THE THINGS CONVERSE CHUCK TAYLOR
野村訓市が考える 色とコンバースの話
やっぱり気分が上がるんですよ
野村訓市
小学生くらいのときに欲しかった服ってなんだろう?ファッションへの芽生えのきっかけとなるものだが、基本的にアニメや漫画に映画からだったような気がする。たとえば「キャプテン翼」のキーパー、若林。特に彼が被るアディダスのキャップには激しく惹かれ、俺もサッカーやるなら絶対同じものを被ってしたいと駄々をこねまくったのだが、考えてみたらキャップなんて被ってたらヘディングできねーじゃねえかということでダメだった。それから「ブルースブラザース」のブラックスーツが欲しくなった。欲しかったなぁ、まじで。なんであんなに欲しかったのか分からない。身軽なデ○ってのにすごく憧れたのもあったし、黒いハットに黒いサングラスにっていう出で立ちにどこかブルース魂を感じたのかもしれなくもなかった。これもねだって駄々をこねまくったが手に入らなかった。「なんでうちの子供はこんな喪服みたいなものを欲しがるの!どこに着てくの!?」といわれて答えられなかったのだからまぁ仕方がない。そしてその次に欲しくなったのが「ゴースト・バスターズ」のツナギ。いやもうめちゃくちゃカッコイイじゃんと思っていたのだけれど、そんなモン着てどこに行く気だったんだろう、いま考えても何一つ思い当たるものがないのだけれど。まぁあれだな、今思うに自分には子供のころからちょっとしたコスプレ気質があったんだと思う。それは今もハロウィンのときとか要所要所で発揮されてしまうものなんだけれど、なんでしょうね、キャラ立ちした人の制服みたいなものに惹かれるとでも言うんでしょうか?服だの靴だのを単品で見れない性分だったんですよ、ついつい全体を見てしまうというね。そんな中で突然映画とかのキャラじゃなく、実態のある人に憧れて欲しくなった最初の単品がコンバースのチャック・テイラーだった。偉そうに言っているが当時はただオールスターとしか知らなかったけれど。そのチャックを欲しいと思った理由が、80年代に一世を風靡したスケーター、クリスチャン・ホソイ。その頃は情報源が異常に乏しく、ハワイによく行く友達が買ってくる「スラッシャー」とか「トランスワールド」といった雑誌と、スケートのコンテンストのビデオとかしかなかったからそれをまぁ舐めるように見るわけですよ。それで時は80年代ですからね、色使いも派手で全てがグラマラスな感じだったのよ。そこにものすごいアメリカを感じてドキドキしてたわけ。今との違いが何か?簡単にいうのは難しいが、まず髪型もみな派手でサイドを刈り上げて前髪にメッシュを入れたり。サングラスもレイバンのウェイファーラーみたいなものか、ミラー加工したレンズの派手な色のフレームでね。そしてこれまた派手な蛍光色とかをプリントに使ったTシャツの下を飾るのは、今のものよりはるかに短めで、タイトな短パン。それに足もとはヴァンズというのが定番だったわけ。まぁすごい格好で、確実に言えるのはもう死ぬまでそんな格好を俺は2度としないと断言できるスタイルなんだが、そこにクリスチャン・ホソイというスケーターがいたわけなんですよ。その名の通りの日系人でまずはそれが珍しかったんだけど、とにかく滑りも派手なら格好も派手で、めちゃくちゃクールだったんですよ。顔はちょっと羽賀研Z的な感じとでもいうんですか。当時はやっていたJIMMY’Zが服のスポンサーで、そのベロクロのついたパンツはステューシーのビーチパンツみたいなシルエットだったのだけれどまぁとにかくカッコ良かった。それに1人コンバースを履いていたわけ。ヴァンズやそのちょっとあとに出てきたエアウォークとかがスケート用のスニーカーとしてほぼ全てのプロをスポンサードしていた中で、クリスチャンだけはコンバースだったわけ。しかも履き方も派手なんですよ、片足づつ色違いで履いたり。普通に履いていたとしてもグレーのJIMMY’Zのパンツに赤や黄色のチャックテイラーを合わせる。色物のスニーカーなんてそんな見かけたこともない時代っすよ。それがどれだけカッコよく見えたかわかります?そしてくるぶしの位置に燦然と輝く星マークと共に俺は完全にそこにアメリカを感じてノックアウトされたわけ。ヴァンズよりもなによりもまずチャックが欲しくて欲しくて。けどね、高かったんですよ、当時は。ただのキャンバス製のスニーカーなのに。バスケットシューズ売り場みたいなとこでも売っていたのだけれど、国産の似たようなキャンバス製のハイトップの倍くらいしたと思う。だから最初に買うときには悩んだわけよ。けれどこのチャックが最初かな、後を考えて着回しのしやすい黒を買おうとか考えずに派手な色一択で買ったのは。最初は確か赤だったと思う。でもってそれからも常に派手な色を買ってきた。キャンバス製だからデニムだとかチノパンとかコットン製のパンツに相性がいい。そして派手な色を身につけるということを学んだのがこのチャック・テイラーだった。靴だけ派手であとはわりとシンプルに着る。あぁ色ってありなんだな、男でも遊べんだなってことをね。色ものって、こうジャケットとかパンツとかに取り入れようとするとなかなか勇気がいるじゃないですか?突然そんなの着てでかけたら『お前なんかあったの?』みたいな質問とかされちゃいそうじゃないですか。だからといっていつも同系色でまとめたり、モノトーンの格好しててもつまらないじゃないですか?そんなときどうするかっていうと、小物とか体の端っこに身につけるものに色物を合わすんですよ。帽子だったり、手袋だったり、マフラーに、そして靴。派手な色でもいい感じに差し色っぽく見えるしね。そして何より、色物を身に纏うとね、やっぱり気分が上がるんですよ。マジで。だからコンバースとか、ヴァンズとかからでいいんですが、定番のものをいろんな色で集めてみる。そして気分によって履き替える。いつもと全く同じ服装で、足元だけ色をつけてみればいかに色っていうものがパワフルか実感しますよ。本当に。
野村訓市
1973年東京生まれ。編集者、ライター、内装集団Tripster主宰。J-WAVE『Traveling Without Moving』のパーソナリティも早、10年目になる。企業のクリエイティブディレクションや映画のキャスティングなど活動は多岐に渡る。
Illustration T-zuan | 16:39 – 18:08 5th March 2025 Tokyo | From morning 2 cup of Americano 1 box of Marlboro gold soft pack |