754gallery by Keisuke Nagoshi a photographer living like a Nomad

辺境で出会う新たな目線 写真家 名越啓介のギャラリーがオープン

ロサンゼルスのスクワッターやコンプトンのチカーノ、フィリピンのスモーキーマウンテン、インドのサーカス団など、世界中を旅しながら実際に被写体のコミュニティーで寝食をともにしてシャッターを切り続ける写真家 名越啓介。10代の頃に撮った一枚から今日に至るまでの写真達を、実際に名越と対話しながら鑑賞できるギャラリーが学芸大学にオープンした。これまで見てきた景色や重ねてきた体験、ギャラリーという空間に期待すること、写真界の名言である「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」という名言を引用して語った名越の写真論を聞いた。

ショーウィンドウのようなギャラリー

ギャラリーは、学芸大学駅から徒歩10分ほど。商店街の一角、バス停の目の前に位置する。道路に面して一面ガラス張りとなっており、バス停で待つ人々はもちろん、停車したバスの中からもギャラリー内の作品がよく見える。「昔ニューヨークのウォール街を通りかかったとき、デパートの路面に面したショーウィンドウがアートギャラリーになっているのを目にして。その時から、自分の作品を常に発表できる場所っていうのを探していたんです」。
ギャラリーでは名越が在廊して、来場者と対話をすることを重視するという。対話を求める姿勢は彼の写真への向き合い方を示す。「大きな場所で展示する時は、人にちゃんと説明しきれないまま終わってしまうこともあって。自分の写真は、言葉でも伝えることでより理解してもらえることが多い。写真の解釈ってやはり自由で、いつも自分のベストだと思う写真が実際は全然見られなかったりします。でもそれで良くて、こっちの写真の方が良いんだとか、こんな風に思うんだとか、人に見てもらうと発見が常に沢山ある。これってなんなんですか、みたいなところから、その人の人生と何かこっちの人生が触れ合う瞬間があればいいなと思って。そういうところから次の何かが生まれたりします。そういう機会が増えれば純粋にいいなと思って」。

対話が世界の見え方を変化させる

世界中を旅し、被写体のコミュニティーで実際に生活をともにしながら撮影を続けてきた名越は、対話を通して純粋で嘘のない世界を映し出してきた。「なるべく時間をともにしながら、無理のないところで人の喜怒哀楽みたいなものを撮影できてたらいいなと思っていて。それは時間をかけたからいいっていうものじゃないんだけれど、やはりスモーキーマウンテンでも10年ぐらいかかったし、ファミリアという作品では3年ぐらいテーマとなる団地に住みました。やっぱり被写体はどんどん変わっていくし、その人のところに自然と入っていけるような形でやっていけたらいいなと思っています」。
客観的に切り取るジャーナリズム的なアプローチを行わない理由には、対話がうむ目線の変化にあるという。「実際に行けば、かわいそうとかじゃなくて、こっちが想像していなかった解釈や日常があります。彼らにとっては当たり前だと思っていることもいっぱいあったりとかして。フィリピンのゴミ集積所、スモーキーマウンテンに行った時に、イギリス人のお金持ちがやってきて、スモーキーマウンテンに住んでいる家族に家を買ってあげると言って、次の日からタワーマンションに住むことになった家族がいました。そしたらね、2週間後に彼らは帰ってきた。居心地が悪いって言うんですよ。かわいそうと思うのは、外部の人が勝手に思うだけで。実際にそこに行くと、現実は違っていることが多いです。そのことを経験した時に、1歩踏み込めたら見える視点ってあるなと気付きました。よくあるテレビとかで、お涙ちょうだいみたいなやつ。可哀そうとか、ちょっと変だなと思っていて。ゴミ集積所で生活している人とか、貧しくて死んじゃった人とか、いっぱいそういう現場を見てきたけれど、実際にどっちが荒んでいるのかなって思った時に、どっちなんだろうなって。例えばブラジルの団地に行っていた時期に、日本人が自殺する数とブラジルで殺される人の数が同じぐらいになった時がありました。殺されるのと自殺するのはどちらが不幸なのか。どちらが幸せなんだろうみたいな不思議な感覚になったりとかして。そういう目線になれるような距離感だったり、時間のかけ方だったり、一緒に生活して対話してみたりというのは、ずっと僕の活動の軸にあります」。


