウエアでもなければ、テクニカルウエアやライフスタイルウエアともカテゴライズはしていない。あらゆるシーンに適応する機能性は持ちつつ、ゲレンデから友人のパーティーにまで行けるようなシームレスな服を目指した。「それくらいエキセントリックなものでこそ、アートが入る意味になると思っています。だから、こういうシーンで着てくださいという提案は意図的にしていません。着る人が選んでください。ただ、あまりにもハードでなければ、どんな状況にも耐えうる機能は搭載しています。と、ゴールドウイン ゼロのウエアでは言いたい」。

環境負荷を考えた生地選び

また、自然(=サスティナビリティ)がゴールドウイン ゼロの核の1つであるが、ウエアには多くの環境負荷を考えたテクノロジーが込められている。P034で紹介したスパイバー社のブリュード・プロテインTM素材を使用したシェルジャケットのほか、ニットは糸をそのまま服にする縫製のいらない日本発の技術“ホールガーメント”によって作られ、糸や生地の無駄を抑えた。ウールの素材には羊に負担をかけないノンミュールジングウールを採用し、リサイクルナイロンやリサイクルポリエステル、海洋リサイクル綿など環境負担の少ない素材を選んだ。だがそうした環境配慮型素材とは別に、ゴアテックスなど高機能素材も使用している「。なるべく環境に良い素材を使うことは意識していますが、ゴアテックスのように機能性が優れた生地を使うことで、長く着てもらえることができれば、それが結果的に環境負荷を抑えることができるからです。それに、もし着ているうちに服にダメージができた時は、リペアのサービスを受けてもらえるような構造を今後目指していく予定です」。

すでにゴールドウイン製のウエアは、富山のテックラボに併設されているリペアセンターにて有償で修理が可能となっているが、いずれゴールドウインゼロの服も対応していく予定だという。ファッションと環境問題が度々話題となることの多い現代において、ゴールドウイン社のようなリーディングカンパニーの責任は大きい。そんな中、生まれたゴールドウインゼロは、自然との調和をテーマにしているだけに環境負荷への取り組みには注目が集まる。「極端な話、サッカーはボールがあればでき、野球はバットとボールがあればできますが、アウトドアやスキーというスポーツは自然がないとできません。だからこそ、ゴールドウイン社全体の理念として自分達の遊び場を守っていくという考えが強くあります。自分たちや子どもたちがこれから先も地球で生活ができ、アクティビティを楽しめるような環境を維持することに責任を持つことを大事にしています。そうした中で、服は人と自然を繋ぐ間の存在です。ゴールドウイン ゼロが考える自然と繋がる服とは、過酷な山に限ったことではなく、街でも機能を発揮する服。街にいても台風や豪雨も増えてきている現代では、都市でさえも自然の一部なんです。だからこそ、いつどこでも着られる服。それをゴールドウイン ゼロでは目指します」。アートな感性を持った世界中のクリエイティブなチームとゴールドウインが誇るテクノロジーを持って始動したゴールドウイン ゼロ。ファーストコレクションのローンチは、10月28日を予定している。


Interview with Creators
Julia Rodowicz

様々なラグジュアリーブランドでニットの開発やデザインを行ってきたジュリア・ロドヴィッチ。デザインをする時に意識することについて質問をするとこう答える。「私の場合は、仲間をよく見て、話を聞いてみんなが何を着たいかを理解することを大切にしています。体型や年齢、経歴からライフスタイルまで様々な人たちにどういった服が着たいのかを聞き続けるのです。どんな服を着れば気分が良くなり、美しく見えて、自信が持てるのかを常に考えています」。

