Bridging between City and Nature

都市と山のカルチャーが交差する NYの山道具屋 CONTRASTO

広大な敷地を誇るマッカレン・パークやクライミングジムがあり、ランナーやクライマーが多く集まるニューヨーク・グリーンポイント。ほど近くには、ハイブランドの路面店が立ち並ぶウィリアムズバーグも賑わう。そんなスポーツとカルチャーが交差するこの街に、山道具屋の「コントラスト」は今年の3月にオープンした。自身のブランド「ナッシンスペシャル」を手がける松岡諒、ブルックリンでコーヒーショップ「PPL」を営むトモ、そして、ミッドナイトピザクラブのメンバーでもある映像ディレクターの上出遼平。3人のオーナーが実際に店頭に立ち、日々客を迎えている。

都市と自然それぞれの
コントラストを表現する

ニューヨークの街と山は一見結びつきがないように思えるが、実際には、車に1時間乗れば山へ、2時間ほどでフライフィッシングの聖地へアクセスできるなど、自然と密接な関係にある。「コントラスト」という名前は、そんな都会のカルチャーと自然のカルチャーの“コントラスト”が由来している。幼い頃からストリートカルチャーに親しみ、12年前からニューヨークで自身のブランドを展開してきた松岡。数年前からロッククライミングに夢中になり、街と山を行き来する生活を送るようになった。「シティでクリエイションをして、山へ行き、また街へ帰ってくる。その繰り返しの中で、たった1時間で全く異なるカルチャーに触れられることに感動したんです。その感覚を僕は“コントラスト”と呼んでいて、それを表現できる場所を作りたいと思ったのが始まりでした(松岡)」。

山がつないだ3人の出会い

松岡は、当初は自身のブランドを実際に手に取ってもらうためのセレクトショップを構想していたという。その際、以前から大好きだったトモのコーヒーショップをショップインショップとして迎えたいと考え、声をかけた。しかし、資金面の問題から計画は一度白紙になる。転機が訪れたのはそれから約2年後。松岡とトモが毎週ロッククライミングをしに山へ通うようになった頃だった。2人の間で、「山道具屋として計画を一から組み直そう」という話が持ち上がる。そして店名が決まり、協力者や資金も集まり始めた頃、共通の友人を通じて、同じく山道具屋を開きたいと思っていた上出と出会った。「ニューヨークには僕がやっているロングディスタンスハイクの代表的なコース、アパラチアントレイルが通っているんです。しかし実際に歩こうと思うと必要な道具を揃えられる店が意外と少ない。ネットで買うのが主流ですが、アウトドアギアは特にフィッティングが重要なので、実店舗の需要は僕以外にも絶対にあると思いました(上出)」。ただ、3人は最初から山道具屋を始める目的で会う回数を重ねたというわけではないという。週末にキャンプやロッククライミングへ一緒に出かけることが増えるうちに、その延長線上で物件を見に行くようになったそうだ。山で本音を交わし合う時間を重ねるなかで、互いへの信頼も深まっていった。

こうしてスタートしたコントラストの店内の9割は山道具が占めており、“必要な山道具が揃う店”を目指しているという。そのほかにはアパレル、写真集、古いアウトドア雑誌のアーカイブなどが並び、アパレルには松岡のブランドに加えて、友人のアーティストが作っているアイテムも展開されている。アイテム選びで共通しているのは“自分たちが実際に使って気に入ったもの、信頼できるものをセレクトする”という考え方だ。コーヒースタンドではトモが手がける自家焙煎のコーヒーを提供。ペイストリーシェフがこの店のために作るグルテンフリーのお菓子が評判だ。内装はほとんど自分たちで手がけており、全体のレイアウトや設計は松岡が担当。店舗デザインに使用するカラーは3色までに絞り、カラフルなアウトドア用品が彩ることを想定したミニマルなデザインにした。「店を自分たちで手作りすることは構想が始まった頃から決めていました。自分で作った内装は寸法からズレている部分があっても可愛くて仕方がないんです(松岡)」。

オススメの商品として上出が挙げたのは、ヘリテイジのクロスオーバードームf。「とにかくシンプルで軽くて長持ちするんです。ただ、使い手と作り手の信頼関係があって初めて成立する道具でもあります。使い方を間違えれば破れるし、快適さも損なわれる。けれどメーカーは使い手がそれを理解することを前提に作っている。ひとつの目的のために極限まで削ぎ落とされているところに日本らしい美学を感じます(上出)」。

店内の一部のラックはニューヨークの自転車ブランド、ブルックリンマシンワークスに依頼して制作してもらったもの。同ブランドを代表するバイク「ギャングスタ」の無骨なデザインを踏襲した、剥き出しの鉄フレームが空間のアクセントになっている。
人が集まり
山へ向かう場所

目的がなくてもふらりと立ち寄れるアットホームな雰囲気もこの店の魅力だ。コーヒーを飲みながら本を読む人、スピーカーの音に耳を傾ける人、メディテーションをする人。それぞれが思い思いの時間を過ごしている。訪れるのはファッションデザイナーや映像作家、スピーカービルダーなど、ものづくりに携わる人々も多い。「10年間ニューヨークでブランドを続けてきたので、そのコミュニティの友人がまた友人を連れてきて、少しずつ輪が広がってきた感覚があります(松岡)」。コーヒーカウンターに立っていても、この場所から新たなコミュニティが生まれつつあることを実感するという。「日に日に常連さんが増えて顔なじみになってくるし、常連さん同士で会話が生まれているんです。そういう様子を見ていると、ローカルなコミュニティがここから少しずつ広がっている感覚があります(トモ)」。そんな風に人が集まる場所でありながら、最近では当初目指していた“必要な山道具が揃う店”としての認知も広がり始めている。「先日、クライミングの遠征で来ていた女の子がガス缶を買っていったんです。クライマーにとって、どこで燃料が手に入るかは毎回の課題なんです。登る山の近くにある山道具屋は必ずチェックします。そういう人たちがガス缶を買いに来てくれるようになったのは、山道具屋として認識され始めた証拠だと思いました(上出)」。

コントラストの3人と本企画の撮影をしてくれたフォトグラファー、佐藤康気が以前一緒にキャンプに行った際の記録。ニューヨーク州のキャッツキル山脈にあるジャイアントレッジという崖を目指して登った。
山に行くことで
街を好きになる

ニューヨークでは幼い頃からハイキングに親しむ人が多い。学校行事として山へ行く機会も多く、週末に映画館へ行く感覚でハイキングへ出かける文化が根付いているそうだ。山に入ることは、ひるがえって街のことが好きになれる体験であると3人は口を揃える。「山に2週間入って降りてきた時に初めて見る電線って、ぐっとくるものがあるんです。この電線のおかげで日頃の快適な生活が送れているんだなと感謝の気持ちが湧きます(上出)」。自然の中で不便さを経験することで、普段は当たり前だと思っている日常の豊かさや、人とのつながりの大切さを改めて実感できる。「コントラストの道具を使って多くの人に山遊びを楽しんでもらえるような、山のカルチャーの発信地になっていけたらと思っています。将来的には都会の文化と自然の文化を互いに尊重し合えるような価値観が広がっていったら嬉しいです(松岡)」。異なるカルチャーのコントラストを体感することで、それぞれの魅力はより鮮明になる。コントラストは今日も都市と自然をつなぐハブとして人々を迎え入れている。

CONTRASTO
82 Dobbin St, Brooklyn, NY, 11222 United States

Photo  Koki SatoInterview & Text  Ayuko HashimotoCoordinate  Shimpei Nakagawa

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