Midorikawa × PHIGVEL release special Aviator Zip Boots

ミドリカワとフィグベルの 特別なコラボレーションブーツ

ミドリカワとフィグベル。いづれも世界観が明確で、それぞれコアなファンに支持されるこの2つのドメスティックブランドが交わる日が来ると誰が予想しただろうか。面識はなかったものの互いのものづくりは意識し合い、緑川卓(ミドリカワ デザイナー)から東野英樹(フィグベル デザイナー)へのアプローチによってコラボレーションが実現したという。フィグベルの定番アイテムであるフロントジップアップブーツにミドリカワらしいエッセンスが加えられ、よりエレガントで遊びの効いた一足が誕生した。なぜこのコラボレーションが成立し得たのか。2人が語り合う貴重な場に立ち会った。

ーコラボレーションに至った経緯を教えてください。

緑川 僕にとって東野さんとフィグベルは大先輩なので、もちろんずっと知っていました。とにかく丁寧でクオリティの高いものづくりをされている。今までほかのブランドと関わることは積極的ではなかったのですが、フィグベルとは何かでご一緒できないかかとずっと思っていて、共通の友人を通じて一年ほど前にお会いすることができました。その際に僕の考えていることを伝えて、東野さんに快く受けていただけたのが始まりですね。

東野 その共通の友人から、「ミドリカワって知ってますか?」と連絡がきたんです。自分も曲がりなりにもファッション業界に身を置いていますから、「本人のことは知らないけど、ブランドのことは知ってるよ」と(笑)。フィグベルは日常着をベースにしたものづくりをしていますが、ミドリカワは想像の世界をベースにしていて、緑川さんの思い描く空想の世界を形にしている。だから彼は本当のデザイナーだと思います。自分にはできない表現をされているからこそ興味が湧きますよ。自分はデザイナーズやモードの世界も嫌いなわけではないですし、興味はあります。それで会うことになったのですが、フィグベルとミドリカワは世界観が違うし接点もないからこそ、わざわざ紹介したいと連絡がきたからには何かあるなと。実際に会うまではどういう話になるかは当然わからなかったですが、どういう内容であれ受けようと決めていました。単純に面白そうだなと。それで会って話してみたら、好きなことやものづくりのストーリーを大切にする考え方が似ていて、「じゃあ一緒に何かやってみましょうか」となったんです。お互いにコラボレーションをほぼしてこなかったブランドですし、世界観の畑も全く違うからこそ、何かすると化学反応が起きると感じましたね。

緑川がここ数ヶ月試用で履いている今回のコラボレーションのファーストサンプル。フィグベルのオリジナルよりレザーとコバに艶感があり、ヒールも高くなっている。取り付けられたリボンもミドリカワのシグネチャーとして存在感を放っている。

ーフィグベルのパーマネントコレクションであるジップアップブーツを今回のコラボレーションに選んだ理由を教えてください。

緑川 ジップアップブーツを題材として、共作をさせてほしいと当初からリクエストさせていただいていました。僕自身も個人的に購入し、実際に愛用しているこのシューズはとにかくクオリティが高い。ミリタリーシューズの中の一つのモデルであるジップアップシューズは、今までさまざまなブランドがアイディアソースとして用いてます。その中でもフィグべルさんが造り上げる一足の完成度は群を抜いている。僕が思うにプロダクトとしてこれ以上にない出来栄えだと思います。だからこそ、コラボレーションできる機会をいただけたのならば、一ファンとしてこの名作と何かさせていただきたかったんです。

東野 コラボレーションしたいと言ってくれたのがジップアップブーツだったのもよかったです。取引先も全く違いますから、ミドリカワのお客さんにもこのシューズを知ってもらえるきっかけになるのが嬉しいですね。自分は靴ブランドでも靴のデザイナーでもないからわからないですが、このブーツの完成度にはポテンシャルを感じています。最初はインナーにムートンを貼ったジップアップブーツを作ったのですが、その後ムートンを取り外したものを作りました。現在は違う革を使用したサンプルを試作しているのですが、どれもアッパーのデザインは共通なのに、レザーやコバ仕上げ、ソールを変えるだけでワークからエレガントなものなどさまざまな表情が出せる。その振れ幅に可能性を感じています。

ー完結している完成度、と緑川さんが感じるジップアップブーツですが、ミドリカワらしさをどう加えようと思っていましたか?