彼女のインスタグラムを見るとわかるのだが、旅に行った先々で出会った自然の景色をよく投稿している。自然体でいることや環境意識はとても高いことがわかる。「毎日欠かさずヨガをして、心と身体を鍛えています。また、雨の日も晴れの日も移動するのは自転車。パートナーとはよく笑い、ハグをしたり。これは私にとって世界最高の薬です。ハグをすることで、身体の炎症が抑えられて、重大な病気を予防できるということをご存知ですか?。私の周りには、自然と再び繋がろうとする人々が沢山います。そうすることで、心の平穏を取り戻し健康を維持し、地域の生態系を向上させることができるのです。地域のコミュニティガーデンに参加したり、バルコニーでトマトを育てたり、窓辺でハーブを育てたりしてみてください。そうやって大自然の中で過ごす時間を増やしてみてください。心や身体がスッキリするはずです」。

ゴールドウイン ゼロでの活動外でも、サスティナブルな生地を研究し続けているジュリア。自然との調和をテーマとするゴールドウイン ゼロだからこそ、服作りでも環境負荷を意識した。「ゴールドウインゼロでは、リサイクルやオーガニック、堆肥化が可能な素材、無農薬の繊維を使用しています。また、社会的責任のある製造業社としか仕事をしません。可能な限り、衣服のリサイクルを妨げるような繊維の混合や不必要なディテールを加えることは避けています。時代を越えることのできるデザインと完璧な品質によってゴールドウインゼロの製品は長持ちするように作られています」。そんなジュリアが思う優れたニットとは何か。「優れたニットとは、冬は暖かく夏は涼しい。自由に動けて、ニットとしての機能を最大限に発揮でき、見た目も美しいプロダクトであることです。1960年代のゴールドウインのニットは、スキー場でも街でも着られるような当時としてはモダンな服でした。ゴールドウインのビンテージカタログには、ユーモアがあってそれを作った人たちは、きっと素敵なライフスタイルとセンスを持っていたんでしょうね。そのユニークなノウハウをゴールドウイン ゼロでも取り入れて、洗練されたシルエットによって山遊びでも都市生活でも合う服を作りたいと思いました。ホールガーメントによってニットを作っていますが、この機械はディテールに制限があります。ですが、その制限を乗り越え、3D形状に優れた完全シームレスな衣服を完成することができました」。自然体で、ユーモラスな彼女からはまさにゴールドウインゼロのコンセプトである自然界と調和したアートとサイエンスを感じることができる。

最後に、彼女がゴールドウインゼロで表現したいことを聞いた。「私たちは皆、気候変動に直面して責任ある行動を取る必要があります。適した金額でより良いものを買う。そして長く着ることができるように大事に管理をして、着れなくなったらリサイクルをする。そうすることで、その服を作るために使われた資源に敬意を表すことができます。それは、地球や仲間、すべての生き物とより調和した生活を送ることに繋がるのです。今こそ軽率な消費主義を否定する時です。母なる地球を大切にし、愛情を持って行動する時が来ました。私たちが望む未来を作り上げましょう。その為に、私たちゴールドウイン ゼロは、ほかのブランドの見本となるように、刺激を与えられる存在になっていく必要があると考えています」。

OK-RM
(Oliver Knight and Rory McGrath)

これまでにもタイガ・タカハシやWeberといった、日本を拠点とするブランドやショップとも仕事をした経験があるOK-RM。今回のゴールドウインゼロとのクリエイションではどのようなことを考えたのか。

「私たちは、異文化交流から得られるアイディアをとても楽しんでいます。日本のコラボレーターの美的感覚やコンセプチュアルな感性に私たちはいつも共感をしています。ゴールドウイン ゼロは、ゴールドウイン社の人工衛星を打ち上げるような実験的なプロジェクト。クリエイティブにおける中核のチームとなるのは、この4人だけで親密に取り組んでいます。大企業と仕事をしているような感覚は一切なく、自分たちの考えを伝えることのできた真のコラボレーションだと言えます。最高の仕事をすることができたと感じています」。OK-RMからしても、今回の協業はとても風通しが良く、満足できるクリエイションとなったようだ。では、デザイン面で大切にしたことは何か。

