The Craft in a Jacket - SETCHU
デザイナー桑田悟史の手掛ける 型破りなジャケットスタイル

サヴィルロウの厳格な伝統と現代の軽やかなライフスタイル。その二つを桑田悟史はセッチュウという名の哲学で繋ぎ合わせ、日常の旅へと誘う。世界最高峰の技術をあえて崩し、新たな価値を掛け合わせることで生まれる、ボーダレスな新しいスタンダードの核心に迫る。
世界最高峰のビスポークの聖地であるサヴィルロウ。桑田はそこで蒸気と水だけで生地を立体的に操る技術を磨いた。しかし、彼はその技術や伝統を守るためではなく、新しい造形を生むために使い始めたのであった。「サヴィルロウの完成された美しさには魅了されましたが、完璧すぎるがゆえの退屈も感じていました。ルーツに持つ伝統的な仕立ては、体を補正し構築していく彫刻的な手法です。私はその優れた技術を単に継承するのではなく、現代のファッションと掛け合わせることで、可能性を何倍にも膨らませたいと考えました。目指すのは、伝統のオーラで圧倒することではなく、隠れたディテールで『あっ』と言わせる驚きです。完成された形だけでなく、あえて崩した部分に宿る面白さや、つくる過程そのものを見せたい。伝統的なアプローチを今の時代に溶け込ませ、まだ誰も見たことのない色を生み出すことに私は挑戦し続けています」。
記憶の残像が
デザインになる旅の服
時間をかけてものの本質を理解し、ゆっくりと自分の一部にしていく。セッチュウのジャケットを羽織ることは、まるで一種の旅のような体験だ。「私たちが追求しているのは、ラグジュアリーな旅のためのクロージングです。卓越した技術と遊び心のある機能性の両立。そのように究極の旅のお供を作るうえで、私自身が旅をして何を得るかは非常に重要なのです。今はインターネットで何でも見れますが、現地に行かないと分からないことが必ずあります。メキシコの空気はどう違うのか、なぜトヨタの車は世界中で信頼されているのかなど、デザイナーとしてその本質を探りたいんです。あえて写真は撮らず、匂いや景色を自分の目に焼き付けます。たとえ記憶が少し歪んだとしても、自分の中に残った残像こそがデザインの源泉になるからです」。
着る人が主役になる
自由な一着
多くの人にとって、ジャケットは少し身構えてしまうアイテムかもしれない。しかし、桑田はジャケットこそが自分を表現する武器になると語る。「ジャケットは、自分のステータスや目的を相手に伝えるためのもの。仕事の面接では敬意や緊張感をまとい、オフの場ではリラックスした表情を見せる。そんなケースバイケースで役割を変えられるのが、ジャケットの本来の良さです。私たちが提案するのは、着る人が主体的に使いこなせる一着です。例えばエジプトのカイロに行き、昼間の市場ではラフに肩掛けし、夜のレストランでは同じジャケットをカチッと着こなす。機内ではカシミヤの心地よさに包まれて眠り、降りた瞬間にはそのまま打ち合わせにも行けてしまう。一着のジャケットが、その人のシチュエーションに合わせて役割を変えていくのです。そんな可変する面白さと実用性を、セッチュウの服を通してぜひ楽しんでほしいですね」。
伝統の重みを知り尽くしているからこそ、桑田はそれを軽やかに壊し再構築することができる。時代に流されない確かな技術と、どこへでも行ける自由な精神。その絶妙な折衷というコンセプトの先に、私たちの新しい日常が待っているのだ。



桑田悟史
サヴィルロウの老舗ハンツマンで研鑽を積み、カニエウエストのデザインチームやジバンシィなどの名だたるブランドのもとで世界のクリエイションを経験。2020年にセッチュウを始動し、2023年にはLVMHプライズ・グランプリを受賞。伝統と現代を折衷し、新たな美学を提示し続けている。
| Photo Naoto Kobayashi | Interview & Text Samuel Pattison |












