Freedom of Courrèges Nicolas Di Felice

クレージュで表現したいのは 何よりも“自由”であること ニコラス・デ・フェリーチェ

街中でアイテムを身につけている人を目にする頻度が増え、キャンペーンを始めとしたビジュアルイメージやファッションショーのインパクトが強まったなと感じていたブランドの一つにクレージュがあった。個人的にはフォトグラファーのデヴィッド・シムズとのキャンペーンビジュアルが好きでよく見ていた。その火付け役となっているのが、2020年9月からクレージュのアーティスティック・ディレクターを務めるニコラス・デ・フェリーチェだ。長年にわたり名だたるメゾンでウィメンズデザインの経験を積んできたニコラスは、その培った実力を武器に次なる活動の場をクレージュに選んだのだ。この度ドーバー ストリート マーケット ギンザへクレージュの常設スペースが設けられることになり、展示の最終調整を自分自身でするために来日していたニコラスに話を聞く貴重な機会を得た。

ーニコラスさんがアーティスティック・ディレクターに就任されてからクレージュの勢いが加速していると感じますが、このブランドに関わり始めてから過ごした日々や活動を振り返るといかがですか?

年齢やジェンダー、職種などあらゆるジャンルを問わず、実にさまざまな人がクレージュのアイテムを着てくれている姿を街中でよく見かけるようになったと個人的にも感じています。でもそんな嬉しい世間のリアクションに対して私が何か特別なことを仕掛けたつもりはなくて、すでに私の想像を遥かに超えたことがクレージュの周りで起こっています。
とにかくファッションの仕事が好きなので、日々仕事に集中していろいろなことを考え、それを形にしていくプロセスを楽しんでいます。とはいえ、今の時代はファッションだけに関わらずあらゆるものにスピード感が求められ、次にどのような新しいものが生まれるのかへの期待が高すぎることには違和感を覚えています。なので、私は目の前にある一つひとつのことを大切にする意識でクレージュでのものづくりをしています。


ー昨晩パリから東京へ到着し、その足でドーバー ストリート マーケット ギンザへ向かって新しく設けられるクレージュの常設スペースをご自身でセッティングされたと聞きました。

私がクレージュのクリエイティブに対する戦略として唯一行なっているのは、「どのようなことでもまずは私自身で手を動かし始めること」です。私はやりたいことや明確なビジュアルを頭の中に持っているので、具現化するためにはまずは自分自身で動き始めることが重要だと思っています。
デヴィッド・シムズとキャンペーンビジュアルを作ったときもそうでした。チーム内の誰もデヴィッドの連絡先を知らず、私自身も彼との面識はありませんでした。でも私が求めるビジュアルを作るためには、長年憧れを抱いていたデヴィッドの力を借りる必要があると確信していたので、手に入れた彼の連絡先へ直接メッセージをしたんです。すると数日後に返信が来て、「二日後にパリへ行く用事ができたから、よかったら会う?」と。すごく気軽な返事が来たことに驚きましたし、急な予定になったのでものすごく慌てました(笑)。考えていたアイディアを彼に共有するために、私のボーイフレンドにカツラを被せ、上半身は裸にして、部屋にあったコカ・コーラの缶を潰して持たせて自分で写真を撮り、プリントアウトしてデヴィッドに見せました。すると彼は吹き出すように大笑いして(笑)。そのプレゼンテーション自体がとても面白くて魅力的だと今では思いますし、相手の気持ちを吸い寄せるようなアクションを起こさなければ、その結果がどうなろうとチャンスは生まれないなと改めて思いました。それから話は驚くほどスムーズに進み、22秋冬のキャンペーンビジュアルでデヴィッドとの初めてのコラボレーションを実現することができました。その後もデヴィッドとのコラボレーションは続き、実は来月もまた新たな撮影を予定しています。

ニコラスが頭の中に描いていたイメージを即興のプレゼンテーションにして、フォトグラファーのデヴィッド・シムズと共に作り上げた22FWキャンペーンビジュアル。

ークレージュで何を表現していますか?

