GDC RE:START Takashi Kumagai
30年間動き続ける 熊谷隆志の集大成
「このカメラマンの写真いいね?どんな機材で撮ってるの?」、「このスタイリング可愛いね。スタイリストは誰?」。手渡した本誌をめくりながら、次から次に質問が飛ぶ。熊谷隆志の興味は常に動き続けている。
94年にスタイリストデビューし、98年からはフォトグラファーとしても活動。さらに趣味のサーフィンや植物から派生させて、ネサーンス、ベンチュラといったブランドを生み出したほか、数多くのセレクトショップのディレクションも行ってきた熊谷。現在も多数のプロジェクトを同時進行させている彼が、自身にとって最初のブランドであるGDCをこの3月に復活させた。20年以上前に一斉を風靡したこのブランドを、今再びスタートさせた理由とは何か?インタビューはそんな問いから始まった
13歳から今までの
自分をまとめる
「前のブランドから離れることが決まったので、また何かやりたいなと思ったんです。何がいいかな、と考えた時、これまでいろいろなことをやってきたその要素をすべてまとめたいと思った。そのプラットフォームとしては、また新しくゼロからブランドをはじめるより、GDCが1番いいと思ったんです。98年に始めたブランドなのに、“GDC好きでした”って今でも街で言われるし、リ・スタートしやすいかなと思って。3年後の30周年を最高の状態で迎えたい、という気持ちもありました」。
1998年にスタートし、裏原宿ブームの中で、高い人気を誇ったGDC。当時はアメカジをベースにヨーロッパのエッセンスを内包したストリートウエアを展開していたが、今回復活するに当たってはどのような思いで服作りを行なっているのだろうか。
「おしゃれに目覚め、“ガルフ”という盛岡のセレクトショップに通いつめた13歳の頃から今までの自分をまとめるという作業なので、復活に当たってのベースは自分が持っているアーカイブと古着でした。一度断捨離してかなりの数の洋服を手放してしまったので、古着についてのYouTubeを見て、気になるものがあったら、オークションサイトで探したり、古着屋さんに行ったり。今もいろいろと買っています。今回のGDCは僕の洋服漬けの人生の集大成に近いので、大人はもちろん、古着が人気の今の時代にマッチするので若いたちにも刺さるんじゃないかな。全ての打ち合わせに僕が参加し、自分が納得するまで妥協しないでものづくりを徹底的にやって、その中でまた新しい形が見つけられたらと思っています」。
今の時代だからこそ
実店舗に力を入れる
新生GDCにおいて熊谷が特に力を入れた点が実店舗だという。3月8日に代官山にオープンした店について尋ねてみると「すごく小さい空間ですが、インテリアにもこだわりました。ウッディな雰囲気はドイツの酒場みたいに見えるかもしれない。アメリカの要素もヨーロッパの要素も入れた面白い店になったんじゃないかな。古着屋さんのように、天井の近くから服を吊るし、気になった服はスタッフに声をかけて取るというスタイルにした部分もポイントです。今の時代だからこそオンラインだけではないフィジカルな展開をしていきます」と語った。
熊谷の私物だという角田純が描いた絵画、お気に入りのナン・ゴールディンのポスター、アルヴァ・アアルトで有名なアルテックのテーブル、米音響ブランド アルテックのスピーカーなど、店内には熊谷の嗜好が現れている。「アメリカだけでなく、ヨーロッパも自分にとっては大切なのエッセンスなので、ジャンルに囚われない自分の想いの詰まった空間にしました。ある意味でミクスチャーですね。ゆくゆくは東京やオンラインだけではなく、90年代のように地方の方々とも一緒にブランドを大きくしていきたい。いろいろな都市にいい古着屋さんもたくさんあるので、そういうお店とも何かできたらいいなと思っています」。
洋服以外の表現にも
力を入れることが大切
フォトグラファーとしても25年以上のキャリアを有する熊谷。以前のGDCではルックブックも撮影していた。
「ルックブックというかもはや写真集ですね。自分のブランドだから、自分の好きなものを好きなように作りたかったので、印刷にもこだわっていました。今のGDCでも絶対に作りたいと思っています。今回も建志(=Kj)は撮影しました。まだ言えないけど、他にも何人か撮影しています。でも当時のままではない大人の表現ということを心がけているつもり。こうした洋服以外のクリエイティブにも力を入れることは、ブランドをやる上で大切なんです。いろいろなものが自分に返ってきますから」。
走り出したら止まれない
サーフィン、ゴルフ、植物、車。多様な趣味を持ち、それらをリソースとしたディレクションで数多くのブランドをヒットさせてきた熊谷に“今気になっているものとは何か?”と尋ねてみると「プライベートでは引き続きゴルフに情熱を捧げているけど、日常はGDCでいっぱい。今は朝起きてから寝るまでGDCか、ゴルフですね。植物とサーフィンはちょっとだけ遠のいてるかな。車は家族ができてから、大きい車しか乗れなくなってしまったので、2シーターの車が気になりますね。ラフな格好でモーガンやポルシェの993ターボに乗りたいな、と思ってます」と答える。GDC ではそんな趣味から派生したコラボレーションも多数控えているという。「コラボレーションブランドではないので、オリジナルをどんどん強くしていきたいと思っていますが、もうすでに50近いコラボレーションが決まっています。嬉しいことに、みんな“やりたい”と言ってくれるんです。今後はフレグランスもやりたいし、陶芸の作家さんと一緒にクラフト的なものづくりもやっていきたい。それは、自分が過去にビオトープやCPCMのディレクションで培ってきたものだから。そういう僕のエッセンスが全部詰まっているのが今回のGDCです」。
「何かを始めるのはこれで最後かな、と思ってたけど、また、思いついたら始めるかもしれない。例えばカーショップとデニムとか。面白そうじゃない?古着屋もやりたいですね。昔からスタイリストなのにブランドを作ったり、カメラマンをやったり、“餅は餅屋”を破ってきた人間なんで。走り出したら止まれないんです」。
常識もジャンルも越え、さまざまな活動を行なってきた彼は、次は何を生み出し、どんな影響を世の中に与えるのか。集大成の場所を作ってもなお、新たなビジョンを思い描く熊谷の動きは、止まることはない。
(SHOP INFORMATION)
GDC代官山店
店舗住所:東京都渋谷区代官山町2−5 コレタス代官山1F
営業時間:12:00-20:00
Instagram:www.instagram.com/gdc_jp
Online store:https://gdc.tokyo/
Photo Asuka Ito Atsutomo Hino | Interview & Text Satoru Komura |