緑川 ジップアップブーツはそもそも歴史があるアイテムですし、それをアップデートしたフィグベルの一足は隙もないほど完成されている。その分、失礼を承知でわがままを言わせていただきました。「エレガントに仕上げたい」ということを伝えました。もちろん常識の範囲内で、リスペクトを持ちながらまとめることを大前提に。その範囲内で色々提案させていただきました。

東野 エレガントに仕上げるため、レザーはタフだけどフィグベルのオリジナルよりさらにドレスっぽく見えるものを使いました。エンジニアブーツに使うレザーなんだけど艶感がドレスっぽく見える二面性がいいですよね。ヒールの高さも限界まで上げました。コバの塗りもより艶が出るものを施しています。アッパーのデザインを変えるわけではないので、細かな部分の変化を積み重ねて仕上げました。何よりも緑川さんが持ってきてくれたミニカーのチャームとリボンを付けたことで一気にミドリカワらしさが生まれたのはさすがでしたね。ミドリカワというブランドのパワーを感じました。

緑川 素材に真鍮を使ったチャームのミニカーは、タイヤやシャーシ、ボディなど、一つ一つの部品をすべてオリジナルで製作しています。タイヤは実際に回るのでミニカーとしても走らせることができます。

東野 面白いアイディアですよね。自分らはミニカー世代なので、こういう懐かしいアイディアにはとても共感します。チャームはカスタムパーツとしてヴィンテージのライダースに付けたり、rabit foot(1940~60年代にヒッチハイカーやバイカーの間で流行した)のようにラッキーチャームとしてストーリーを持つものもあります。チャームの歴史をそういうふうに辿ると、エンジニアブーツにスタッズをつけることとも同じだなと。だからこのミニカーのチャームを取り付けるカスタムはとても腑に落ちましたし、ミニカーであることがミドリカワらしい。スーパーカーのチャームだから、足が速くなるのかなとか(笑)。

緑川 想像していた通りではありますが、ジップアップブーツにスーパーカー。訳がわかりませんね…。スーパーカーを模したミニカーにすることは自分の遊び心を表現したアイディアですが、チャームを取り付けるに至った理由を僕と東野さんの間で納得し合えたことが大切だなと思います。

ー世界観が違うからこそ、お客さんの反応が楽しみですね。

緑川 僕のお客さんの中には「なぜフィグベルとコラボレーションしたのだろう」と思う人もいるかもしれません。でも僕の意図は伝わるんじゃないかと思います。インラインのコレクションも同様ですが、取り合わせの面白さや意外性もミドリカワの魅力のひとつだと思っているので。自分の中では全て納得した上での表現なのですが、それがなかなか伝わらないことも少なからずありますが。東野さんが「お互いに似た感性を持っていた」と先ほど言ってくれたように、意外に思えて実は意外じゃないコラボレーションなのかもしれません。

東野 フィグベルもミドリカワも、インスピレーションは共通して古着やヴィンテージのものが多い。だから話していて辻褄が合わないことはなかったですね。あくまでも表現が僕は日常着として、緑川さんは豊かな想像の世界になっているというだけのことです。ここ十数年を見るだけでも緑川さんのような世界観を持ったデザイナーはどんどん減ってしまっていると思いますし、とても貴重な存在だと思います。デザインから商品発送まで1人でされていますしね。

緑川 自分が作り上げた洋服自体を見てもらいたいので、ひとりでブランドを運営しているとものづくり以外のPR業務などにはなかなか手が回らなくて。だからミドリカワに興味を持ってくれて、展示会に来てくれる方と話す機会が僕にとっては大切な時間です。

東野 本当にそうなんですよ。僕もフィグベルを始めた20年前は1人でしたし、その気持ちはすごくわかる。ブランドにとって一番大切なことはものづくりなので、そこにどれだけフォーカスできるかですね。自分はこれまでブランドの軸を強くすることを第一に考えていたので、コラボレーションにはあまり前向きではありませんでした。でも去年20周年という節目を迎えて、何か新しい取り組みをしてもいいかなという気持ちになったんです。だらか今回の取り組みをきっかけに、今後もいろいろと違う動きも増やしていければと思っています。

一見意外に思えた今回のコラボレーション。だが緑川と東野の波長やものづくりへの真摯な姿勢は通じていて、このジップアップブーツが形になるまでの過程は互いに納得し合えるものだったのだなと取材を通して知ることができた。表現の世界観こそ違えど、好きなものや価値観といった軸の部分は近しい。共通の音楽の趣味を通じて打ち解けるような関係性が2人の間にすぐに生まれたのだろう。そうして形となったこのジップアップブーツは、ミドリカワとフィグベルの境界線をいとも簡単に飛び越え、また新たな世界観を生み出した名作となっている。

2023年12月24日に全国のミドリカワ取扱店舗にて発売。
Price ¥143000

Photo Yota HoshiInterview & Text Yutaro Okamoto 

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