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一切の妥協を許さない ビズビムのためのオリジナル生地

萩原メリヤスが生地生産を行ったビズビムのカットソーアイテム群。天竺編みや裏毛、カシミヤなど幅広いバリエーションを揃える。同社が開発した生地は染め職人の手に渡り、泥染や藍染、草木染などを施され、さらにはダメージ加工や風合いを出すため、手作業により二次加工を経て縫製されていく。それらの加工を経てビズビムが求める風合いになる生地開発を萩原メリヤスは行なっている。
ものづくりの本質を求めて

洋服の最もベーシックなアイテムの1つにカットソーがあるが、「cut (裁断)」と「sewn (縫製)」で形作られるニット生地(編んで作る生地)の服を意味している。ベーシックだからこそさまざまなブランドがカットソーアイテムを展開しているが、シンプルなものほど誤魔化しが効かないもので、素材や技術のクオリティが顕著に現れる。だからこそより良い着心地や作りのTシャツやスウェットに出会ったときには、もう後戻りができない。そんな経験を持つ人は少なくないだろう。中でもカットソー作りを突き詰めているブランドの1つにビズビムがある。デザイナー中村ヒロキの審美眼やものづくりへの情熱はSilverのバックナンバーで何度も特集してきたが、今回はカットソーに込められた中村とビズビムのクリエイションの裏側を探る。

期待に応えたいという
純粋な情熱

ビズビムのカットソー生地を製造しているニットメーカーが、日本有数のニット生産地である和歌山県にある萩原メリヤスだ。“メリヤス”とはかつてのカットソー生地の呼び名で、漢字だと「莫大小」と書く。「莫」は「無い」という意味を持ち、サイズの大小を問わない伸縮自在な肌着やTシャツのことを指したのだ。和歌山県はかつて徳川御三家のひとつ紀州徳川家の城下町として栄えた背景から、明治時代末に発展した産業のニット生産を始めた。大正時代には綿メリヤスが飛躍的に発展し、国内有数の産地へと発展していった。そんな同地で60年以上続く萩原メリヤスは、唯一無二の生地メーカーとして数多のファッションブランドとものづくりを行なってきた老舗。今ではビズビムのカットソー生地の大半を生産するほどの絶大な信頼を得ている。同社の現社長であり2代目の萩原朗史は、ビズビムと行う生地作りを嬉しそうにこう語ってくれた。「私はただの道楽者なので、自分の気に入ったものしか作りたくないんです。だから中村さんとビズビムの超がつくほどマニアックなものづくりにはすごく共感しますし、彼らからのオーダーにはいつも燃えるんです。例えば天竺編み(ニット生地の最も基本的で代表的な編み方)だと、中村さんが実際に自身で着用しているヴィンテージのボロボロのTシャツを持ってきて『こんなものを作りたいんです』と仰るわけです。そのTシャツが作られた当時はすでに工業化が始まってはいますが、現代のようにクオリティが安定しているわけではなかった。でもその個体差や風合いを中村さんはチャーミングだと捉えたり、素材自体は現代のものよりも高品質なものが多いことを実際に身につけて肌で体感しているわけですよ。効率化や安価性を重視した現代的なものづくりではなく、手間暇がかかってでも感動できるクオリティのものづくりをビズビムは目指しているからこそ、僕は彼らからの期待に応えたいんです」。心に響くものであれば、古くてダメージのあるTシャツであっても着続ける中村ヒロキの価値観。そしてその時代に流されない中村の審美眼に共鳴し、彼の理想を形にしたいと情熱を燃やす萩原。両者の付き合いは8年近くになり、今では次のシーズンでビズビムが作りたいもののキーワードをいくつか挙げるだけで萩原は理解し、生地開発をスタートさせるほどの共通認識を持っているという。そうやって築き上げられた関係性があるからこそ、世界中の目の肥えた洋服好きたちを唸らせるビズビムのカットソーアイテムが生まれているのだ。

針の特注デザインから始まり、編み機自体さえも自社で開発する萩原メリヤス。ビズビムが求める生地を生み出すために、素材選びはもちろん機械の作りにも独自の工夫を仕掛けている。同社の社員は機械を自分たちで整備する技術も持ち合わせており、もはやエンジニアと呼んでも過言ではない彼らだからこそビズビムが求める理想的な仕上がりに向けた微調整をスムーズに行うことができる。
ニッターの域を超えた
こだわりの積み重ね

