The Chic Destination in Tokyo Vol.1

粋と教養を学べる場所

東京には、教養と洗練を教えてくれる場所がある。こうした場所の魅力は、ただ何かを購入したりサービスを受けられる場所にとどまらない。その空間に身を置くことで、知的な遊び方を体験でき、日々の選択に“粋”を取り入れられるヒントがある。そんな、センスの良い人の交差点となっているお店を8店舗に厳選して紹介する。

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目の前に高橋是清翁記念公園の景色が広がる中央のテーブル席。室内にいながら緑に包まれるような心地よい時間を過ごせる。
Top
コーネルコーヒーでテイクアウトを行い、フリースペース「談話室」でランチやコーヒーを楽しむことも可能。一本脚で自立するエーロ・サーリネンのチューリップチェアとラウンドテーブルが並び、赤坂離宮の風景を楽しめる。
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カウンターの真後ろにはイサムノグチによる石庭が常設されており、作品を眺めながら寛げる。
Bottom Right
ロゴは、さまざまな要素を”こねる”という意味合いである店名の頭文字Cと、空間をデザインしたnendoのnを抽出し、グニャリと曲げるようにして2つの「C」を設計。オリジナルマグカップは持ち手部分を手でこねて作ることで、一点一点異なる形状となるようにデザインされている。
CONNEL COFFEE
丹下健三とイサムノグチが共鳴
街に開かれた眺望豊かなカフェ

「コーネルコーヒー」は、東京都庁舎や国立代々木競技場をはじめ、日本の近代建築を牽引した建築家、丹下健三により1997年に竣工された草月会館の2階に位置するカフェ。さまざまな要素をこねるように、沢山の人たちとの有機的なコラボレーションを行っていきたいという想いのもと、2016年にオープンした。イタリア直輸入の豆を使用したラテやティラミスをはじめ、ショーケースには、バリエーション豊富な11種類のランチボックスが並ぶ。コーヒー1杯550円から提供している良心的な価格設定も魅力で、近隣のビジネスパーソンから海外のクリエイターまで幅広い層が交錯する。空間をデザインしたのは、2025年日本国際博覧会のジャパンパビリオンの総合プロデュースを担当したことで知られる、デザインオフィスのネンド。丹下健三によって設計された当時のインテリアが残存していることや、イサムノグチによる傑作、花と石と水の広場「天国」の眺望の美しさを考慮して、天井や壁面には一切触れず、新たな造作壁も建てることなく、床と家具のみをデザインした。ガラス一面のカーテンウォールからは、高橋是清翁記念公園を眺めることができ、まるで全身が緑に包まれながら静かに染まっていくような不思議な感覚を体験することができる。そして、一度訪れてほしいのが隣接するフリースペース。竣工当時から使用されてきたエーロ・サーリネンのチューリップチェアが並び、赤坂離宮の風景を眺めながら、凛とした静けさに満たされるひとときを味わえる。また、草月会館ではさまざまな取り組みを行なっており、現代美術家の髙橋大雅の展覧会やファッションショーを開催するなど、ジャンルを超えた創造活動の発信地としても機能させている。この特別な空間を特別に扱うのではなく、誰にでも自由に開放しているのは、いけばな草月流の創始者である勅使河原蒼風の思想が現代でも色濃く受け継がれているからだろう。日本の美意識を学べるスポットはほかにも多く点在するが、世界的な作品をコーヒー1杯とともに気軽に愉しめるのは、コーネルコーヒーならではの魅力だ。

CONNEL COFFEE
東京都港区赤坂7-2-21
03-6434-0192

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2階席からの店内の眺め。ライブ鑑賞はもちろん、土日祝日限定でランチ、カフェとしても利用可能。
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自家農園や契約農家の新鮮な野菜を使った料理のほか、シーフードプラッターやシトラスハーブのローストチキンなどが味わえる。
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ブックディレクターの幅允孝による選書コーナーも見応えがあり、“人と人”、“食と季”などテーマ別に並ぶ。
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ライブでは国内のジャズミュージシャンを基本としているが、海外からの来日公演も多数あり。9月29日、30日にはネオソウル系の気鋭シンガーソングライター、ネクター・ウッドのライブも控えている。
BLUE NOTE PLACE
一流の音と一流の食で届ける
恵比寿の新たな社交場

