Style File 11 Artistic Director Ramdane Touhami

ラムダン・トゥアミの スタイルを紐解く

スタイルとは何か?それは、その人ならではの生き方であり、服の着方であり、モノとの付き合い方だ。ファッションはお金で買えるけれど、スタイルは買えない。だけど、人から学ぶことができる。スタイルについて考え続ける人生はきっと楽しいものになるだろう。

Words, Sounds, Colors and Shapes
パリのマレ地区に昨年オープンしたばかりのコンセプトショップ。オリジナルブランドであるディ・ドライベーグのほか日本をはじめとした様々なファッションブランドのアイテムを扱う。山をテーマとしたプロダクトやクラシカルな内装がラムダンらしい空間となっている。今春には東京・中目黒にもお店がオープンするそうだ。

Radical Media Archive
社会的風刺のイメージが好きで、“ラディカル メディア アーカイブ”というプロジェクトも開始したラムダン。このバッジやマガジン、エフェメラはそのプロジェクトの一部で、ショップでも見ることができる。バッジはラムダンがコレクションしているヴィンテージコレクションから、デザインを実際にコピーしヴィンテージ加工を施した上で販売されている。
Interview with
Ramdane Touhami
コスチュームではなく、
自然でいられるかどうか
ラムダン・トゥアミ
大切なのはスピード感と
クリエイション

今年1月のパリコレクションシーズン中、身近な人たちに「いまパリでは何が面白いのか?」と尋ねると、「ラムダンがオープンしたお店がとても良かった」という答えを頻繁に聞いた。
2014年、パリの老舗美容専門店“オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー”を妻のヴィトワール・ドゥ・タイヤックとともに復活させ成功へ導いたラムダン・トゥアミ。彼が昨年パリのマレ地区にオープンしたコンセプトストアが“WORDS, SOUNDS, COLORS & SHAPES(ワーズ サウンズ カラーズアンドシェイプス)”だ。2023年にはスイスの山岳地帯にあったホテルを買収しリニューアル。山をテーマにした雑誌“USELESS FIGHTERS
(ユースレス ファイターズ)”を発行するなど、そのほかにも彼が手掛けているクリエイティブを書き出すと枚挙に遑がない。そんな、数々の話題を生み出し続ける、まさに時代の寵児。実業家であり、クリエイティブディレクターとして活動し続けるラムダンがなぜこれほど多くの活動をしているのか聞くとこう答える。

「思いついたら、後先のことを考えないで実行してしまうタイプなんです。何か戦略があるわけでもないですが、思いついたらやってみて、後ですべてを線で繋げたいと思っています。例えば、ヴィンテージの家具を集めるのが好きなので、ホテルをオープンした時はそのヴィンテージの家具を置こうとか。山が好きだったのでそれにまつわる服を作ろうとか。ドライベーグ・ホテルのカフェをパリのロケーションにも作ってみようとか、そういう風に色々な活動が繋がっていくように作ってきました」。

Beanie
「僕はいつもビーニーをかぶっていて、もはや自分にとって髪の毛のようななくてはならない存在です。身につけるのは、自分がデザインしたものだけ。このビーニーも特別なウールを使っていて、100%天然の素材にこだわっています」。

Shoes
「これは僕が毎日履いているシューズ。僕のブランドのもので、クラシックなダービーシューズのシルエットに、登山靴の要素を融合させた一足なんです。シンプルだけど、細部までこだわり抜かれていて本当に完成度が高い。世界で最も美しい靴だと思っています」。

Rag
「このラグは、スイス・ミューレンにある“ドライベーグ・ホテル”の正面にそびえるスイスの三大名峰“アイガー”、“ユングフラウ”、“メンヒ”をデザインしたもの。通常こういうラグにはその土地の動植物をモチーフにすることが多いんですが、これは少し違っていてミューレンの象徴とも言える“ミューレン山岳鉄道”が描かれているんです」。

Porsche 911 Dakar Roughroads
かつて映画監督のルイス・ブニュエルが住んでいた家がパリの住処であるラムダン。そこに留めてあるポルシェはラムダンの特別な1台。「子どもの頃に見ていたダカール・ラリーにこのポルシェが出場していたんです。それから40年後、この車が復刻すると耳にした時は本当に興奮しました。すぐにポルシェに問い合わせたら、『フランスには3台しか割り当てられない』と言われた。ダメ元で『1台買えますか?』と聞いてみたけれど、答えはNO。そこで、ある友人に電話をしたんです。すると、なんとポルシェの社長から直接連絡があって、『君のために1台用意したよ』と言われました。それが、この車なんです。手に入れるのは本当に難しかった。このポルシェはレース仕様の特別なモデルで、普通のものとは違う。車高が高く、砂漠でも走れる設計になっています。そして何より、僕のナンバーが入った、唯一無二の一台です」。

スイスの山岳地帯にある美しい山村ミューレンにあるラムダンのホテル“ドライベーグ・ホテル”。ミューレンは車でアクセスできず電車かケーブルカーでのみ訪れることができる場所で、その美しい景観は多くの旅行者や芸術家を魅了している。
なぜラムダンは山に惹かれるのか

山が好きであるというラムダン。彼が生み出す服も雑誌もホテルもだが、クリエイションの軸には山がテーマになっているものが多い。インタビューをした場所は代官山のカフェだったが、その日も自身が手掛けたマウンテンブーツを履いていた。彼はなぜ、これほどまでに山に惹かれているのか。

