Fusion of Technology
テクノロジーとともに進化するファッションプロダクト
近年の急速なテクノロジーの進化や生活様式の変化によって、ファッションにおいても多様な選択肢が生まれている。最先端のテクノロジーが用いられたプロダクトを目にする機会は以前よりもずっと多くなってきた。しかしそんな中でも、ただ単純に最新技術が使われているから良いものだとは限らないだろう。テクノロジーの進歩にともなって、職人の熟練した手仕事や伝統的なディテールワーク、今まで脈々と受け継がれてきた技術をないがしろにしては意味がない。そんな2つの要素が合わさってこそ、これからの未来への礎となるのではないだろうか。そしてそんなプロダクトを身につける時、私たちの生活はより豊かになる。自分や未来と向き合っていくための、新しいもの。そんなフューチャープリミティブなプロダクトを紹介する。
AirTag Hermès
伝統的な美しい手しごとと
最先端テック企業の協業
2015年に初めて協業して以来、今日まで続くエルメスとアップルの関係性。メゾンを代表する美しい手しごとと、最先端のテクノロジーを担う両者のコラボレーションは、まさに今回のテーマであるフューチャープリミティブを象徴すると言っても過言ではない。日々持ち歩く鍵やバッグに取りつけることで、iPhone上で位置を把握できるようになるAirTagは、世の中から紛失を減らす革新的な代物。伝統を受け継ぐ革職人が手作業で製作した特注のケースを組み合わせることで、美しくモダンなアクセサリーへと昇華している。エルメスのアイコニックな「クルード・セル」モチーフには両社の刻印が刻まれるなど、まさに伝統と最先端のテクノロジーの両者が組み合わさったことを象徴する。
Denim Printed Nubuck Leather Pants
最新技術を駆使した
ベーシックの再解釈
一見コットンシャツとデニムのシンプルな組み合わせのスタイリングであるが、実は双方ともにレザー素材で作られたプロダクト。特にパンツはコットンデニム生地の質感をスキャンして一度データ化し、レザーにプリントして裁断。ステッチ部分は手作業で加えていくことで、よりリアルなデニムの風合いを作り出した。シュルレアリスムを代表する作風の、目を騙すという意味のフランス語、トロンプイユという技法を用いて、ベーシックなデニムを再解釈している。手作業による鞄づくりを行う工房としてスタートしたブランドのアイデンティティを元に、現代のテクノロジーを組み合わせ、新たな価値を持つプロダクトが生み出された。
Gucci × Oura Ring
ブランドのルーツに通づる
指先にはめるテクノロジー
オーラリングは指輪内側に埋め込まれたセンサーによって、睡眠や心拍、体温、歩数を含む運動などもトラッキングし、スマートフォンでモニタリングできるウェアラブルテクノロジーが搭載されたスマートリング。コロナ禍においてNBAが選手陣に取り入れたことでも知られている。グッチとコラボレーションした背景には、スポーツとレジャーの世界へのさりげないオマージュも感じられる。ファッションとライフスタイルのつながりを表現したスリムなリングは、ブランド創業者のグッチオ・グッチのイニシャルをアレンジし、さらにイエローゴールドのブレイドディテールを組み合わせた、煌びやかなジュエリーと合わせても映えるデザインとなっている。
Re-Nylon Collection
サスティナブルな未来へ繋ぐ
メゾンの新たな取り組み
プラダといえばナイロン地のプロダクトを思い浮かべる人も多いだろう。長らく作り続けてきたナイロン地のアイテムだが、アクアフィル社との協業プロジェクトとして2021年を最後にナイロン素材のアイテムは全て新しい重合処理手法により作られた革新的な再生素材、“RE-NYLON”になっていることをご存知だろうか。品質を損なうことなく無限にリサイクルを可能にするこの技術は、海から集められたプラスチック廃棄物、漁網、繊維廃棄物を再利用、浄化して作られている。日々進化するテクノロジーによって、メゾンがそうした取り組みを率先して行っていくことで、ファッションは着実にサスティナブルな未来へと新たな一歩を踏み出していく。
Dior 62-22
実用性も考慮しアップデートされる
クチュールのクラシックアイコン