「ブルーノート・プレイス」は、“一流の食と一流の音楽”を融合させた新しい体験の場として、恵比寿ガーデンプレイス内に2022年にオープン。地上の広場に面していることで窓からは外の景色が広がり、地下のライブハウスとは異なる心地よい穏やかな気分を味わえるのが特徴だ。内装を手掛けたのは、乃村工藝社のA.N.D.チーム。ブルーノート東京のデザインにも携わった小坂竜が主体となり、1階と2階を吹き抜けにするなど大幅なリノベーションを行った。ジャズクラブというよりもダイニングのような空間で、通路の動線にも余裕をもたせながら、椅子の座面は広く設定されているため、何時間でも居座りたくなるようなリラックスした時を過ごせる。ライブステージは表通りに沿って配置することで360度違った景色で音楽を楽しめ、利用シーンに合わせて鑑賞することができる。象徴的な大きなペンダント照明は楽器の弦を使用して製作するなど、空間作りの細部からも同店らしい音への愛情を感じとれる。当然だがスピーカーにもこだわり、Taguchiブランドを各コーナーの設計に合わせて特注でオーダー。座席からの迫力はもちろん、化粧室の中までどこにいても音に包まれる感覚を体験できる。料理のテーマはモダンアメリカン。ジャズ発祥の地、ニューオリンズの郷土料理をアップデートしたり、カリフォルニアの自然派料理のスタイルを取り入れるなどオリジナリティに富んだメニューが並ぶ。例えば、牡蠣やつぶ貝が入った魚介のシーフードプラッターや、皮をパリパリに焼いて数種類の柑橘とハーブでマリネしたシトラスハーブのローストチキンなど。旬の食材に合わせたワインはすべてナチュールで提供し、常時70で、知的な遊び方を体験でき、日々の選択に“粋”を取り入れられるヒントがある。そんな、センスの良い人の交差点となっているお店を8店舗に厳選して紹介する。種類ほどを用意する。出演アーティストは、新進気鋭のジャズを基本線に、ジャンルを横断。いつものライブ編成とは異なるお店ならではの特別編成で観られることが多く、ジャズファンからライト層まで幅広く満喫できる内容となっている。音楽が溢れる街作りを目指して発信し続けるブルーノート・プレイス。誰でも、どんな時でも楽しめる大人の社交場として、今日も音をはらんだ風を届ける。

BLUE NOTE PLACE
東京都渋谷区恵比寿4-20-4 恵比寿ガーデンプレイス
03-5485-0007

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世界各国から集めた「オリジナリティと持続性のあるデザイン」を基準に、バリエーション豊かなコレクションをラインナップする。
Top
予約制のサロンとして機能する、オークルーム。ビンテージ眼鏡のほか、ゲルノット・リンドナーやレスカ・ルネティエなどクラシカルな眼鏡が並ぶ。アメリカ在住時に取得したオプティシャンの資格を持つオーナーが精度の高い検眼を行い、その後は来客に合わせたパーソナルなアイテムを提案。
Bottom Left
オークルームでは、眼鏡にまつわるユニークなオブジェが陳列されているのも見どころで、こちらはビンテージの眼鏡スタンド。
Bottom Right
バウハウスに強く影響を受けたフランス人デザイナーによるブランド、アーレム。機能的かつラグジュアリーなコレクションを展開する。
GLOBE SPECS SHIBUYA
知性と洗練が息づく
世界が微笑む眼鏡店

1998年に渋谷で店舗を構えた眼鏡店、「グローブスペックス」。世界中を駆け巡って集めたオリジナリティ溢れるアイウエアが並ぶ。世界的にも常に注目されるお店で、ミラノで毎年開催される世界最大規模の国際眼鏡展示会「MIDO」においての金賞を、2017年に代官山店が、2018年に渋谷店が受賞し、2年連続世界一の眼鏡店として表彰された。そんな同店のオーナーを務めるのは、岡田哲哉。温かい人柄で懐が深く、おまけに洒落者。一度話せば誰もがファンになってしまう生粋のジェントルマンだ。お店をオープンする前の下積み時代は、ニューヨークにも店舗を構える国内の大手眼鏡店で研鑽。その後の二社目では、ヨーロッパを中心に活動するなど世界中を飛び回ってきた。そんな海外の生活で感じたのは、眼鏡の役割が日本とまったく異なったこと。それは当時、日本では見るための道具に過ぎない眼鏡が、海外ではおしゃれの道具として使用されていたからだ。「眼鏡をもっとポジティブで楽しいものにしたい」。そんな思いに駆られ、3人のメンバーで開業した。今でこそ日本でも当たり前になったスタイルとしての眼鏡だが、海外ではヘミングウェイやル・コルビュジェなどを代表するように、眼鏡は古くからスタイルを映す鏡でもあった。グローブスペックスではそんな歴史の教養を学べるスポットしても利用され、知性とセンスを磨く架け橋になっている。パーソナルサロンとして完全予約制で提案する3階のオークルームは、アンティーク家具に包まれた温もりのある空間で、オーナーとの会話を楽しみながら理想的な自分に出会える場所。人の魅力を最大限に引き出すデザインと機能性の両立を図った提案のほか、1910年代のヴィンテージ眼鏡など博物館級のコレクションに触れることが可能だ。そんな同店がオープン当初から大切にしていることは、世界一の眼鏡店になること。それは単に店舗数や売上を上げるのではなく、”世界一メガネを楽しんでもらえるお店作り”。新しい発見と驚きを感じながら、眼鏡を楽しむ生活をグローブスペックスから始めてみてるのはいかがか。

