Silver No.13 MUSIC SOMEWHERE DIFFERENT BRANDEE YOUNGER

古典と現代が溶け合う 魅惑のジャズハープ

古典と現代が溶け合う
魅惑のジャズハープ

ハープの音色は優雅でエキゾチックだ。ドロシー・アシュビーを聴くようになってから、その音色に特別な魅力を感じるようになっていたのだが、ブランディー・ヤンガーというハープ奏者が先月リリースしたニューアルバム『Somewhere Different』にはモダナイズされた新たなハープの個性と魅力が溢れていた。

ブランディー・ヤンガーは1983生まれ、ニューヨーク出身のハープ奏者、作曲家、エデュケーター。ファラオ・サンダース、チャーリー・ヘイデン、ジャック・ディッジョネットら、ジャズのパイオニアを始め、ローリン・ヒル、ジョン・レジェンド、コモン、ザ・ルーツ、ラヴィ・コルトレーンなど、R&B~ヒップホップアーティストとの共演からも注目を集めている。また音楽院や大学でマスタークラスを担任するなど、音楽家だけでなく教育者としての一面も持つ。

今作『Somewhere Different』はジャズの名門、インパルスからのデビュー作品としてリリースされ、R&B~ヒップホップなど現代的な音楽の要素を交え、これまでにないハープの新境地を開拓しながらも、ドロシー・アシュビーや、アリス・コルトレーンといったジャズハープの先人たちへの敬意を感じさせる内容となっている。そして本作のいくつかの曲が、ヴァンゲルダースタジオ(以下RVGスタジオ)でレコーディングされたということも是非知っておいて欲しい。RVGスタジオは、レコーディング・エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーによって数々の名だたるモダンジャズの傑作の録音が行われた伝説のスタジオ。元々はアメリカのニュージャージー州、ハッケン・サックにある彼の実家の一室で録音を行っていたというが、1959年にイングルウッド・クリフスに新しいスタジオを構えた。ブルーノートやインパルス,CTIをはじめ、ジャズ名門レーベルから出た多くの作品にはヴァン・ゲルダーのクレジットが刻まれており、イングルウッド・クリスフでは、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、ハンク・モブレーなど名だたるミュージシャンの傑作が生まれた。

その録音技術の秘密は彼の生涯を通して厳重に守られていたため、彼の死後、そのテクニックは一代の伝説となってしまったのだが、スタジオは現在もミュージシャンのパフォーマンスの場として残されている。そのような歴史ある場所で生まれたこの作品には、彼女の美学やクラフツマンシップが投影されているに違いないし、先達の残した歴史を継承しながら、ジャズだけでなく彼女がこれまで親しんできたR&Bやヒップホップなどと融合させた自由で挑戦的なスタイルはハープの音楽史にさらなる進化をもたらしている。ハープの新たな可能性に挑戦し、クラシックとモダンが交差したこの『Somewhere Different』は、時を経ても聴くたびに新しい発見がある作品であり続けるだろう。共に過ごして心地のいい音楽は、この先もずっとレコード棚に入れておきたいし、年を取っても大切にしたい。長引くコロナ禍 の生活は、気の疲れを感じることも少なく ない。良き音楽で全て解決とはいかないけ れど、彼女の奏でるハープの音色には私たちを癒し、楽園へと誘う魅惑のグルーヴが秘められている。

Brandee Younger
1983生まれ、ニューヨーク出身のハープ奏者、作曲家、エデュケーター。ドロシー・アシュビーや、アリス・コルトレーンの残したジャズハープの軌跡を継承しながらも、自身のルーツにある音楽を取り入れた独創的な音楽スタイルでジャズハープの新境地を開拓している。名だたるアーティストらとの共演でも注目を浴び、2021年に名門ジャズレーベル、インパルスからのデビューを果たした。

Photo Tajin HiramotoSelect & Text Mayu Kakihatahttps://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008337388

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