Cactus Store for Goldwin The Resilience of Wild Plants

ナマクアランドから見つめ直す 大自然の一部としての人間

ロサンゼルスを拠点に、世界のプランツカルチャーを牽引するカクタスストアが、日本を代表するテックウエアブランドであるゴールドウインと特別なプロジェクトを進めているという。舞台となったのは、南アフリカ北西部の乾燥地帯、ナマクアランド。カクタスストアのメンバーはゴールドウインのサポートのもと、フォトグラファーのアンディとともに現地でフィールドリサーチとドキュメンテーションを行い、そこで得たインスピレーションを一つのコレクションとして形にした。極限環境で独自の進化を遂げた植物たちを目の当たりにし、彼らのクリエイティビティはどのように刺激されたのだろうか。

過酷な環境をものともしない
圧倒的なレジリエンス

クタスストアのメンバーの一人であるマックスが開口一番で熱く語ったのは、彼らがサボテンや多肉植物に注ぐ純粋な情熱だった。それは園芸の域を超えた、生命そのものへのリスペクトだ。「私たちがサボテンや乾燥地の植物に魅了される一番の理由は、彼らが持つ”生き抜くための力強さ”です。サボテンや多肉植物は、ある意味でこの地球上に存在するエイリアンのようだと感じることがあります。ほかの植物が到底生きられないような過酷な環境のなかで、独自の生存戦略を発達させて繁栄しているからです。地球の気候変動のエクストリームさが過渡期にある今こそ、多肉植物はそのなかで繁栄する方法を突き止めた、究極のシンボルのように存在している。だからこそ、彼らから学ぶべきこと、そして学ばされることは、いつまで経っても尽きないのです」。

植物探索は
まるで大地の天体観測

ナマクアランドの広大な大地には、何百年も生きている植物らがいたるところに自生している。ほんの数センチという小ささでひっそりと佇んでいる彼らにピントをあわせるのは、至難の業だ。「私たちが現地で見つけ出そうとしている植物は、意識しなければほぼ100%見過ごしてしまうような植物たちです。現地でリビングストーンと呼ばれる多肉植物は、周囲の小石のパターンや形状に完全に同化し、見事にカモフラージュをしています。花が咲いていない時期は、ただの地面のようにしか見えません。今回のフィールドリサーチは、自分の目を鍛え直すための訓練となりました。壮大な山々のなかにいるのに、私たちのターゲットは小さな硬貨ほどのサイズしかないのです。見つけるためには手のひらと膝を地面につき、這いつくばるようにして進まなければならない。それは我々の存在を小さく感じさせる、なんともハンブリングな経験でしたね。周りから見れば、大自然のなかで鍵を落として必死に探している、おかしな集団に見えたに違いありません」。

温室という管理された環境から一歩外へ出て、ナマクアランドの野生に身を置くとき、人間と植物のパワーバランスは完全に逆転する。そこには、人間が自然の管理者であるという思い込みを、根底からひっくり返すようなダイナミクスがあった。「私たちがロサンゼルスに構えている大きな温室では、人間が水をやり、環境をコントロールする管理者として存在しています。しかし、いざ大自然に足を踏み入れると、その支配関係は完全にひっくり返ります。私たちは自然をほとんどコントロールできていないという事実をダイレクトに思い出させてくれるのです。今回の旅を案内してくれた現地ガイドのカレルの存在も大きかったですね。彼は元警察官でラグビーチャンピオンという巨漢でありながら、世界的な植物学者も驚くほどの知識を持っています。広大な土地から植物の自生地をピンポイントで探し出す彼の第六感を頼りに、私たちは通常のルートでは入れないエリアへと入ることができました。そこで強く感じたのが、今回のコレクションの核心でもある『EARTH DOES NOT BELONG TO MAN. (地球は人類の所有物ではない)』という哲学です。人間は地球の主人公でもなければ特権的な管理者でもなく、ただこのランドスケープに暮らす一つの動物に過ぎない。その謙虚さを持ち続けることが、私たちのすべてのクリエイティブの核心です」。

衣服に込めた
植物たちへのメッセージ

衣服というプロダクトを通して、自分たちの思想を世界へ投げかけること。それはカクタスストアのボスであるカルロスやマックスらが、ただの植物屋という枠組みを超えてこれまで挑戦し続けてきたことでもある。ゴールドウインとの共鳴も、そんな実験的な哲学のなかで生まれた必然だったのかもしれない。「今回のコレクションは、ある意味で私たちがナマクアランドという場所と植物たちに捧げたラブレターです。アメリカの多肉植物界の第一人者であるスティーブン・ハマーは『植物の学術的な記載とは、一通のラブレターである』と言いました。科学的な文献ではなく、純粋な愛の告白なのだと。私たちは、今回ゴールドウインと作った衣服が、街を歩く小さな思想のビルボードになってほしいと願っています。着る人が心地よいだけでなく、それを見た人たちが『これは何だろう』と考え、知的好奇心や疑問を持つきっかけになるような、アイデアを世界に連れ出すためのツール。それこそが私たちがゴールドウインとともに作り上げた衣服のあり方です」。

自然や植物に対する彼らの視点は、人間と植物の関係性そのものを問い直すものだった。自ら移動することのできない植物は、その場に留まりながら、生殖や種子散布のために周囲の生き物を惹きつけるしかない。私たちがサボテンや多肉植物に魅了されるのも、人間側からの一方的な憧れではなく、むしろ植物たちは自らの繁栄のために、その美しさによって人間を動かしているのかもしれない。今回、ナマクアランドを旅し、ゴールドウインとコレクションを作ったことさえ、動くことのできない彼らが編み出した生存戦略の一部ではとも思えてきた。まさに、生き抜くためのしたたかさ、レジリエンスなのである。

Tシャツとバンダナのグラフィックは、ナマクアランドで感じた“主客の反転”という感覚を視覚化したものだ。あえてバッタや小さな草花といった、普段は見過ごされがちな生命をモチーフに選んだのも、人間中心の視点をリフレームするための試みだとカルロスは語る。
T-Shirt ¥14300 by Goldwin (Goldwin Customer Service Center)

このシャツは、無地の生地を果てしない大地に見立て、隅に一輪の野生花を配置したデザイン。全面を花柄で埋めるのではなく、広大なナマクアランドのなかに漂う生命の儚さを表現しているという。
Shirt ¥29700 by Goldwin (Goldwin Customer Service Center)

Bandanna ¥3850 by Goldwin (Goldwin Customer Service Center)

カクタスストア
ロサンゼルスを拠点に活動する植物カルチャーを横断するクリエイティブ集団。多肉植物やサボテンのセレクトショップという枠組みを超え 、テラコッタの鉢やアパレルのデザイン、彼らのスタジオ「Geoponika」を通じたランドスケープデザイン、さらには植物学者に焦点を当てたドキュメンタリー映画の制作まで 、植物を軸とした多様な文化的アプローチを展開。世界中のコレクターやクリエイターから熱狂的な支持を集めている。


https://www.goldwin-global.com/jp/

Photo  Andy Kennedy-Derkay.Interview & Text  Samuel Pattison
Edit  Yutaro Okamoto  Samuel Pattison
Special Thanks  Tadayoshi Kono (THE SUCCULENTIST®)

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