GLOBE SPECS SHIBUYA
東京都渋谷区富ヶ谷1-43-9 1F
03-5459-8377

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アンティーク家具とガランスカラーを基調とした店内。劇場用のオーディオのほか、所狭しと飾られた写真や絵画、ポスターなどが並ぶ。
Top, Bottom Right
スモールポーションではなく、まずは塊で見せてもらえることで食欲がそそられる「子羊の塊もも肉の炭火焼き」。柔らかな食感とほのかな甘みがあり、チュニジアのオリジナルスパイスを付ければ、エキゾチックでユニークな味わいが楽しめる。敬愛する小説家の北方謙三には「まーまーだったな」とフランス式の褒め言葉をいただいたという。
Bottom Left
ポピナガランス流のボンゴレ、「ゴースト」。一見シンプルだが、実は、あさりやパセリなど手間暇かけて姿が消えるまで溶かして調理されている。
Popina Garance
東京の雑種文化が 
感性と教養を磨く

白金高輪からの移転を機に2021年に麻布十番で再オープンした「ポピナガランス」。店主の星野哲也は、芝浦のウォーターフロントレストランやブラッスリー&カフェ「オーバカナル」のオープンに携わるなど、飲食の幅広いフィールドで腕を振るってきた人物だ。このお店で掲げるコンセプトは、“東京スタイル”。東京には世界各国の質の高い多様な料理が存在するが、それらを自由に混ぜ合わせることで、都心らしいオリジナリティのある創作料理が生まれるのだという。例えば、チュニジアのスパイスとともに味わう「子羊の塊もも肉の炭火焼き」や、「ゴースト」と名付けられた食材の姿が全く見えないボンゴレは、お店の定番だ。「誰もが手に入って、誰もが知っている料理だけど、全く違うアレンジを効かせています。あと、視覚的なインパクトやお客さんが食を実際に体験することも重要だと思っているので、羊肉にしてもご自身で切りながら食べてもらうようにしています」と店主。食のほかにも、お店の空間とともに五感を刺激されるのが、音へのこだわりだ。店主は音楽に造詣が深く、世界中の人が集うジャズ喫茶「ベイシー」のマスターの生き様を描いた映画で監督を務めている。店内でもジャズを中心とした音楽が流れ、時折りラテンミュージックで高揚感を高めてくれる。オーディオは、アルテックの劇場用スピーカーにアンプは「マランツ#7」と贅沢なセッティングで、ミュージックバーのような野生的なサウンドを体験できる。彼が敬愛するミュージシャンの1人にマイルス・デイヴィスがいるが、いい意味でファンを裏切りながら常に人を驚かせる姿勢は、店主とどこか重なる部分を感じる。最後に、飲食の楽しみ方について尋ねたところ「食や音楽、映画もそうですが、ある程度の素養があれば、そこにある体験は全く変わってくると思います。知らないことが良いこともありますが、僕自身もお客さんに日々、教えてもらいながら育てていただいています。食事に行かれる際は、お皿に乗っている料理と向き合い、好奇心や疑問を持っていただきながら楽しんでもらえると、見える景色が変わってくると思います」と語っていた。

ポピナガランス 
東京都港区南麻布1-5-32 中条ビル1F 
03-6809-6559

Photo  Takafumi Uchiyama
Masayuki Nakaya
Naoto Usami
Interview & Text  Tatsuya Yamashiro
Jo Kasahara
Edit  Tatsuya Yamashiro  Yutaro Okamoto

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