“自由”でいることです。そのことをどうすれば表現できるかに日々フォーカスしています。クレージュはすごく歴史の長いブランドで、過去に生み出してきたクリエイション(代表的なものだとミニスカートやゴーゴーブーツ、スペースエイジデザインなど)へのリスペクトをもちろん持っていますが、どういう風にアップデートして私自身のストーリーを組み込んでいくかが大切だと思っています。クレージュの歴史と私のストーリーが交わることで今のブランド像になっているということです。私が作るクレージュには何の境界線もなくて、ありとあらゆる人が楽しめるものを目指しています。
そしてもう一つ大切なことは、“セクシーであること”です。これは性的な意味ではなくて、内側から溢れ出てくるロマンティックさや知性を意味しています。フリー(自由)でセクシーなアティテュード(姿勢)を持ち、そしてタイムレスだけど常に新しいものをクレージュで表現したいのです。

60年代のイメージとして直線的なラインやリトルポケットが明確にニコラスの頭の中にイメージがあり、それを具現化するために実際に60年代に作られたクレージュのドレスをオマージュした作品。丈の長さを変えたり、胸にアクセサリー感覚でベルトを付けるなどしてアップデートしている。

ークレージュ初となるメンズラインを立ち上げた目的を教えてください。

まず第一に、私自身がクレージュを着たいと思っていたからです。あくまでも個人的な意見ですが、世の中のメンズコレクションはファッショナブルかそうでないかの両極端が多くて、その中間にあるような服で私の好みに合うものはなかなかありませんでした。だからこそ、メンズラインでは私自身が着たいと思えるものを素直に作っています。

ニコラスはクラブで踊っている間に肩にかけていたアウターを失くしてしまうことが多かったという。その悩みを解決するために、レザーストラップを背面に取り付けることでショルダーバッグのように肩にかけられるギミックを盛り込んでいる。このようにニコラスの実体験をベースにしたアイディアやストーリーが現在のクレージュのアイテムに込められている。

ー昨年開催されていた「Courrèges Summer Club(クレージュ主催の音楽イベント)」や音楽の影響について教えてください。

Courrèges Summer Clubはクラブシーンを日中で行うイベントで、昨年初めて開催したそれは大きな反響がありました。だから今後も継続したいなということで、実は今年の7月にも開催を予定しています。クレージュがキュレーションして世界中のDJを呼び集めるこのイベントは、音楽を共有しながら集まった人同士で化学反応が起きて新しい何かが生まれているので素晴らしいです。
私は音楽がずっと好きで、幼い頃はクラリネットやフルート、ピアノを学び、12歳頃からはエレクトロニック・ミュージックの制作に没頭しています。レコードで音を聴いたり、コンサートに行くことも好きですが、何よりも大好きなのはクラブに行くことなのです。どこかダークでミステリアスなムードが好きですし、人種や年齢、ジェンダー、世間的なステータスも一切関係なく、全員が一つの曲に合わせて自由に踊ったり過ごしていることが素晴らしいのです。もはやスピリチュアルな体験だと思っていますし、いわゆる“勉強”や表向きの昼の世界では知り得ないことを多く学べるのです。その自由さこそクレージュで表現したいことの一つでもあるのです。

ビーチコレクションからリリースされたTシャツ。海辺でTシャツを着ていると吹き荒れる風でめくれ上がることにストーリーをニコラスが見出し、そのことをデザインとして落とし込んでいる。日常の細かな出来事に敏感で、そこにアイディアを見出すニコラスの自由な発想が象徴的に表れている。

ーこれからの活動について教えてください。

クレージュは徐々に規模が大きくなってきていると実感していますし、それはとても嬉しいことです。でも規模が広がるにつれて私が全てに細かく目を通し切ることも難しくなってきているとも感じています。以前働いていたブランドはさらに規模が大きかったので、コントロールすることの難しさやジレンマは経験として学んでいました。だからこそクレージュのこれからをもっと真剣に大切に考えていかないといけないですし、そのことにとてもワクワクもしています。

ニコラスが表現活動においてキーワードとする“自由であること”。そのことに純粋に向き合っているからこそ、クレージュのアイテムはジャンルレスな人たちに受け入れられ、愛されているのだった。クレージュのタグを付けて日々ネットに投稿される愛用者の幅広さや、想定もしていなかったようなアイテムの着こなしにニコラスはいつも驚かせるという。だが作り手であるニコラスの予想をも軽々超えて新たな姿をクレージュが見せていることは、彼が求める“自由であること”をまさにブランドが実現していることを物語っているのではないだろうか。

Photo Yuto KudoEdit Yutaro OkamotoSpecial Thanks EDSTRÖM OFFICE

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