ART & CRAFTS Ceramic Works / Painting AARON GLASSON
幾何学模様はデフォルメした 自然の美しさ
アートの視覚的表現と
クラフトの技法
パネルペインティングから陶器のスツール、抽象的なオブジェ、そして器。どれも全く形の異なるものでありながら、幾何学的でグラフィカルな模様と有機的な素材のバランスが一貫性を生んでいる。これらの作品を手掛けたのは、ニュージーランドで生まれ、現在はカリフォルニアとメキシコシティを拠点に活動するアーロン・グラッソンだ。本連載のナビゲーター南貴之はアーロンの作品をこう評する。「さまざまな街や国を転々としてきた彼の作品は、滞在した場所や街、雰囲気、経験がインスピレーションになっています。制作する手法や素材もそれぞれ異なるのですが、どれをとってもアーロンの作品だとわかるから不思議です。たとえば今回のスツールは、滋賀県の信楽にあるギャラリーNOTA_SHOPに滞在しているときに作られたものです。NOTA_SHOPはもともと信楽焼きのスツールをオリジナルで作っているのですが、アーロンの特徴の一つでもある幾何学模様が釉薬でプラスされているのがかっこいい。平面のペインティング作品や陶器の壁掛けオブジェ、そして器もそうですが、どれも色や形に奥行きがあり、心地のよいリズムが流れていると感じます。アートの視覚的表現とクラフトの技法を見事に融合してるのです(南)」。
感じることを具現化したい
アートとクラフト、幾何学と自然。アーロンの作品はさまざまな要素が掛け合わせられ、オリジナリティを感じさせるバランスに仕上がっている。表現方法はさまざまだが、彼がもっとも伝えたいテーマは何なのだろうか。「エコロジーや自然と人間のつながりをいつも考えています。もっともシンプルに言うと、自然崇拝ですね。私たちは日々数えきれないほどの動植物を絶滅の危機に追いやってしまっています。そしてその代償は最終的に私たち人間に跳ね返ってくる。現代の人間はデジタル技術への過度な依存状態にあり、ロボットのようにすらなりつつあると感じます。だからこそ、私たちに生命を与えてくれる地球や自然とのつながりを改めて大切にしなければなりません。だから、目に見えるものよりも感じることを具現化しようとしているのかもしれません。たとえばこのパネル作品は一見シンプルかもしれませんが、長い制作時間をかけています。スケッチブックにアイディアを描き、それをもとにキャンバスに天然顔料や砂、泥などを塗り重ねて表現していきます。仕上げには蜜蝋を使って厚みを出す部分もあります。絵画の制作プロセスは、地球上で生命が形成されてきた過程に似ています。自然も人間も表現も、本質は表面の奥底にこそあるのです。
私はさまざまな技法や素材を用いて表現し活動を行なっています。中でも一番好きなのはブリコラージュです。リサイクルの一形態であり、古くなったものに新しい生命を与えることができる。素材に宿る精神を再び蘇らせるようで好きなんです。今回のNOTA_SHOPでの滞在も非常に刺激的でした。信楽の町と陶磁器の歴史、自然環境、古い建造物。今を生きる陶芸家と、過去に活躍した陶芸家。それら全てからインスピレーションを受けて制作することができました(アーロン)」。
アーロンのシグネチャーでもある幾何学模様からはどこか温かみを感じさせられる。かつては具象画を描いていたという彼。表現を抽象画に切り替えたとき、身体の内側から出てきたのが幾何学模様だという。「抽象的ではありますが、幾何学のパターンとは自然界で観察されたものや自然界にある感覚を表現しようと人間が努力した形だと思うのです。ミクロから宇宙規模のマクロの世界まで幾何学は存在しています。だからこそ人間はそれに心地よさを感じるし、触れていたいのです(アーロン)」。自然界にある美しさを抽象化し、人の手による陶器の造形や釉薬による絵付けで表現される作品群。アートとクラフトの垣根を様々な手法で軽々と越えるアーロンの今後の作品も待ち遠しい。
アーロン・グラッソン
世界各国を旅しながら、その場所ならではの経験を絵画や彫刻、インスタレーション、建築など多様な手法で表現している。幾何学的な構造や模様と再利用素材を特徴とし、自然との関わり方を常に探求している。
南貴之
アパレルブランドのグラフペーパーやフレッシュサービス、ギャラリー白紙など幅広いプロジェクトを手掛ける。2024年11月末にはフレッシュサービスの国内3店舗目となる仙台店をオープンさせた。
Select Takayuki Minami | Photo Masayuki Nakaya | Interview & Text Yutaro Okamoto |