シューズアッパー部分やオールハンドメイドの刺繍の細やかな手仕事に目を奪われるが、それと同じく象徴的なのはアンクル部分のディテールだろう。超軽量ネオプレン製のアンクルストラップであるアンチ・ツイスト・アンクレットやクロージャーシステムを採用し、伝統的なヒールに新たな要素をプラスしている。デザインは60年代にロジェ・ヴィヴィエが考案した型をベースに、ライフスタイルや労働環境に“安全”をもたらす研究開発に特化したイタリアのスタートアップ企業、D-AirLabとともに再解釈したもの。人工力学に基づいたシステムは実用性も折り紙付き。クチュールの伝統とシューズにおける革新的な技術が統合されたプロダクトとなった。
PUZZLE BAG
テクノロジー社会に対する
ユーモラスなメッセージ
優れた職人によって手間暇をかけて作られたアイテムは持つだけで気分を高揚させてくれる。パズルバッグはジョナサン・アンダーソンがロエベで初めてデザインしたもので、幾何学的なデザインをレザーカッティングで表現したブランドの高いクラフツマンシップを象徴するアイテムだ。今季はそんなモダンなデザインにLEDを配置し、伝統技術の結晶とも言えるレザーバッグを見事に遊び心のある雰囲気に昇華している。ユーモアを持ちながら、常にメッセージ性のあるコレクションを展開する彼ならではの発想と言えるだろう。
PODS
プリミティブな着想源を可能にする
ブランドが育んだ技術力
イッセイミヤケの服作りは今日に至るまで一貫して、一枚の布という考えに基づく。1本の糸から研究し、オリジナル素材を作ることから始まる服作りは、ブランドの伝統として引き継がれている。今季は植物の野生味とその美しさを起点にクリエイションがスタート。蒔いた種が根を張るところから始まり、発芽して茎や葉を蓄え、地中から地上へと光を追い求めるように成長する生き生きとした様子を衣服に落とし込む。このドレスは豆と鞘というプリミティブな着想から作られており、職人による手作業での絞り染めと、ブランドならではのプリーツ技術が巧みに調和し唯一無二のシルエットを形成した。
TK-360+
若きデザイナーが生み出す
スニーカーの新たな形
先進的なアイテムを生み出し続けるデザイナー、マシュー・M・ウィリアムズ。このアイテムにも彼の姿勢は色濃く現れている。アッパーからソールまで全てをストレッチニットで編み上げた一体構造になっているこのスニーカー。特徴的なフォルムも相まったデザインの意外性はもちろんのこと、全てをニットで作ることで身体の一部のような新感覚の履き心地になるという。デザインと機能性を両立させる彼らしいアイテムに仕上がった。昔から愛されるオーセンティックなものは間違いないが、時には新しい技術を用いたスニーカーを試すことも新たな発見に繋がるだろう。
EKON (MYKITA ACETATE COLLECTION)
小物にこそ差が出る
時代感を取り入れたアイテム選び
神は細部に宿ると言うが、細かいところまで考えてアイテムを選ぶ人たちはとても魅力的に見える。技術とデザインにおいて常にアイウェア業界に革命を起こすマイキータの次なる挑戦はサスティナブルアセテート「Acetate Renew」への完全移行だ。プラスチック廃棄物から生み出される本素材は、従来のアセテートと遜色がない見た目と性能ながら化石資源を必要としない為、環境への負担を大幅に軽減できる。時代感を巧みに取り入れて進化するアイテムを選ぶことは、今の時代における自身の意思表示にもなるだろう。
Cord Embroidery Bucket Bag / Dress
相反するプロセスが生み出す
美しいディテールワーク
いにしえの文化や大自然を着想源に多彩なコレクションピースを展開する、マメクロゴウチ。こちらのバッグやドレス、ジャケットには縄文土器に見られる紋様や日本の伝統的な籠のディテール、植物からインスパイアされた複雑な編み模様をパターンとして落とし込んでいることがわかる。デザイナー本人が各地を巡り出会ったそれらの柄などをもとに、自らドローイングした型を一度デジタル上に抽出。コンピュータプログラミングで改良を重ねた後に、マシーン刺繍で製品化をおこなっている。自らの足で行う徹底したリサーチ、手作業による工程と、デジタル上での構築作業。そんな相反する2つの側面が融合することで、これまでに見たことのないような美しい作品が仕上がるのだ。
Photo Kenta Sawada Hair & Make-up Shinya Kawamura | Styling Hiroki Sato Model Sethu Iliona | Edit Shohei Kawamura Katsuya Kondo |