過去はいつも新しく
未来はつねに懐かしい

ギャラリーのオープンに際して、室内には10代の頃に撮影した初めての作品であるロサンゼルスのスクワッターの写真から、今日に至るまでの作品が一同にみられるようにレイアウトされていた。過去の写真と対峙することに関して、自らの写真を見ることは新たな角度から自分自身を見つめることになったと語った名越は、写真界の名言を引用した。
「今の自分という人間があるからこそ、30年前の写真を見たときに新しい発見がいっぱいあるんですよね。『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』という言葉があるんだけれど、写真ってまさにそれだなと。シャッターを押せば、その瞬間から過去に突き進んでいく。突き進んでいけばいくほど、それが新しい発見に繋がっていくというものと、先に進んでいく未来っていうのは懐かしさでしかない。ギャラリーで写真を見てもらい、自分自身もその過去の写真を見ることによって、新しい発見がある。作品が新しく生まれ変わるんです」。シャッターを押すことで出会う、過去と未来による今の自分への問いかけ。その問いかけは新たな自分を見つめるきっかけとなり、自身の次のクリエイティブに繋がるのだという。

名越が10代の頃に撮影した初めての作品。ロサンゼルスで出会った同世代のスクワッター(不法占拠者)を撮影。写真を囲うマットは当時白で、30年の月日をかけて今の日に焼けた色になったという時間の経過が表れている。

3つの真実と1つの嘘
初期衝動が写す面白い写真

自身の初めての作品を見ながら、当時の初期衝動について振り返った。「知り合いの人に、世界を旅するならカメラを持って行った方が良いとアドバイスをいただいたんです。その一言がきっかけで写真を撮るようになりました。当時の写真を改めて見ると、何も考えていない時に撮った写真は初期衝動だと感じます。これを超えるものはなかなかない。別にこれがベストの写真だとは思わないけれど、もしかしたらこれを超えてくる何かがあるのではないかというのが、僕が写真を撮り続ける永遠のテーマです」。
続けて名越は、自身の考える「面白い写真」について話してくれた。「何も考えずに撮っていたのが、だんだん上手くなってくるじゃないですか。ただいい写真が撮りたいというだけでずっとやってきているから、小手先でうまくなって、実はどんどん下手になる、面白くない写真になってしまうのが嫌で。ずっと新鮮な目で物事を見たい。例えば、人の死と最初に直面した時はレンズを向けることすら大変だったけれど、慣れてくると動きがこなれてくる。先日、友達が亡くなった時に撮影した写真を展示したのですが、シャッターを全然押していなかった。カメラは持っているけれど、何にシャッターを押せば良いのかわからなくて。いろいろなことを考えながら撮っている時の、その変な違和感が面白かった。それでも全てが新鮮になるわけでもない。写真には、3つの真実に1つの嘘があるから面白い。人間ってそういうものじゃないですか。見たように真実だとつまらない。写真も同じで、そういうものでありたいと考えています」。

今後も世界中を旅しながら作品にとり組むことは変わらず、旅の合間で在廊するようだ。ギャラリー内の空間は、全て名越自身の手で作り上げられる。名越による写真のみの展示を基本としながらも、今後は様々なコラボレーションの構想とともに、2ヶ月に一回程のペースでテーマを変えながら、ワンテーマずつの展示を予定しているという。ギャラリーを訪れ、写真を眺めながら名越と対話することは、現在の自分に対する過去と未来からの問いかけに耳を澄ませるきっかけとなるだろう。きっとそれは、自分の見る世界が目線によっていつだって可変であることを思い出させてくれる。

754 GALLERY
住所:東京都目黒区中央町1-1-3
日時:10/8(木) – 10/14(水) 14:00-20:00
*上記日時以外は予約制。
https://www.instagram.com/754gallery
https://www.instagram.com/keisuke_nagoshi
https://lin.ee/QZq3AoS

名越啓介
1977年生まれ。写真家。19歳でアメリカに渡り、スクワッターとの共同生活の中でカメラを手に取り、写真を始める。その後も世界中の辺境を旅しながら撮影を続け、14冊の写真集を発表。最新写真集では、サハラ砂漠のトゥアレグ族と旅をした、SUICOKEとのコラボレーション「DUNE」を発売。現在も旅を続けながら精力的に活動を続けている。

Photo  Naoto UsamiInterview & Text  Shido NanriEdit  Yutaro Okamoto

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