Utsuwa for expressing emotion Interview with Teppei Ono
“生きる”に正面から向き合う 小野哲平のうつわ作り
陶芸家、小野哲平。焼き物の産地である岡山県の備前や沖縄県の知花、愛知県の常滑での修行を経て、現在は高知県の山あいの棚田に暮らし、日々の感情や自身の中に溜まっていく社会に対する思いをエネルギーにうつわ作りを40年以上に渡って続けている。うつわ作りは手で土を捏ね、一つのものとしての形に仕上げていく文字通り“手作業”が基本だからこそ、作り手の人間像やそのときの感情が色濃く反映されるものづくりと言えるが、小野が作るうつわは荒々しさと繊細さが共存しつつ、その奥には優しさや温もりが感じられる。40年以上に渡るキャリアの中で国内外問わず様々な場所で展示を行ってきた小野だが、東京の表参道にあるライフスタイルショップ シボネで8年ぶりとなる個展を開催した。小野は今、うつわ作りに何を求め、何を伝えたいのだろうか。
ーシボネで8年ぶりに個展を開催することになった経緯やテーマを教えてください。
おそらく今このタイミングで僕の作品が世の中に必要とされているとシボネが考えてくださって声をかけていただいたのだと思います。その期待に応えるために僕もうつわを作りたいと思いましたし、時間も重なったので今回の個展が実現しました。
僕の場合、個展のテーマは毎回異なるわけではなく、自分が求めることは40年前から一貫しています。自分の作りたいものへ少しずつ近付いていくために仕事をする。個展はそれを手渡す場なのですが、8年前と同じように、多くの方にご覧いただける機会を作ってくれたことに感謝しています。
ーうつわ作りを通して何を表現していますか?
頭や体が感じたことを内側から外の世界に出す感覚です。感情や感覚の話なので言語化するのは難しいのですが、僕のうつわをものとしてお客さんが実際に目にしたときに何かを感じ取ってもらえればそれでいい。うつわは決して自分を着飾るためのものではないので、対峙することでそれまで知らなかったことや気づきがあればいいなと思っています。洋服や音楽もそうですが、最終的にはそれらとどう向き合うかが自分にとっての価値になるのではないでしょうか。今回会場に掲げられた言葉「刺激的なものは、反応しやすいし分かりやすいが、どれだけの時間に耐え、持続し続けるモノであるか」。今回の展示に向けシボネの方たちと打ち合わせをしていた時に僕の口から出てきた言葉でした。時間に耐え、持続し続けるモノであること。今の時代において僕が大切にしたいことの一つなのだと思います。
ーインドやタイなどアジア各国を頻繁に旅していらっしゃいますが、その経験はものづくりに影響していますか?
旅は僕にとって大きな大きなものなんです。1人旅をしたのは一回だけで、いつも家族と共に旅に出かけます。現地の陶芸の仕事や具体的な何かを見たいということはあまりなくて、行きたい場所を決めたら現地の人たちの日常的な生活にできるだけ近い体験ができるように過ごしています。そうすることでそこに住む人たちのリアルな感情や息遣いを感じたいのです。でもそうやって旅することで常に感じるのは、日本に住む人も他の国に住む人も、抱えている問題や心の中にはあまり違いはないのだなと。だからその問題や、社会から欠けてしまっていることを少しでも埋められるような存在として僕はうつわを作り、そこに僕の想いを込めています。
ー表現方法の素材として、なぜ“土”に惹かれたのでしょうか?