ビズビムを筆頭に世界中のトップブランドからの生地生産オファーも絶えない萩原メリヤスだが、同社が手がける生地にはしっかりと裏打ちされた生産背景がある。「目面や質感、肌触り、微妙なムラの表情など理想的な編み上がりを生み出すために、逆算して原綿や番手の選び、配合、紡績方法まで自分たちで考えます。撚糸を作れる機械も自社に導入しており、まずは自分たちでサンプルを作ってから撚糸屋さんに生産を依頼しているんです。使う頻度は少ないですが、ナイロンのフィラメントを割る機械などもありますね。サンプル作りに一番時間がかかりますから、外注をして出し戻しのタイムラグを発生させてしまうぐらいなら、自分たちで作ってしまった方が早いし精度も上がるんです。編み機に関しては既存の機械を研究と経験値から分析し、新たな機械を針から溝までオリジナルで造りました。ここまでするニッターはほかにいないと思いますが、そうやって糸作りから自分たちで小さな仕掛けを積み重ねることで、編み上がる生地をより理想に近づけることができるんです。高速で動く機械のトラブルを究明するためのハイスピードカメラなども持っていますが、自分がやりたいことをやるために投資しているんです。設備投資や生地制作にかかる費用は問題とも思いません。ほかのメーカーでは絶対にしない投資ではありますから、あり得ない大馬鹿野郎だと思われてしまうかもしれませんが(笑)。でもいかにマニアックな要望を叶えてあげられるかが自分の使命だと思っていますし、そうやってビズビムが日本を代表するブランドとして世界で活躍する後押しをしたいんです」。素材となる原綿選びの段階からこだわり、1つ1つの工程に独自の仕掛けをしていくからこそ、形となった萩原メリヤスの生地にはほかにはない目面や質感が生まれている。さらに機械自体の製造やメンテナンスさえ自社で行なってしまう彼ら。もはや一般的なニッターの領域をはるかに超え、エンジニア的な一面も持っていることが強みでもある。

ビズビムのために特注で糸から開発して編み上げられた生地群。求める風合いによって素材に何かを混ぜる検証も自社で行なっている。編み機は自社開発したものを使うからこそ、一般的な生地よりも編幅を長く設定でき、その分だけ伸び代となって柔らかな着心地やヴィンテージに近い目面や風合いが生まれる。

最もシンプルだからこそ生地のクオリティが顕著に現れる白の天竺編み。中村ヒロキが愛用したヴィンテージTシャツをリファレンスにし、目面や質感、ムラの表情などを独自で追及して表現している。

中央の萩原朗史さんは2代目社長で、息子の千晴さん(左)と光さん(右)も技術を受け継いでいる。千晴さんは前職の紡績会社で糸の開発技術も修行しており、萩原メリヤスの生地開発をさらに進化させている。国内外問わず生地のオーダーが殺到しているが、ものづくりへのこだわりに共感できるブランドを厳しく見定め、クリアな関係性のもとで自分たちがしたい生地開発をできる環境づくりを徹底している。
文化的意義を求めた
信念を貫くものづくり
世界一のカジュアルブランド

ビズビムのアイテムは決して気軽に手を出せる価格帯ではないかもしれないが、萩原の話を聞いていると圧倒的な生産背景があってこそなのだと頷ける。ましてや萩原が作る生地は、その後は染色職人の手に渡り、泥染や藍染、草木染めのような手間暇のかかる染色や、ダメージ加工などの二次加工を経て、さらに縫製職人の手にかかることで晴れてビズビムのアイテムとして店頭に並ぶ。いずれの工程にも萩原に引けを取らない職人のこだわりが込められていると思うと、むしろ価格以上の価値が詰まっていると言える。「中村さんは細部まで一切の妥協を許さないからこそ、ビズビムはほかのブランドよりも長い製作時間を我々メーカーに与えてくれるんです。だからこそ品質に徹底的にこだわることができますし、ここまで自由にさせてくれるブランドはそうないです。100人に1人とは言いませんが、わかる人にしか伝わらないマニアックでフィーリング的なものづくりかもしれません。時代のメインストリームに逆行しているかもしれませんが、文化的意義の高いことをしていると信じています」。国内外のさまざまなブランドの生地開発を行う萩原メリヤス。そんな同社を牽引する萩原朗史が「カジュアルブランドだと間違いなく世界一」と太鼓判を押すビズビム。両社がこだわり抜いて開発したオリジナルのカットソー生地に腕を通せば、これこそ本物と呼ぶことのできるクオリティを間違いなく体感できる。

ヴィンテージのスウェット好きにはたまらない長いリブ部分も萩原メリヤスが開発している。染色やダメージなどの二次加工を経てビズビムが求める仕上がりになるように逆算して生地が作られている。

F.I.L.TOKYO 03-5778-3259
visvim 03-5468-5424

Photo Yusuke AbeEdit Yutaro Okamoto

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