「惹かれているというよりも、もはや中毒に近いのかもしれません。夢中なんです。理由は上手く説明できないのですが、僕はフランスの田舎で生まれ、子どもの頃から山が好きで、両親によく連れて行ってもらっていました。山に連れて行ってもらうと帰るときにはいつも悲しい気持ちになるんです。それだったら、山にもっとたくさん行けばその思いは無くなるんじゃないかと思い、より頻繁に行くようになった。でもその病気は全く治らなかった。飛行機で日本に来る時も列島の上に差し掛かる頃、窓から山を眺めては『行きたい……』と考えています。日本では青森、長野、五島列島で登った山が好きでしたね。スイスの山にホテルを作ったのも、山に行く理由を仕事でこじつける為ですし、雑誌(ユースレス ファイターズ)も仕事で山に行きたいと思ったので作ったのです」。

どの部屋もヴィンテージ家具を中心としたインテリアとなっているが、この写真の部屋はBODEのエミリー・ ボーディとアーロン・アウジュラがデザイン。競走馬のストーリーが部屋のコンセプトになっており、至る所に馬関連の装飾が施されている。

Furniture by Ettore Sottsass
ラムダンがコレクションしているという、イタリアのインダストリアルデザイナー、エットーレ・ソットサスの家具。「僕はコレクターです。3000m²もある倉庫に、膨大なコレクションを保管しています。でも、6ヶ月ごとに新しく集めては飽きてやめる、を繰り返しているんです。すべてを学び尽くしてしまうと、興味が薄れてしまうんです」。

言動全てにおいてラムダンの山好きは伝わってくるが、そうした美しい自然環境に触れながら多くのクリエイションを行うからこそ、大切にしているポリシーがあるという。それが石油由来の服を着ない(作らない)ということと、本物であるということ。「僕にとってプラスチックを使わないことは大事な主義です。僕がこうやって日本に来たり、世界中を飛び回るために石油が使用されているだけでも十分に地球に悪いことをしています。だからこそ、できる限り自分が作るものにはエコロジーに対して考慮したい。その想いは日に日に強まっていますね。そして、もう1つ大切なことは、本物であるということ。未来に残るものじゃないとダメだと思っています。そのためには偽物はやらない。ものを作ったりするときに『一年後もこれを好きでいられるか?』ということを考えることは多いです。僕が好きなファッションデザイナーたちに共通しているのは、自分の世界を作ることができるということ。商品そのものというよりはその人が作る世界が好きなんです。良いと思ったブランドでも2シーズンは良いコレクションが続いても、3シーズン目でダメになってしまうことは多いです。最初は自分が作りたいものを作っていても、儲かり始めるとお客さんの方を向きすぎてしまうブランドも少なくありません。僕はお客さんがどう思うかは一切気にしないので、自分が作りたいものを作っています」。

そうしたものづくりの点では日本のブランドについてラムダンは評価しているようだ。自身も日本のブランドをかねてより、頻繁に着用したり、ショップでも多く扱ったりしてきた。

「ヨーロッパはマーケティングが力を持っているのに対して、日本はクオリティとクリエイティビティが力を持っています。独裁者が作った服こそ僕は良いものであると思っているので、あまり色々な意見を聞かず、作っている人が自分で判断をして活躍できる環境が日本にはまだあると思うんです」。

宇宙飛行士みたいな
格好である必要はない

そして、ラムダン自身のファッションスタイルについて話を進める。いつも鮮やかなニットキャップが特徴的なラムダンだが、スタイルについてはどう考えているのか。

「僕にとってのスタイルは、自分自身が快適でいられるかどうか。コスチュームではなく、やりすぎず自然でいられるかどうか。着ていて良い気分でいられるか。僕の妻は、多分ですがファッションに対して最も興味がなさそうですが、だからこそすごくスタイルを持っています。スタイルがある人もいればいない人もいる。頑張って手に入れることはできないんじゃないかな。そして、雑誌という存在は、スタイルがわからない人に道を教えてあげるためのものだと思っています。山に行く時の格好の話になりますが、山に行く時は宇宙飛行士みたいな格好をして行く人が多い。月面探検に行くわけでもないので、普段の格好くらいでも良いと思うんです。みんな、必要以上に機能的なものを着すぎです。お洒落にもうちょっと拘って格好良いものを着た方が良いんじゃないかな」。これまでに数多くのブランドを手がけ、成功と失敗を繰り返し、まさに山登りのような人生を送りながら、1000平米の倉庫2つを買い物でいっぱいにしてしまうほど、実際にものを使ってきたラムダンが言うからこそ説得力がある。


Interior & Tableware
部屋ごとにデザインが変わるが、これもすべてラムダンによるデザインというから驚きだ。「どの部屋も異なるコンセプトを持ち、どの部屋もユニーク。全く同じデザインの空間は一つとしてない。トイレでさえもね」とラムダンは話す。ダイニングの棚には自慢の陶器やカトラリーのコレクションが陳列。夢中になって集めたり、自分で作ったりしているという。

ラムダン・トゥアミ
オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーを成功に導いたことで知られるアーティスティックディレクター。セレクトショップ “アンド・エー” 立ち上げ時のアートディレクションを担い、フランスの老舗キャンドルメーカー“シールトゥルードン”を妻のヴィクトワール・ドゥ・タイヤックとともに再建。現在は、クリエイティブ エージェンシー “アート ルシェルシュ インダストリー” の代表やスイスのホテル “ドライベーグ・ホテル” のオーナー、昨年オープンしたパリのセレクトショップ “ワーズ サウンズ カラーズ アンドシェイプス” ほか数多くの事業を手掛ける。

Photo Angele Chatenet Coordinate Ko UeokaInterview & Text Takayasu Yamada

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