Photography to the future by Tsuyoshi Noguchi

写真史に名を遺す ライアン・マッギンレー

1 Life Adjustment Center (2010)
2 Way Far (2015)
3 Whistle for the Wind (2012)
4 Yearbook (2024)
5 You and I (2011)
6 Everybody Knows This is Nowhere (2010)
夏の数ヶ月間に渡るアメリカ横断のロードトリップで撮影されたシリーズを中心にした“Way Far”、初期作品から選りすぐりの写真を集めた“You and I”などは印象的なカバーも相まってライアンを象徴する写真集といえるだろう。“Whistle for the Wind”のカバーフォトは、アイルランドのポストロックバンド“シガー・ロス”のアルバム“残響”のジャケットでも使用された代表的な1枚。“Everybody Knows This is Nowhere”は珍しくモノクロのポートレートのみで構成された内容となっている。
良い瞬間を絶対に探り出すという
姿勢が写真に表れている
野口強

本誌では“色”にフォーカスを当てた特集をしているが、写真において色を特徴的に捉えたものはなんだろうと考えると、ウィリアム・エグルストンやスティーブン・ショアらによるニューカラーが思い当たる。だが、彼らはこの連載でも過去に紹介をした為、今回はあえて外して考える。現代の写真家で、色を特徴的に扱い、影響を与えている人物という観点で考えると、“ライアン・マッギンレー”の名前が野口からあがった。

色彩豊かな表現で描かれた、鮮烈なヌードの写真で2000年代初頭に一世を風靡したライアン。元々はニューヨークの美術大学であるパーソンズ・スクールオブ・デザインでグラフィックデザインを専攻したライアンは、在学中から写真撮影に魅了され、友人たちの日常を撮影した写真集“The Kids Were Alright”でデビュー。時の写真展や写真集は自費で制作し、写真集に関してはライアン自身が尊敬するフォトグラファーや出版社に送って見てもらっていたというヒストリーがある。今でこそ、“アメリカで最も重要なフォトグラファー”と称されるほどの地位を築いたライアンだが、当時から写真に対しての直向きな情熱を持っていたことを感じさせるストーリーだ。過去に1度、カルティエの仕事でライアンと撮影をしたことがある野口は、その時のことを振り返りながら、ライアンの写真に対しての姿勢について話す。

「ライアンはとにかくたくさんの写真集を持っていて、毎日のように眺めているんだと本人は言っていた。過去のインタビュー記事でも目にしたことがあるけれど、膨大な写真集のコレクションで過去や現代のあらゆる写真を勉強しているようで。だから、誰も観たことのないような新しい写真が撮れるんだと思った。ライアンといえば、旅をしながら自然の中で全裸の男女が動き回っているような写真のイメージが強いんだけど、仕事をした時はスタジオだった。その時の撮影は、モデルとして女優からプロ、素人もキャスティングして、洋服やヘア、メイクなどディスカッションしながら進めていくんだけど、簡単にはシャッターを切らない。“良い瞬間を絶対に探り出してやる”という諦めない姿勢は本当に勉強になった」。

今回、紹介している野口が所有するライアンの写真集にも含まれているが、最も有名で彼を象徴する写真集であろう“Way Far”は、若いモデルとともに数ヶ月にも渡るアメリカ横断をロードムービーのように捉えた作品群。対して比較的新しい“Yearbook”は被写体こそアーティストやモデルのヌードだがすべてカラーペーパーで撮影をしている。

「いつも言っていることだけど、ライアンの写真の魅力は被写体との距離感の近さ。ロードムービー的な作品は時間がかかっているからもちろん距離感は近いんだけど、スタジオの写真でも同じことが言える。カメラを構えるまでにすごく時間をかけて被写体とコミュニケーションを取るし、距離を詰めてから撮影を開始する。そうじゃないと、ライアンの写真は撮れないと思う。あくまで想像だけど、自分が仕事を一緒にした時はそんな感じだった」。

過去から現代まで色々な写真表現を研究し、これからの写真史の残る写真とは何かを探究し続けるライアン。だからこそ、表現の幅が豊富にあるといえる。野口はどのシリーズが好きなのか聞くとこう答える。

「一番好きな写真は、音楽フェスで観客の顔を望遠で撮影した写真を集めた“Youand My Friends”のシリーズ。それと“、Animals”という動物のシリーズが好き。フェスの写真を見ても、大胆なトリミングや複数の写真を並べて1つの作品に見せる表現方法は、彼がグラフィックを経験したからこそだと思う。動物の写真はカラー背景で撮影しているところが新鮮で、人物も入れて撮っているから両方のバランスが良い瞬間を狙うのは大変だったと思う。そういう背景の部分も含めて魅力に感じる」。
現代のファッションフォトグラフィーにも多大な影響を与え続けているライアン・マッギンレー。彼の写真を観ていると、飽和状態とも言える現代のビジュアル表現の中で、オリジナリティを探り続けることの尊さを感じられるのではないだろうか。

野口強
1989年から、スタイリストとして長年国内のファッションシーンを牽引し続ける。ファッション誌や広告を中心に活躍し、多くのセレブリティからも信頼が厚い、業界の兄貴的な存在。ネットショッピングが普及している今でも、写真集は状態を確かめるため実際に書店で確かめてから購入している。

Photo  Masato Kawamura Interview & Text  Takayasu Yamada

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