「私たちは、デザインよりも最も大切にしていることはアイディアだと考えています。それが現れたら、そのアイディアに最も共鳴をする形、つまり表現の手段を見つけるということが主な仕事だと思っています。今回、ゴールドウイン ゼロのクリエイティブディレクションで大切にしたことは、感情、エネルギー、好奇心、助け合いを呼び起こすことでした。今回のプロジェクトはまだ始まったばかりです。この最初のコレクションのビジュアルでは、情報を吸収して行動へと移し、言葉を獲得していくといった未熟なプロセスの状態を取り入れて表現したものです。そうした流れの中でモデルの動き、映像、音楽は、自然に発展して今の表現へとなっていきました。映像には、生物学や物理学、占星術、哲学、機械学、化学、建築、地理学、気象学などの円形のシンボルやダイアグラムを幅広く調査して集めたものを表示しています。それらはユニークな形でもなければ、発展し続ける普遍的な形なのです。ゴールドウイン ゼロは、メーカー、思想家やアーティスト、詩人、振付師、建築家、音楽家など世界的なネットワークによって様々な人たちが集まり、作り出されています。カテゴリーや国境を超えたこの交流の面白さとそれぞれへのリスペクトの強さをゴールドウ イン ゼロから感じ取ってもらえたら、と願っています」。

Jean-Luc Ambridge

「洋服のデザインにおいて、僕が最も重要視しているのは常識に囚われない方法でプロセスに取り組むことです。服作りにおけるテクノロジーや人間工学的なディテールに焦点を当てながら、全体的な構造を考えます。見た目の美しさはもちろん、着た時に身体の周りでどう服が動くのかを意識します。それには、人間工学だけではなくデザイン的にも魅力的なパターンカッティングが大切で、それらが互いに意味を持ち、一体となって流れるように作られていることが必要だと思っています。美しさと機能性、この2つのバランスをとることに最も時間をかけてデザインを行っています」。ジャンは自身の服作りとゴールドウインゼロの服作りではどのような違いを感じたか聞くとこう答える。

「僕の名前を冠した、個人でやっているブランドはデザインは全て1人で行っているものですが、ゴールドウイン ゼロに関して言えば沢山の協力があってデザインをするプロセスでした。ゴールドウインゼロの開発チームには、多くの素晴らしい人達がいます。彼らの洞察力全てが衣服の開発に反映されているのです。富山のテックラボに行った時に目の当たりにした、アイテムの開発に費やされる研究の量は目を見張るものでした。制作するそれぞれの服のディテールまで全てに拘り、時間を惜しむことなく研究や開発をするレベルの高さを学べたことはとても素晴らしい経験でした。そこで改めて感じたのですが、僕のパターンカッティングのやり方は、従来の服作りにおける教育を受けている人から見ると、不思議に映るようです。これが良いのか、悪いのかはわかりませんが独自性に繋がっていることには違いありません。元々、ゴールドウインはテクノロジーで発展していったブランドなので、その技術を活かし僕1人では成し遂げることのできなかった衣服の開発が可能になったコラボレーションとなりました」。

独学で服作りを学んだからこそ、発揮できるジャンの柔軟なアイディアとゴールドウインが持つ様々なテクノロジーが調和したのが今回のコレクションと言える。そんなジャンは、彼が得意とするテックウエアのフューチャリスティックな側面から、デジタルライクな印象を感じるが休みの日には、ハイキングやサイクリングにも頻繁に出かけ、自然の中で感じたことをクリエイティブのインスピレーションにしているようだ。「自然の中には沢山の美しい形が存在しています。それらの形や構造からインスピレーションを受け、衣服の構造にさりげなく取りいれることを心がけています。今回のゴールドウイン ゼロでもそうした自然の美しさと テクノロジーの融合を表現しています」。

Photo Taijun Hiramoto (Stilllife)Interview & Text Takayasu YamadaTranslate Shunya Watanabe

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