最初は土に限定したのではなくいろいろな表現の芸術に惹かれました。僕が10代だった頃はギスギスした感情を持っていて、世界は冷たいプラスチックのような部分が多いと感じていました。その感情に対して、有機的で人間の本能に訴えかけてくるような土がすごく居心地良く感じられたんです。当時はそのように考えていなかったですが、今振り返るとそうだったのかなと。土と向き合う、その気持ちは今もずっと変わっていません。
うつわの焼成には、ガス窯と薪窯を使っています。特に僕の薪窯はひとりで焚けるサイズではなく大きいので弟子とともに日数をかけて焼成します。常に窯がいま何を欲しているかを推察し、薪をくべるタイミングを考え続けます。噴き出す炎の様子を見ていると窯は生き物だと感じますし、燃え上がる窯に薪をくべて火をコントロールする作業はいまだに怖いです。でもそうやって怖れや緊張、興奮を感じることこそが“生きている”ということですし、そうして焼き上げられた僕のうつわから“生きること、生きていること”が受け手に伝わってくれるといいなと思っています。
ー1978年に備前で陶芸の道に踏み込んで45年となりますが、この道に入ったきっかけを改めて教えてください。
生まれは愛媛県の松山で、高校卒業まで過ごしました。その後は美大に入って美術や陶芸を勉強することを目標に上京したのですが、3年近く進学先が決まらなかったんです。それでこれ以上浪人の時間を過ごすぐらいなら陶芸作家のもとで学んだ方がいいと思い立ち、岡山県の備前焼を学ぶべく現地の作家を訪れました。でも入ってみると、想像していた世界と違うように感じて。その後は沖縄の作家のもとでも過ごしたのですが、そこも自分には全然合わない世界でした。そうこうしている時に、とある雑誌で愛知県の常滑で作陶していた鯉江良二という作家を見つけたんです。何か強く惹かれることがあり、実際に会いに行って「手伝わせてほしい」と頼んだんです。それからは手伝いというか、昼夜関係なく日々のありとあらゆることに関わることになりました。それまで僕が見てきた陶芸の世界は、伝統の継承に重きを置く伝統工芸の世界でした。でも良二さんは陶芸の既成概念をいい意味で壊してきた人でもあったので、僕自身も解放されていく感覚があったんです。好きなことを自由に表現すればいいと気づかせてもらえて、それからは陶芸の面白さに一気に魅了されていきました。
ー鯉江良二さんとの関係からどのようなことを学びましたか?
良二さんのもとには3年ほどいたのですが、とにかく激しい人で、毎日が喧嘩のような日々でした。でもそれは、師匠と弟子という関係の上で、真正面から僕に向き合ってくれていたのだと思いますね。良二さんと出会ったことで僕は自由になることができましたし、彼のように人に対して向き合い、正直にものをいうことが礼儀なのだと学びました。
若い時分ですから良二さんと過ごした日々には不条理だと感じることもありましたが、彼が作り出すものに毎日ドキドキしていました。僕も今では弟子を抱えていますが、僕が生み出すものに共感してくれる人が集まってきてくれるのであれば、僕も彼らと正面から向き合い、ものづくりをするための全てを見せたいと思っています。僕のインスタグラムで弟子募集の告知をしているのですが、アシスタントやスタッフという言葉ではなく、“弟子”という言葉にこだわる理由はそこにあります。かつて良二さんが僕にしてくれたように、僕も正直に向き合い、彼らがいずれ独立し、さらに自由で新しいものづくりが繋がっていってほしいと願っています。
“生きること、生きていること”にとことん向き合った小野のうつわ作り。それは素材に土や焼き上げには薪を使うという物質的に有機的だという単純な話ではない。日々の生活で感じる喜びや不満といった感情、出会った人と礼儀を持ってぶつかり合うこと。そのように瞬間瞬間に向き合い、湧き出る感情を味わうことが“生きること”の醍醐味でもあり、小野はそのことに素直で貪欲なのだとインタビューを通して感じた。だからこそ小野が生み出すうつわに何かを感じ取り、日々を共にする一枚として手に取る人が絶えないのだろう。
小野哲平
1958年愛媛県生まれ。愛知県の常滑にて鯉江良二氏に師事、その後独立。タイやラオス、インドなどアジア各国を旅したのち、高知県に移住。棚田が美しい山あいに住み、めし碗、皿、鉢、湯のみ、日々の暮らしのなかで使われる土のうつわをつくる。
Energy Teppei Ono
開催期間:2023年4月7日(金) 18時‐4月23日(日)
開催場所:CIBONE(表参道)
150-0001 東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE B1F
営業時間:11:00 – 20:00
会期中のお客様お問い合わせ先:03-6712-5301(CIBONE)
詳細URL:https://www.cibone.com/news_exhibition/7099/
Photo Keiichi Sakakura | Edit Yutaro Okamoto | Special Thanks Tomoo Shoken |